第121話 命がけの試練と、温存中の切り札
「はぁぁっ!!」
「ふんっ……中々やりやすねぇ!」
突如始まった勇者の試練。闘技場の中心では、魔法陣から現れた鬼、正確には過去の勇者の戦闘データを元に作られた模擬戦闘体との激戦が繰り広げられていた。
「ユウキ! 頑張るデス〜!」
強化魔法をかけ終えたマリアさんが、後方から元気よく声援を送る。
「高みの見物とは、随分余裕ではないか」
気づけば、いつの間にか俺たちの後ろに回り込んでいたユキさんが、興味深そうにこちらを見ていた。
「おぬしは戦わぬのか?」
「いや……えっと、僕は……」
俺は視線を戦場へ戻す。双剣を自在に操り、正面から攻撃を繰り出していくザックス。鬼はそれを余裕で受け流すが、その一瞬の隙を突き、ユウキくんの一閃が上段から振り下ろされる。完璧なタイミング。そう思った次の瞬間、ユウキくんの体が弾かれるように宙を舞っていた。
――うん。俺にはムリです!
俺は開戦して早々、この攻防に剣で参加することは諦めた。しかし魔法で援護しようにも、二人の動きが速すぎて割り込めない。
「あの程度の敵、二人で十分ということか」
何も言わない俺を見て、余裕の表れだと勘違いしたユキさんが、感心したように呟く。
「そ、そうですね……切り札は温存です」
俺は目を逸らしながら答えた。
「レオン。嘘は良くないデス」
マリアさんのジト目が突き刺さる。
「ちょ、マリアさん。これも作戦だよ」
なおもジッと見てくるマリアさんから逃げる様に話題を変える。
「それにしても、過去の勇者ってこんな修行してたんですね……」
「うむ。これくらいせねば魔王には勝てぬ」
「いや、魔王と戦う前に死にそうですけど」
俺は今もなお激しい戦いを繰り広げるザックスとユウキくんを見る。
「安心せい。ここでは死なん」
「……死なない?」
「この武舞台には蘇生の術式が刻まれておる」
ユキさんの視線の先、武舞台の側面を見ると、何やら模様が刻み込まれていた。
「骨が砕けようが、首が飛ぼうが、次の瞬間には、あっという間に元通り」
「え、怖……!」
「だから何度死んでも試練に再挑戦できるのじゃ」
「何度でも……それはまた鬼畜な……」
「む? 何か言ったかの?」
「い、いえ。何にも……」
いぶかし気なユキさんからの鋭い視線にさっと目をそらす。
「そんなすごい術式に魔力を供給するのは、さぞ大変でしょうね」
失言を誤魔化す為に話題を変えると、ユキさんはさらりととんでもないことを言った。
「いや、魔力は其方たちが担っておるからのう」
「……? どういうことですか?」
「人は皆、平時でも微量の魔力を放出してることは知っておるか?」
「……いえ。初めて知りました」
「そんなことも知らんのか。まあ良い」
やれやれと首を振ると話を続ける。
「この闘技場は、その放出された微量の魔力を吸収できるのじゃ」
「それは凄い! でもそれだけで足りますか?」
俺の疑問に、慌てるなと言った風に右手を突き出すユキさん。
「もちろんそれだけでは足りぬ」
視線が武舞台へと注がれる。
「一番多い魔力供給者は戦ってる本人じゃ」
「本人……ですか?」
「ああ。戦って消費した魔力を吸収しておる」
「あ、もしかしてあの模擬戦闘体も?」
「よくわかったのう。どうじゃ、すごいであろう」
俺の言葉に胸を張りながらドヤ顔をするユキさん。と、その時――。
ドゴォォン!!
轟音が響いて振り向くと、鬼が壁に叩きつけられ、崩れ落ちていた。
「ふぅ……何とか勝てた」
爽やかな笑顔でこちらに歩いて来るユウキくん。
「さすが勇者様でさぁ」
ザックスも肩で息をしながら戻ってくる。
「ほう。本当に二人だけで倒すとは」
「当然デス。あのくらい楽勝デス」
ブイサインで答えるマリアさんに首を振って抗議するユウキくん。
「いや結構ギリギリだったからね?」
「レオン様も加勢してほしかったっす」
「僕はほら……切り札だから」
「初耳なんですが……」
そんなやり取りを見て、ユキさんが満足そうに頷くと背後に魔法陣が出現した。
「では、試練を乗り越えた褒美をやろう」
光りが収まり、現れたのは二振りの剣。
「これは……ただの双剣ですかい?」
「ふむ。何が出るかは妾にもわからん」
「そうなんですね。えっと、本当に貰っても?」
ユウキくんが双剣を手に取りながらユキさんを見る。
「おぬしたちの魔力から生まれたものじゃ。好きにしたら良い」
「吸収した魔力からアイテムも作れるんですか?」
「模擬戦闘体と同じ原理じゃ」
俺とユキさんが話ていると、みんなの頭上に疑問符が浮かんでいた。俺は先ほど聞いた闘技場に施された魔力吸収の仕組みを説明する。
「なるほど。そう言う事なら遠慮なく」
そう言ってザックスに双剣を手渡すユウキくん。
「へ? これは?」
渡されたザックスは困惑顔。
「ザックスさんがもらってよ」
そんなザックスにユウキくんが笑いかける。
「そんな。あっしが貰うわけには……」
ザックスの言葉を遮ってユウキくんが言った。
「だって、俺じゃ双剣は使いこなせないし」
「私も剣は使えないデス」
「僕も無理だからザックスしか使えないよ」
そんな俺たちを見回してザックスが頷く。
「わかりやした。ありがたく頂戴いたしやす」
深々とお辞儀をするザックス。
「話は終わったか?」
黙ってみていたユキさんが口を開く。
「ではそろそろ二回戦目に――」
「ちょっと待って!」
「え? また戦うの?」
「さすがにきついんすけど……」
ユキさんを止めようとした俺たちを手で制すと、マリアさんがスッと前に出た。
「ここは私に任せるデス」




