第120話 隠された地下施設と、勇者の試練
「レオン様。本当に大丈夫なんですかい」
「心配ないって。僕にまかせてよ、ザックス」
「レオン様にそう言われると……不安になるんすけど」
バルトル領の広大な森を進みながら、俺たちは目的地を目指していた。
「心配性だな、ザックスは」
「そうは言っても、あの祠はあっしらが散々調べたんですぜ」
今俺たちが向かっているのは、以前ノクスの卵が封印されていた祠。先日、ベルゼの話で“地下に勇者関連の施設がある”と判明したため、改めて調査を行うことになったのである。
「地下なんて無かったんすけどねぇ……」
「ふっふっふ。我に秘策ありなのだよ、ザックスくん」
俺はビシッとポーズを決め、今回のために招いた“切り札”を指し示す。
「えっと……秘策って俺の事かな?」
「秘密兵器みたいでカッコいいデス、ユウキ」
少し戸惑った表情のユウキくんと、無邪気にはしゃぐテンション高めのマリアさん。
「てかレオンくん。なんでそんなノリノリなの?」
「だって勇者関連の施設だよ!」
俺は力強く拳を握る。
「観光地化すれば大儲けじゃん!」
――入場料、グッズ、飲食店……夢が広がる!
「オ~、レオンが欲にまみれた汚い大人になってしまったデス」
「マリアさん。“汚い大人”はやめて」
「“欲にまみれた”は良いんだ」
「そこは事実だから受け入れるよ」
「レオンが開き直ったデス……」
そんなやり取りを見ながら、ザックスが大きくため息をついた。
「はぁ~……お三方。目的地に着きやしたぜ」
視線の先には、以前と変わらない石造りの小さな祠。静かで、どこか寂れた雰囲気を漂わせている。
「わぁ~、懐かしいね」
ユウキくんが以前来た時の事を思い出しながら目を細める。
「それじゃユウキくん。勇者パワーでパパっと入り口を見つけて」
「がんばるデス。お宝が待ってるデスよ」
「いや、二人とも。もっと昔を懐かしむとかないの?」
俺とマリアさんは顔を見合わせ、同時に首をかしげた。
「ごめん。二人に期待した俺が間違ってた」
ユウキくんががっくりと肩を落とす。
「それと、勇者パワーなんてないからね」
「え? そ、そんな……」
膝から崩れ落ちた俺の肩を、ザックスとマリアさんがぽんと叩く。
「いきなり秘策が破られちまいやしたね」
「地道に探すしかないデス」
「うぅ~……僕の完璧な作戦が……」
「ふふふ。ほら、早くしないと日が暮れるよ」
ユウキくんが苦笑しながら祠の中へ入っていく。
「仕方ない……。みんなも行こうか」
それから数時間後――。
「……何もないね」
祠の隅々まで調べ尽くしたが、収穫はゼロ。
「そりゃ、あっしらが散々調べやしたからね」
ザックスが肩をすくめる。
「仕方ない、撤収するか……はぁ~、大儲けの夢が……」
未練たらしくため息をつきながら踵を返そうとした、その時――。
「レオン。こっち来るデス」
奥の部屋からマリアさんの声が響いた。急いで向かうと、部屋の隅に小さな台座があり、その上に透明な水晶球が鎮座していた。
「わぁ~、きれいだね」
思わず手を伸ばすがびくともしない。
「あぁ、そいつは……」
俺の横にやって来たザックスが苦笑する。
「あっしらも持って帰ろうとしたんすけど、無理だったんすよ」
「取れる気配ないね」
「うっす。それで諦めたんですわ」
「これ、何かの装置じゃないデスか?」
マリアさんの一言に、俺はハッとしてゆっくりと振り向いた。
「……ユウキくん」
「え、俺?」
「今こそ勇者パワーの出番だよ!」
「だからそんな力ないって……」
困惑しながらも、水晶に手を触れるユウキくん。
ガコッ!
ゴゴゴゴゴ……!!
スイッチのような鈍い音が響いたと思ったら、地面が揺れ、台座の奥の壁がゆっくりと開いていく。そして現れたのは地下へと続く石の階段。
「え? 本当に勇者パワーですかい……?」
「ワ~オ。レオンの秘策が当たったデス」
「ふっふっふ。計画通り!」
「いや、たまたまだよね?」
ドヤ顔で胸を張る俺を呆れた顔で見るユウキくん。
「と、とにかく。地下に降りてみよう」
誤魔化すように先頭に立って地下へと降りていく俺。そして階段を下りた先に広がっていたのは円形の巨大な空間。
「なにこれ……闘技場?」
階段状の観客席に囲まれ、中央には正方形の武舞台が設けられていた。
「天下一武道会みたいだね」
「願いをかなえてくれる神龍はどこデスか」
マリアさんがキョロキョロと辺りを見回す。と、その時だった。
「――ようこそ、勇者殿」
誰もいないはずの闘技場に突然響いた声。
「……誰だ?」
ザックスが腰の双剣に手をかけて警戒を強める。その視線の先、闘技場の中央には、いつの間にか一人の女性が立っていた。
――え? さっきまで、誰もいなかったよね……。
キレイな顔立ちをしているが、白髪の頭頂部にはけものの耳が付いている。どう見ても普通の人間ではない。すると女性は穏やかに微笑んだ。
「妾はこの施設の管理者、ユキと申す」
そして、その視線がユウキくんへと向けられる。
「さあ勇者よ。其方に“試練”を与えよう」
「は? 試練?」
戸惑うユウキくんをよそにユキさんが魔力を込める。その瞬間――。
ゴゥンッ!
闘技場の床が淡く光り出したかと思ったら魔法陣が浮かび上がる。
「うおっ!?」
「な、なんだ!?」
「おぉ……何かそれっぽい!」
思わずテンションが上がる俺。
「……レオンくん、ちょっと静かにしてて」
「あ、はい。ごめんなさい」
ユウキくんに真顔で言われて即座に謝る。すると――。
ドゴンッ!!
魔法陣から発せられていた光が弾けた瞬間、中から何かが飛び出してきた。
「……鬼?」
頭に角を生やし、筋肉に覆われた体は全身真っ赤だった。そしてその手には剣がにぎられていた。
「これは模擬戦闘体じゃ」
いつの間にか観客席へと移動したユキさんが説明してくれる。
「過去の勇者の戦闘データを元に強さが調整されておる」
「てぇことは――強いってことっすね」
それを聞いたザックスがニヤリと笑う。
「さあ勇者殿。見事こ奴に勝利してみせよ」
ユキさんが不敵に笑うと、ユウキくんがため息をつきながら剣を抜いた。
「はぁ~、やるしかないか」
「はいデス。こんなやつ私たちの敵じゃないデス」
勇者の試練が唐突に幕を開けた。
――いや俺勇者じゃないから関係なくない?




