第118話 皇子様との決闘と、託された想い人
「――さあ、いつでも良いぞ!」
バルトル城の裏手に併設された鍛錬場。乾いた風が吹き抜ける中、木剣を肩に担ぎながら不敵に笑うアルノルト様の姿がそこにあった。
「えっと……アルノルト殿下。本当にやるんですか?」
「うむ。遠慮はいらない」
恐る恐る確認すると、即座に返答が返ってきた。
(はぁ~……本当にどうしてこうなった……)
レオーナと再会を果たし、満足して帰るだろうと思っていたのに、俺は何故かアルノルト様と試合をすることになっていた。
「レオン! 頑張るデス!」
「レ、レオン様……ファイトです」
視線を向けると、マリアさんとエリスがチアリーダーのコスプレ姿で声援を送ってくれている。
――いや、いつの間にそんな衣装を用意したの?
「帝国の奴なんかに負けんなよ」
「ちょっ、ミナミさん! 煽らないで!」
「はっはっは! 言うではないか!」
ミナミさんの一言で、アルノルト様の闘志に火がついた。
「では――私も本気で行くぞ」
次の瞬間、上段から振り下ろされる鋭く、そして重い一撃。
「っ!?」
反射的に木剣で受け止める。
ガンッ――!
「くっ……!」
腕に衝撃が走った。骨が軋むような重さに、思わず歯を食いしばる。
「ほう。これを防ぐか。中々やるではないか」
そう言ってニヤリと笑うアルノルト様の顔はどこか嬉しそう。
「さぁ、どんどん行くぞ」
そこからは、まさに嵐だった。縦、横、斜め。あらゆる角度から、途切れることなく剣戟が襲いかかる。俺は防ぐ、いなす、躱すを紙一重で繰り返すのが精一杯。
(くっ……体格のわりに速すぎる!)
そう思った、次の瞬間――。
「もらった!」
わずかな隙を突かれ、鋭い一撃が俺の腹部を捉え、剣戟の勢いそのままに吹き飛ばされる。
「レオン様!」
エリスの悲痛な叫びが訓練場に響く。
「ふぅ~……危なかった」
吹き飛ばされた俺は、空中で体制を立て直し華麗に着地する。
「む? 今のは決まったと思ったのだが」
「すみません。僕の本業は魔法使いですので……」
剣が当たる直前≪アウラ・カーテン≫を発動し衝撃を受け流していた。
「なるほど。魔法で防いだか」
――まあ、防ぎきれてないんだけど……。
腹部の鈍い痛みを必死にこらえる。
(痛たたた。魔法で防いだのにダメージあるってどんな威力だよ)
俺は平静を装いながらアルノルト様に話しかける。
「申し訳ありませんが、ここからは魔法も使いますね」
「ふむ、いいだろう」
アルノルト様は楽しそうに笑う。
「君の本気、見せてみろ」
一瞬の静寂。そして――。
「いくぞ!」
踏み込みの気配を察知した俺は即座に魔法を発動する。
「≪アイス・バーン≫」
アルノルト様の足元が一瞬で凍りつく。
「なっ!?」
ズルッ!
ドンッ!!
アルノルト様は突進の勢いそのままに盛大に前のめりに転倒し砂煙が舞い上がる。
(今だ――!)
即座に間合いを詰め、首元へ木剣を突きつける。
「ふぅ~……勝負ありですね」
にっこりと笑いかけると、アルノルト様は悔しそうに顔を歪めた。
「レオン、とっても卑怯デス」
「アルノルト様が可哀そうだぞ」
先ほどまで応援してくれていたマリアさんとミナミさんが一転、俺を非難する。
「外野は黙ってて! 勝ったんだから良いじゃん」
「あっはっはっは!」
するとアルノルト様が立ち上がりながら豪快に笑う。
「そうだな。私の完敗だ」
「いえ……剣だけなら手も足も出ませんでした」
「なに、謙遜することはないぞ」
アルノルト様は愉快そうに俺の背中をバシバシと叩くが普通に痛い。
「何にせよ――これで安心して帰れる」
「……はい?」
その言葉に思わず聞き返すと、アルノルト様は真剣な目でこちらを見る。
「レオン殿。レオーナをよろしく頼んだぞ」
「……へ? レオーナを?」
意味が分からず固まる。するとユウキくんが苦笑しながら口を開いた。
「もしかして、そのための試合だったんですか?」
「ああ。愛しい人を任せるのだから当然だろ」
ニヤリと笑うアルノルト様。
「本当はカインと言う者とやりたかったんだが……」
ちらりと視線を向けると、セージくんがサッと顔を逸らした。
「既にこの世にいないらしいからな」
その瞬間、セージくんがほっと胸をなでおろす。
「だから――」
アルノルト様は俺をまっすぐ見据える。
「レオーナを預ける者として、その力を知りたかった」
――預けるも何もレオーナは俺自身なんだけど……。
「レオン殿。改めてよろしく頼む」
「は、はい……善処します」
もはやそれしか言えなかった。そして翌日――。
「では、また会おう!」
アルノルト様は満足そうに笑いながら、意気揚々とヴァルグラン帝国へと帰っていった。
――はぁ~……バレなくてよかった!




