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【転生】辺境伯家の長男 《千客万来》スキルに今日も振り回される  作者: jadeit
領主見習い編

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116/138

第116話 やって来た皇子様と、嘘まみれのヒロイン

 数日後――。


「おお……すごい人の量だね」


 バルトル城の玄関ホールには幾台もの馬車が並び、兵士や使用人たちが列を成していた。普段は穏やかなこの場所も、今日はさすがに空気が張り詰めている。


「ようこそおいで下さいました、リヒト様」

「バルトル卿。この度は受け入れ感謝する」


 柔らかな口調で応じるリヒト様。そのやり取りは穏やかだが、王族としての威厳は隠しきれていない。


「殿下、それでそちらの方が……」


 父上が視線を向けると、リヒト様は軽く頷いた。


「ああ。ヴァルグラン帝国の第一皇子、アルノルト殿下だ」


 その言葉と同時に、一歩前へと進み出る人物。


「急な訪問になって申し訳ない。バルトル卿」

「いえ、ようこそおいで下さいました、アルノルト殿下」


 父上が膝をつこうとした瞬間――。


「そうかしこまる必要はないぞ。今は休暇で来ている身だ」


 穏やかな声で制止が入る。


「かしこまりました。それでは中へご案内いたします」


 父上に案内され、リヒト様とアルノルト殿下は城内へと向かっていった。その背中が見えなくなったところで、俺はようやく息を吐く。


「はぁ~……緊張した」

「ふふ、レオンくんでも緊張するんだね」


 隣でくすりと笑うユウキくん。


「いや、僕だって緊張するよ」

「レオンが緊張? 何の冗談デスか?」


 マリアさんが本気で不思議そうな顔をしている。

――ひどくない!?


「それにしても、勇者パーティーが護衛なんて豪華だな……」


 俺が肩を落としていると、ミナミさんが口を開いた。


「そうですね。さすが帝国の第一皇子殿下です」


 エリスもこくりと頷く。すると、後ろから声がした。


「ええ。何かあっては一大事ですから」

「あ、カインく……じゃなくて、セージくん」


 本来の名前を言いそうになり、慌てて訂正する。


「セージくんも来てたんだね」


 ユウキくんが嬉しそうに声をかける。


「はい。リヒト様の命令で一足先にこちらに来ていました」


 きっちりとした口調で答えるセージくん。その様子に、マリアさんが口元を押さえて笑いをこらえる。


「くくく……やっぱりその話し方と姿、違和感しかないデス」

「確かにな。何だその気取った話し方は」


 ミナミさんまで乗っかる。


「……うるさいぞ」


 セージくんがキッと二人を睨む。


「まったく能天気な奴らだ」

「はははは! やっぱその話し方の方があってるね!」


 ユウキくんが背中をバシバシ叩きながら笑う。


「ふん……それでレオン」


 セージくんがこちらに視線を向けた。


「何かいい案は思いついたか?」


「いや……まったく。セージくんは?」


「何もない。どうしたものか……」


 アルノルト殿下が“レオーナに会いに来る”と分かってから、二人で散々対策を練ってきた。しかし、何一つ妙案は浮かばないまま、当日を迎えてしまったのである。


「ふっふっふ……私に任せるデス」


 そんな重苦しい空気の中、マリアさんがビシッとポーズをとる。


「へ? マリアさん、何か秘策でもあるの?」

「はい! 私が完璧な美少女に仕上げてみせマス!」


 そう言って取り出したのは、化粧道具一式と、女性用の衣装。


「コスプレなら任せるデス!」


 満面の笑みで親指を立てるマリアさん。


「マリアさん、頼もしい――って、違う!!」


 思わずノリツッコミをしてしまった。


「完璧美少女になったらダメでしょ!」

「確かにね。むしろ逆効果だよね」


 ユウキくんが苦笑する。


「完璧にしたら、さらに好かれるだけではないか」


 セージくんも冷静に追撃を加える。


「うぅ……じゃあどうするデスか?」

「それが分からないんだよね……」


 頭を抱えていると、アンナが小走りでこちらへやってきた。


「レオン様! ご領主様がお呼びです」

「分かった。すぐ行くよ」

「はい。それと、ユウキ様もご一緒にとのことです」

「え? 俺も?」


 ユウキくんが目を丸くする。


「ユウキは交換留学中、レオーナと一緒だったからな」


 セージくんが腕を組んだまま言う。


「ああ……そっか」


 納得したように頷くユウキくん。


「でも、レオーナさんのこと聞かれたらどうしよう……」

「とりあえず、留学後は知らないと言っておけ」

「分かった。ありがとう、セージくん」


 こうして俺とユウキくんは、アルノルト殿下が待つ応接室へと向かった。


コンコン――。


「失礼します」


 扉を開けると室内には父上と、その向かい側のソファにリヒト様とアルノルト様が座っていた。


「ああ、レオン。それとユウキも、よく来てくれた」


 リヒト様が近づき、小声で囁く。


『それでどうするのだ?』

『えっと……どうしようか?』

『うむ、何も決まっておらぬのだな……』


 コソコソと会話していると――。


「レオン、こちらへ来てご挨拶をしなさい」


 父上の声に、俺たちは慌ててソファへと向かう。


「初めまして。レオン・フォン・バルトルでございます」

「ああ、アルノルト・ヴァルグランだ」

(やばい……何かめちゃくちゃ見られてる……)


 短い挨拶だが、視線の圧がすごい。まるで品定めでもするかのような視線だ。


「えっと……何か?」

「ああ、すまぬ。何処かで会ったような気がして」

「……! いえ、お会いするのは初めてです」

「うむ。そうだな……」

(ふぅ〜……バレたかと思った……)


 アルノルト様はまだ疑っているような目で俺を見ていた。


「二人に来てもらったのは、レオーナという女性の件なのだが……」


 そんな様子をみかねて、父上が話を切り出す。


「ユウキ殿は交換留学で一緒だったとか」

「はい。ただ、留学後の行先は分からないんです」


 父上の質問に、ユウキくんは事前の打ち合わせ通りに答えた。すると、ユウキくんの返答を聞いたアルノルト殿下の視線が、まっすぐこちらに向く。


「ふむ。ではレオン殿は何か知っているか?」

「はい。所で父上、どこまでお話しされたのですか?」

「レオーナが我が領で教師をしている、ということだけだ」

「なるほど。それでしたら、私がお答えできることも同じですね」

「そうか! では、どこに住んでいるかは分かるか?」


 身を乗り出すようにして尋ねてくる殿下。その期待に満ちた表情に、少しだけ罪悪感を覚えながら、俺はゆっくりと首を横に振った。


「実は……」


 一瞬だけ言葉を切る。


「彼女の素性は一切不明なのです」

「なに? どういうことだ?」

「教師を務めていただく条件が、“詮索しないこと”でしたので」


 即席のウソを並び立てていく。だが、今はこれで押し通すしかない。


「そ、そうか……」


 アルノルト殿下の表情が曇る。しかし――。


「だが、授業には来るのだな? 次はいつだ?」


 すぐに顔を上げた。


(切り替え早っ!?)

「えっと……二日後になります」

「よし。それまで待たせてもらおう」


 アルノルト様の圧に押された俺は、問題を先送りすると言う苦渋の決断を下すことにしたのだった。

――ガンバレ! 未来の俺!

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