第113話 ノクスの力と、動き出した計画
爆発音を聞いた俺たちは、急いで訓練場へと向かった。石畳を蹴り、角を曲がると、砂煙が上空に立ち昇り、そこには人だかりができていた。
「ザックス! いったい何があった!」
父上の声が響く。すると人混みが割れ、その中からザックスが姿を現した。
「へい。あっしも混乱してるんですが……」
そう言って、ザックスは人だかりの中心を見る。
「すごいですわ、ノクスくん! もう一度! もう一度ですわ!」
「えっと、落ち着いてリリアーナちゃん……」
視線を向けると、はしゃぐリリアーナと、困惑した様子のノクスがそこにいた。
――よかった。とりあえず無事みたいだ。
俺たちは安堵しつつ、二人の元へ駆け寄る。
「二人とも、ケガはないかしら」
「あ、お母さま。ええ、大丈夫ですわ」
「はい……大丈夫です……」
「そう、良かったわ」
母上はほっとしたように息をつき、そのままリリアーナをぎゅっと抱きしめた。
「それで……何があったの?」
俺が問いかけると、ノクスはびくっと肩を震わせ、さっと視線を逸らした。そんな姿を見かねたザックスが一歩前に出る。
「あぁ~、皆様。まずはあちらを見てくだせぇ」
指さされた先を見て、俺は言葉を失う。そこには、隕石でも落ちたかのような巨大なクレーターができていた。
「なっ……何あれ!?」
「うむ……ザックス、説明しろ」
父上の低い声。
「うっす。少し前、お嬢とノクス坊が訓練場に来やして」
「え? リリアーナ。遊びに行ったんじゃなかったの?」
思わず聞くと、リリアーナはきょとんとした顔で答えた。
「ええ、だから訓練場に来たんですわよ?」
「……ん?」
俺が首をかしげると、父上が深くため息をついた。
「リリアーナは最近、兵の訓練見学が趣味らしくてな……」
「まったく、どうしてこんなにお転婆に育ったのかしら」
母上が頭を抱える。
「ヒドイですお母さま。わたくし淑女ですわよ」
リリアーナは胸を張った。
「そして、最強の魔導士になるんです」
「「はぁ……」」
父上と母上のため息が綺麗に重なった。
「そんな訳で、今日も見学に来てたんすよ」
ザックスが苦笑しながら話を続ける。
「それで魔法部隊の訓練を見てた時に、お嬢が――」
「わ、私のせいじゃありませんわよ!」
「いやいや、“やってみよう”って言ったのはお嬢でしょ?」
「うぐっ……それは、そうですけど……」
視線を泳がせるリリアーナ。するとエリスが不思議そうに首を傾げた。
「それで、何をしようとしたのですか?」
「どうやら、自分たちも魔法が撃てるか試したみたいで」
「え? 魔法使えたの?」
俺が聞き返すと、リリアーナはしゅんと肩を落とした。
「わたくしはダメでしたわ、お兄様……」
――まあ、訓練してないんだし、普通はそうだよね。
「でも!」
次の瞬間、リリアーナの表情がぱっと明るくなる。
「ノクスくんはすごかったんですのよ!」
ぴょんぴょん跳ねながら、身振り手振りで説明を始める。
「こう……バーン!ってなって、ドーン!って!」
「いや、全然わからないんだけど……」
俺はザックスを見る。
「あっしの見た限りじゃ、ノクス坊が魔法を放ちやした」
「え? そうなの?」
「……正直、あれを止めろって言われても、あっしじゃ無理ですわ」
その言葉を聞いて、今まで黙っていたノクスが、勢いよく頭を下げた。
「ご、ごめんなさい! 訓練場壊しちゃって……!」
すると父上がゆっくりと歩み寄り、ノクスの前で膝をついた。
「勝手に魔法を使ったのは、よくないことだな」
「……はい」
ノクスの肩が小さく震える。だが父上は、続けて優しく言った。
「だが、きちんと謝れたのは立派だぞ」
「……!」
驚いたように顔を上げるノクス。
「はい! もう勝手に使いません」
「うむ。よく言った」
ぽん、と頭を撫でる父上。
「リリアーナもだぞ」
「わ、わかってます……私も反省してますわ」
しょんぼりするリリアーナ。
「それにしてもノクス……魔法、使えたの?」
俺が聞くと、ノクスは首を横にフルフルと振った。
「……わかんない……やったら、出た」
「そっかぁ、う〜ん……」
俺は静かに父上に呼びかける。
「父上。例の計画……今すぐ実行しましょう」
父上は、ゆっくりとうなずいた。
「そうだな……レオン、全てをお前に任せよう」
「はい」
俺はその日のうちに準備を整え、《スカイホースくん二号》に乗り込み王都へ向けて出発した。
* * * * * * *
貴族学園の一角にある研究棟。その一室で俺は二人の人物を訪ねていた。
「これはレオン様。お久しぶりですね」
穏やかな笑みを浮かべて迎えてくれたのはアレクシス先生。
「……で、今日は何しに来たんですか?」
アレクシス先生の後ろでは、警戒心むき出しのリュミナ先生が顔をのぞかせる。
「お久しぶりです。……てかリュミナ先生。なんか対応冷たくないですか?」
「そ、そんなことありませんよ?」
露骨に目を逸らす。
「でもレオン様が来ると、だいたい面倒事が起きるじゃないですか」
「ヒドイですよ!? 可愛い弟子がわざわざ会いに来たのに!」
「ふんっ。そんなこと言っても、もう騙されませんからね」
――うん。信用ゼロだな。
「ふふ、相変わらずですね」
するとアレクシス先生が楽しそうに笑う。
「それで、今日はどうされたのですか?」
「はい、実は以前お願いしていた件なんですが……」
「……ああ、“あれ”ですか」
アレクシス先生の目が、わずかに緩む。
「思ったより早かったですね」
「ええ。……少し問題が起きまして」
「ちょっと! 二人で納得してないで私にも説明してください」
「そうですね。実は、バルトル領に学校をつくリたくて……」
「学校?」
俺はリュミナ先生に学校建設計画の詳細を説明した。
「……身分に関係なく才能を伸ばせる場所、ですか」
説明を終えるとリュミナ先生が目を丸くしながら言った。
「実はアレクシス先生には以前から相談に乗ってもらってたんです」
「はい。ただこんな早く実行するとは思いませんでしたが……」
「ちょっとイレギュラーな子が生まれまして」
「ノクス君ですか。何とも興味深い子ですね」
「いや、アレクシス先生。絶対怪しい子ですって」
「リュミナ先生ヒドイ! いい子なのに」
「そうですよ、会ってもいない子を怪しいだなんて」
「え? 私が間違ってるの?」
リュミナ先生が首をかしげる。
「それで、アレクシス先生。バルトル領へ来てくれますか?」
「ええ、もちろんです。ただ……」
アレクシス先生は目を伏せる。
「申し訳ありませんが、直ぐには難しいですね」
「やはりそうですか」
俺は少しだけ肩を落とす。
「そうですね……今年度の授業が終わってからなら問題無いかと」
「ありがとうございます。それまでに生徒を集めておきますね」
するとリュミナ先生が自分を指さしながら俺に訴えてくる。
「レ、レオン様! 私、私は誘ってくれないんですか?」
「へ? リュミナ先生ならいつでも大丈夫かなって思ったんですけど」
「失礼な! 私だって忙しいんですよ!」
「じゃあリュミナ先生はムリそうですね」
「い、いえ。レオン様がどうしてもって言うなら行っても良いですよ」
「そんな無理しなくていいんですよ。他をあたりますから」
するとリュミナ先生は涙目になりながらアレクシス先生を見る。
「うわぁ~ん。アレクシス先生! レオン様がイジメます!」
「まったく。行きたいなら素直にそう言えばいいではないですか」
「だって……そこは師匠としてのプライドが……」
「ふふふ、しょうがないですね」
俺は不敵な笑みを浮かべながらリュミナ先生を見る。
「バルトル領に来てくれるなら僕の魔法の秘密を教えますよ」
「魔法の秘密!? ……行きます! 私バルトル領で先生します」
リュミナ先生は勢いよく手を上げる。
「はぁ~、師匠のプライドはどうしたんですか……」
アレクシス先生が大きなため息をついた後、俺に向き直る。
「ところでレオン様」
「はい、なんですか? アレクシス先生」
「我々が行くまで、教師はどなたが務めるのですか?」
「ふふふふ。そこは僕に良い考えがあります」
「いや、レオン様の良い考えって不安しかないんですけど……」
リュミナ先生の呟きを聞き流し、俺は学校建設へ向けて思いをはせるのだった。




