第104話 絶望の白昼夢と、生きる希望
「よし、みな魔法陣に乗ったな」
リヒト様の声に、俺たちは一斉に頷いた。カインくんから詳しい話を聞くため、卒業試験は中止し、帰還の腕輪を起動することになった。足元に広がる魔法陣が青白く輝き視界が光に包まれ、俺たちはダンジョン入口へと転移していた。
「おや、皆さん何かありましたか?」
魔法陣の光に気づいたアレクシス先生が歩いてくる。
「ケガなら私が治しマスよ!」
マリアさんが元気よく手を挙げる。
「……いや、この人何で縛られてるんですか?」
リュミナ先生が縛られたルドルフさんを見て固まった。
「えっと……とりあえず話せる場所ありますか?」
「ふむ。ではこちらへどうぞ」
ユウキくんの真剣な様子に、アレクシス先生が治療用テントへと案内してくれた。
「それで、何があったんですか?」
椅子に腰掛けたリュミナ先生が足を組む。
「はい、実は……」
俺はダンジョンで起きた出来事を簡単に説明した。
「ワーオ。だからルドルフさんは縛られていたデスね」
マリアさんが納得する。
「結構危なかったんだよ。あ、あとカインくんが俺たちに――」
「おいユウキ! その話はするな!」
「もう、カインくんたら照れちゃって」
「”お前たちとはもっと話がしたかったんだがな”だっけ?」
俺とミナミさんが追撃すると、カインくんが鬼の形相で睨んできた。
「それで、リヒト様。これからどうなさるおつもりですか?」
「うむ。まずは詳しく聞こう、カイン」
「はい。私たちが関わったのは……」
カインくんは五歳の晩餐会襲撃事件について語り始めた。
「帝国に求められたのは見取り図と当日の予定でした」
「あれも帝国の仕業だったんだね」
「ああ。本来はリヒト様を誘拐する計画だと聞いていました」
「そうなのか? 普通に殺されそうになったぞ」
「……その時、私も不信を抱き帝国とは手を切るよう進言しました」
そう言ってルドルフさんを見る。
「な、何だ! 私だってあの一回きりだぞ」
「なに? では今回の事は独断か?」
「うっ、はい……」
迫力に押されて目をそらすルドルフさん。
「リヒト様の死を手土産にすれば帝国で優遇されるかと」
「はぁ~。我が兄ながら浅はかな」
カインくんが深いため息をつく。
「じゃあ、帝国に協力したのはその一回だけなんだね」
「ああ、それ以降の事件には関与していない」
俺が聞くと、カインくんがはっきりと答える。
「なら、そこまでの罪にはならないんじゃ?」
ユウキくんがリヒト様を見る。
「うむ、どうだろうな」
渋い顔で思案している。
「一度とはいえ国家反逆罪となると……」
「どうなるんデスか?」
マリアさんが不安げな表情をしている。
「ヴァルデン家は降爵。二人は……最悪、処刑もあるな」
「そ、そんな! 何とかならないんですか?」
処刑を想像したのか、エリスが既に涙目になっている。
「まあ二人の態度次第では爵位の剥奪だけで済むかもしれん」
その言葉を聞き、今まで黙って聞いていたルドルフさんが声を荒げる。
「ふん! 平民になるくらいなら死を選ぶわ!」
その言葉を聞いた次の瞬間――。
(……! あ、これ前にもあったやつだ)
視界がゆらりと歪む。そして徐々に足元の感覚が消えていき、世界が暗転した。
* * * * * * *
「カイン。決意は変わらないか?」
「はい。兄の責任は私が……」
俺が目を開けると、そこには牢に入るカインくんと、沈痛な表情で話しかけるリヒト様の姿があった。
「だからって、お前だけが処刑されるなんて!」
声を荒げるがカインくんは首を振る。
「覚悟はできてます。それよりヴァルデン家ですが……」
「ああ、大丈夫だ。私が何とかしよう」
と、その時だった。
「どっかーん」
「今だ! 進め!」
「敵襲!」
外で爆発音がしたかと思ったら、徐々に騒がしい声が聞こえてきた。
「敵襲だと! どこの国だ?」
するとリヒト様のもとに騎士が走ってきた。
「ル、ルドルフが帝国兵を率いて攻めてきました」
「は? 何でルドルフが?」
突然出てきた名前にカインくんが変な声を上げる。
「とにかく、外の様子を確認しに行くぞ」
「リヒト様! 私も連れて行って下さい」
カインくんが走り出そうとしていたリヒト様に声をかける。
「解った。行くぞ」
目の前の景色が崩れたかと思ったら場面が変わる。
「おい、ルドルフ。貴様なにをしている!」
大勢の帝国兵を引き連れてルドルフさんが王城へと侵攻していた。
「おや、もう逃げたのかと思ってましたよ、リヒト王子」
「逃げるだけでは飽き足らず、王国に攻めてくるなんて」
「おお、愚弟も一緒でしたか」
ルドルフさんがカインくんを見る。
「どうだ? 今からでもこちらにつかないか、カイン」
「何を馬鹿なことを言っている」
「ふん。弟のよしみで助けてやろうかと思ったんだがな」
ルドルフさんが帝国兵に合図を出す。
「まあいい。この国と一緒に消えるがいいさ」
「貴様!」
「ルドルフ!」
「あっはっはっは。私をコケにした報いを受けるがいい」
* * * * * * *
「……っ!」
視界が鮮明になっていく。
(はぁ、これって前も見た白昼夢ってやつ?)
まだボヤッとする頭を振り、俺は先ほどの光景を思い出す。すると――。
「ふん! 平民になるくらいなら死を選ぶわ!」
ルドルフさんが叫ぶ。その言葉を聞いた途端、夢で見たカインくんの諦めた表情が脳裏に浮かぶ。
(そんなのダメだ!)
気づけば体が勝手に動いていた。
「バカヤロ~!」
パァン!!
「ぐふっ!」
「ぐぬっ!? なぜ私まで!」
俺はルドルフさんと、ついでにカインくんの頬を思い切りビンタする。
「死ぬなんて簡単に言わないでよ!」
「いや、レオン。私はそんなこと言ってないぞ」
カインくんがビンタされた頬をさすっている。
「え? あ、ゴメン。何か勢いで!」
――夢で見たなんて言えないし……。
「なっ! 勢いってお前な」
カインくんが呆れた顔で俺を見る。
「と、とにかく。生きて功績を上げればいいじゃん」
俺が言うとユウキくんが賛同してくれる。
「そうだよね。”死んじゃったらそこで試合終了”だよ」
「いや、白髪鬼先生かよ」
ミナミさんのツッコミにカインくんが反応する。
「解りにくいぞ、そのツッコミ。それにそこは”諦めたら”だろ」
「ん? 何でカインが知ってるんだ?」
ミナミさんが首を傾ける。
「そんなことよりだ、ルドルフ」
カインくんがルドルフさんを見る。
「みっともなく、あがいてみようではないか」
「……ちっ、まさか弟に諭されるとはな」
ルドルフさんが悪態をつくが、その表情はどこか晴れやかだった。
「うむ。どうなるか分からんが、全力を尽くそう」
「よろしくお願いします、リヒト様」
こうして王都へ戻ることになった。そして数日後――。
「え? 嘘でしょ……」
俺たちは、カインくんとルドルフさんが処刑されたことを聞いたのだった……。




