第102話 順調な攻略と、怪しい来訪者
「≪アクア・バインド≫」
俺の手元から水流が走り、巨大な甲殻を持つ魔物、アーマード・タートルの脚に絡みつく。
「≪ガイア・プリズン≫」
続けてエリスの魔法が発動。地面が隆起し、魔物の動きを止める。さすが土属性名門ロズヴェリア侯爵家の娘。発動も精度も安定している。
「よし、今だ! ユウキ、カイン! 行くぞ」
「任せて! はぁ~~っ!」
ユウキくんの身体から白銀の闘気が噴き上がり、目にもとまらぬ速さで攻撃を繰り出していく。
「とどめだ! くらえ!」
カインくんの鋭い斬撃が、魔物の首を正確に断ち切った。次の瞬間、魔物は光の粒子となって消えて行く。卒業試験であるダンジョン攻略を始めて二日。俺たちは十階層のボスに挑んでいた。
「ふぅ~。みんなお疲れ様」
俺は息を吐き、肩の力を抜いた。
「よし。お前ら、よくやったぞ」
腕を組むミナミさん。
「いや、ミナミさんも手伝ってよ」
「ふん。私は荷物を守ってやってたんだ」
「え~! ただサボってただけでしょ」
「なにを~! 失礼だぞ、ユウキ!」
二人のやり取りを見て、おずおずとエリスがフォローを入れる。
「えっと……ミナミさんも頑張っていたかと……」
「お~、エリスは優しいな」
がばっと勢いよく抱きつくミナミさん。エリスは困った顔でオロオロしている。
「は~、まったく。みな気を抜きすぎだぞ」
カインくんがため息をつく。
「まあまあ。ずっと気を張ってたら疲れちゃうよ」
ユウキくんが肩をすくめる。その横でリヒト様が下へ続く階段を指さした。
「よし。そろそろ次の階層に行くか」
「はーい。にしてもボス、大したことなかったね」
「またお前はそういうことを言う」
「油断してると足元をすくわれるぞ」
カインくんとリヒト様が同時に指摘する。それを聞いて俺は素直に謝った。
「うっ……ごめんなさい」
「む? レオンが素直だと不気味だな」
「カインくんヒドイ! 僕だって悪いと思ったら素直に謝るよ!」
「うむ。レオンは普通に素直だと思うぞ」
「リヒト様! さすが解ってるよね」
「……リヒト様、レオンを甘やかさないで下さい」
「ちょっと! たまには僕を甘やかしてよ、カインくん」
「あははは。それを素直に言えるのがレオンくんだよね」
そんな軽口を叩きながら、襲ってくる魔物を難なく倒し、俺たちはダンジョンを順調に踏破していった。
「よし。今日はここまでにするか」
「そうですね。では野営の準備を行いましょう」
十三階層へ降りる階段前の広い空間。一晩休むにはちょうど良さそうな場所だ。
「じゃあご飯の支度しちゃうね」
魔導コンロを設置し、食材を並べていく。
「あ、レオン様。私も手伝います」
「ありがとう、エリス。じゃあ野菜お願い」
水魔法で洗った野菜を渡す。
「しかし、ダンジョンの中で調理とは……」
「普通は干し肉とかだからね」
カインくんとユウキくんが遠い目をする。普通は荷物を節約する為に、コンロや大量の食材をダンジョンに持ち込むことはない。もちろん、今回卒業試験を受ける他のパーティーもそれは同じだった。しかし浮かぶ台車があるおかげで、俺たちは荷物を制限することなく持ってこれている。
「まあ≪スカイホースくんCP≫のお陰だよね」
俺が言うと、横でミナミさんが胸を張る。
「わっはっは。私を崇めてもいいんだぞ」
「はいはい。ミナミ様! ありがたや~、ありがたや」
「おいユウキ。何か適当じゃないか」
「こら、遊んでないで野営の準備を手伝え」
「うぐっ! ユウキのせいでカインに怒られたじゃないか」
「あははは、ゴメンね。じゃあ俺は焚火の準備をしようかな」
と、そのときだった。ユウキくんの動きが止まり、通路を睨む。
「……誰か来る」
ユウキくんが静かに言った。
「え? 魔物?」
俺も調理の手を止めて通路の先を見る。するとぼんやりと人影が見えてきた。
「止まれ! 何者だ?」
カインくんが剣を構えながら言った。少しして通路の奥から、ひょろりとした人影が現れた。
「あ、怪しい者ではありません」
両手を上げて近づいてくる。
「私はバジル・クロウディアと申します」
長いローブ。丸眼鏡。ぼさぼさの灰色髪。
――うん、どう見ても怪しい。
「それで、何か用ですか?」
ユウキくんが警戒しながら話しかける。
「えっと、実は素材を集めに来たのですが……」
少し距離を置いて立ち止まるバジルさん。
「雇った冒険者とはぐれてしまいまして」
「なるほど、だから一人なんですね」
ユウキくんの言葉にバジルさんが頷く。
「はい。私は薬師をしております」
バジルさんの腰を見ると、採取用のナイフと小瓶がぶら下がっていた。
「えっと、それで……」
バジルさんが申し訳なさそうに頭を下げた。
「出来れば地上まで送っていただけませんか?」
「うむ……どうしたものか」
リヒト様が腕を組んで思案する。
「バジルさんにも十五階層まで一緒に来てもらったら?」
「しかし、危険ではないか?」
俺の提案に、すぐさまカインくんが反対した。
「そうですね。バジルさんは戦えなさそうですし」
「でも卒業試験はどうするんだ?」
エリスが不安げに言うと、ミナミさんが首を傾ける。
「あ、あの。身を守るだけでしたら……」
そう言うとバジルさんは胸元からペンダントを取り出す。
「もしかして魔道具ですか?」
「はい。気配を消すことのできる魔道具です」
「なるほど。我々が戦っている間、隠れることが出来るというわけか」
リヒト様がペンダントを見ながら納得している。
「じゃあバジルさんにも一緒に来てもらって、やばそうなら帰還ってことでいい?」
ユウキくんが全員を見回す。
「うむ。それでいいと思うぞ」
「賛成だ。バジル殿もそれでいいだろうか?」
カインくんが尋ねるとバジルさんは頷き同意した。
「それじゃあ、今日はゆっくり休んで明日もがんばろ~」
そう言うと俺は調理を再開する。ダンジョンでのひと時の休息時間はこうしてゆっくりと過ぎて行った。




