第101話 卒業試験と、“比較的優しい”ダンジョン
「さて、みなさん。これより卒業試験を開始いたします」
王都から馬車で数時間。巨大な岩山の麓にぽっかりと口を開けた洞窟の前で俺たちは整列していた。
「これからパーティーごとにダンジョンに挑んでもらいます」
アレクシス先生が穏やかに微笑みながら俺たちを見回す。
「こちらのダンジョンは全十五階層。攻略難易度は比較的優しくなっています」
話を聞いて、生徒たちの間には、ほっと安堵の空気が広がる。
「それでも何が起こるか分からないのがダンジョンです」
アレクシス先生の目がわずかに細くなった。
「もし危険と感じたらこちらを使用してください。“帰還の腕輪”です」
先生の手には銀色の腕輪が握られていた。
「一年次の野外演習で説明しましたが、魔力を流すと魔法陣が起動します」
魔力を流すと、先生の足元に光の魔法陣が展開された。
「乗ればダンジョンから脱出することができます。怪我をした場合はリュミナ先生と聖女であるマリアさんが治癒してくれます」
アレクシス先生の隣ではリュミナ先生が微笑みながら手を振り、マリアさんはいつも通り、にこにこと天使の笑顔。そんな二人を男子生徒たちがぽーっと見惚れている。
(二人とも美人さんだから、女神様に見えるよね)
――黙っていたらだけど……。
するとリュミナ先生は、俺の考えを読んだのか、こちらに顔を向けるとキッと睨んだ。
(ひぃっ! な、何でバレた!)
サッと目をそらす。少しして、恐る恐るリュミナ先生をみると、すでに完璧な微笑みに戻っていた。
――女のひとって恐ろしい……。
「ダンジョン攻略が目的ですが、撤退判断も評価対象です。無理は禁物ですよ」
動揺する俺をよそに、卒業試験の説明は続く。そして説明が終わり、俺たちはいよいよダンジョンへと足を踏み入れることになった。通路の両側には魔石ランプが等間隔に埋め込まれ、淡い光が石壁を照らしている。奥へ進むにつれて、外の光は完全に消え、振り返れば入口はすでに闇に溶け込んでいた。
「そう言えば、ダンジョンって初めてかも」
俺が何となく呟くと、前を歩くユウキくんが答えてくれた。
「そうなんだ。俺は冒険者として何回か入ったことあるよ」
「ほう。私も実は初めてだ」
ユウキくんの隣を歩くリヒト様が少し楽しそうに笑う。
「あれ? もしかしてユウキくん以外、全員初めてかな?」
「まあ、普通はダンジョンなんて入らんからな」
俺の隣でカインくんが肩をすくめた。
「じゃあ今回はユウキくんがリーダーだね」
「いいな! ちゃんと私とエリスを守ってくれよ。リーダー」
「もう、ミナミさんも戦えるでしょ」
ユウキくんがため息をはきながら答える。
「えっと、エリスは僕が守るからね」
「レ、レオン様! は、はい。私もがんばります」
――おお! 可愛い。そして尊い!
今回の卒業試験、俺たちのパーティーメンバーは、ユウキくん、リヒト様、ミナミさん、エリス、俺、カインくんの六人編成。そして、十五階層のダンジョンを五日以内に制覇することが目標となっている。
「それにしても、ミナミさんの発明品って相変わらず便利だよね」
俺は、後ろをついてくる浮かぶ台車を見た。
「だろ。≪スカイホースくんCP≫があれば手ぶらでダンジョンに挑めるんだぞ」
ミナミさんがドヤ顔で胸を張る。五日分の食料、野営道具、予備の装備。全て≪スカイホースくんCP≫に積んである。
「学園の生徒や冒険者とすれ違うたびに驚かれているよね」
ユウキくんがくすっと笑う。
「まあレオンがいないと使えないのが難点だな」
「えっと、レオン様。魔力は大丈夫ですか?」
エリスが心配そうに俺を見上げてくる。
「ん? 全然平気だよ。ありがとう、エリス」
≪スカイホースくんCP≫は俺の魔力で動かしている。戦闘が続くダンジョンの中で、魔力を消費し続けることは普通であれば死活問題だ。しかし俺には無駄に多い魔力があるから問題ない。
――こういう時しか役に立たないけど……。
「それでも油断は禁物だよ」
「はい。了解しました! リーダー」
俺はユウキくんに向かってピシッと敬礼をする。すると次の瞬間――。
「何か来るぞ!」
リヒト様の声が響く。すると前方の通路から二体の影が現れる。角の生えた兎、ホーンラビットだ。
「私とユウキで攻撃をする。皆は後方から魔法で援護してくれ」
「解りました」
リヒト様の指示にカインくんが頷く。
「よしっ! じゃあ行くよ!」
ホーンラビットが一直線にこちらへ突進してきた次の瞬間、ユウキくんの剣が閃いた。
「あまいっ!」
続いてリヒト様も剣を振るう。二体のホーンラビットはあっという間に倒され、光の粒子となって消えて行った。
「……僕たち出番なかったね」
「仕方あるまい。ここはまだ浅い層だからな」
隣でカインくんが周りを警戒しながら答える。
「良いんじゃないか。私たちは楽出来るんだし」
「深い層に行ったら私もお役に立ちたいです」
ミナミさんは腕を組み、エリスが胸の前で拳を握りながら言った。すると戦闘を終えたユウキくんとリヒト様が戻ってくる。
「あははは。まあ当分は俺たちに任せてよ」
「うむ。これくらいなら余裕だな」
こうして俺たちのダンジョン攻略は順調に進んでいった。魔物は強くなっているが、まだまだ余裕がある。
「なんだか楽勝で、遠足みたいだね」
俺が言うと、ミナミさんが真顔で言った。
「それ、フラグって言うらしいぞ」
――やめて! 縁起でもない。
しかし願いに反して、そのフラグは回収されることになってしまう。なぜなら、俺にはトラブル大好き≪千客万来≫さんという強い味方がいるのだから……。
――いや、味方だよね? ≪千客万来≫さん!




