第84話「ルナが一番」
ワシにとっての一番はルナじゃ!
ワシはこの旅を思い返してみるのじゃ。それはルナから始まった旅じゃった。ルナに教わり、ルナに助けられ、ルナに愛されたのじゃ。
じゃがそれはワシが神だからじゃろう? 神でなく普通の人間だったら結果は違ったじゃろう。
「そんな事ないですよ」
ルナは目を逸らしておったのじゃ。ルナにはワシの心が読めて、ワシはルナの心を読めないの反則ではないかのう?
するとルナが笑って言うのじゃ。
「私はコン様が好き。これだけで十分じゃないですか?」
まぁそれでも良いけどのう。
「それに今こうしてスキンシップ取ってるじゃないですか」
ワシの一番じゃなきゃ嫌だと言う彼女は、我儘な独占欲なようで、きっともっと奥が深いのじゃ。
それは巫女としての存在意義なのかもしれんのう。シスターのように神の花嫁でなくても、神の意思を託宣する者としてあった巫女じゃ。
この世界でも神を顕現させるためにいる存在じゃが、それだけ重要な立ち位置にいると言ってよい。
とはいえ、トルネイドさんの時の事例もあるのじゃ。他の禰宜や巫女に任せて別れてもいいわけで、道は自由にあるからのう。
一番じゃないなら別れますと言うのならば、それでも仕方ないのじゃが……。
「そんなことは言いませんよ」
ならば一番でないとならん理由はなんじゃ?
「私はコン様が一番好きなんです。愛してます。なのにコン様の一番じゃないなんて酷いじゃないですか」
「あたしだってコン様が一番だぞ! でもコン様は皆一番だって……」
「きっと本当は違います。あの日一番に動いたあの子が一番なんです。死んだ人には敵いません」
「え……? そうなの……?」
ワシはそれを聞いて笑ったのじゃ。
「馬鹿者! ワシは皆一番じゃ! ただあの子に『一番会いたい』だけじゃ。それが叶わん夢だから感傷に浸っておるだけじゃよ」
死んだ者に敵わんと言うならワシは生きとる者を大切にしとらんかのう? 違うじゃろ。
むしろ生きとる人を絶対死なせんように気を配っとるのじゃ。
それがわからんわけでもないじゃろう?
「……」
ルナはギュッと抱きしめてくる力を強めるのじゃ。ワシはポンポンと頭を撫でてやり、言うのじゃ。
「去るもの追わず来る者拒まずの精神でおるワシじゃが、ワシもルナにはちゃんと特別な感情が芽生えておるのじゃよ。それはのう……」
それはワシとルナだけの秘密じゃぞ。ルナは『死ぬまで一緒にいて欲しい人』じゃ。
交代したいと言うならそれまでじゃが、ワシはルナに死ぬまで一緒にいて欲しいのじゃ。ルナはどうなんじゃろうな?
「私もですよ、コン様」
上に乗っかるのを止めて横に寝転ぶルナじゃ。グーシャはルナの反対のワシの横に寝転ぶのじゃ。
ジーザスはワシの手を離し、一人ベッドに行こうとしたのをテンカに掴まれたのじゃ。
「あんただけ一人で寝るのは寂しいだろ?」
テンカの誘いにジーザスは一緒に寝ることを選んだのじゃった。
フェレ様の方を見るとエレスと共に抱き合って寝とったのじゃ。
まだ出会ったばかりだと言うのに仲の良い事じゃな。いや、ワシらもあんな感じだったかもしれんのう。
その日はぐっすり眠れたのじゃった。朝起きて、皆と共に次の街を目指すのじゃ。
ここまで南東におりて来たのを、南西に向かうのじゃ。ワシらは街の道のまま行くのじゃが、ここから勾配がきつくなるのじゃ。
どうやら王都は高い場所にあるらしいのじゃ。ワシらはスライムに乗って進むのじゃ。
魔物使いも、もう認められて長いのじゃ。変な目で見られることもあるのじゃが、慣れっこじゃ。
坂道もスライムならヘッチャラじゃ。テンカは運動不足になるからと歩くのじゃ。
西に進むにつれて、段々豪勢な服を着とる人が増えてきたのじゃ。
恐らくこの国の貴族じゃろう。
貴族たちはワシらを見てヒソヒソ話しとるのじゃ。そして兵がやってきて身分証の提示を求められるのじゃ。
「すいませんが、魔物を出すのをやめてもらえると助かるのですが」
ふうむ、まぁよいがのう。
「緊急時と、荷物持ちのスライムだけ許して貰えませんか?」
水を作り出す魔道アイテムや、大きい荷物はスライムに持たせとるのじゃ。
それは大丈夫と許されて、ワシらは歩くのじゃった。
この国は貴族も商売をしとるらしく、鉱石から様々な宝石へと変えて売っとるらしいのじゃ。
また魔道アイテムを作って売りもしとるらしいのじゃ。
工場のような大きな建物がある街、バウコ街に着いたので、依頼を探すのじゃ。
都市部に近い場所に工場があるのには理由があって、単純に需要があるからだそうじゃ。
例えば、風を起こす魔道アイテムは暑い日に欠かせないのじゃ。水を起こす魔道アイテムも生活には欠かせないし、雷で電気を起こす魔道アイテムも、火を起こす魔道アイテムも、全部必要なのじゃ!
魔道アイテムは文明の利器と言っても過言ではないのじゃ。人の多くは魔素に恵まれており、それらを使って魔道アイテムで生活するのじゃ。
貴族は使用人の魔素でらくらく生活しているらしいのじゃが、その分稼がねばならんのじゃ。
そのため商売の邪魔になる魔物を嫌うというわけじゃな。ワシらは坂道を歩きながら、魔道アイテムや宝石を見て回るのじゃった。
ドンドン王都に近づいておるのじゃ!
ここまで読んでくださりありがとうなのじゃ!続きを読んでくださるとありがたいのじゃ!




