第21話「ごめんなさい」
キスが出るのじゃ。
街の人にはまだグーシャがゴブリンの魔王である事は知られとらん。宿に入れたのもそのせいじゃ。
ワシは休んだ後、グーシャを再び抱きしめた。魔王としての性質そのものを変えんと認められないのじゃ。
背中を撫で、頭を撫でたのじゃ。グーシャは涙を流しながらワシにしがみついたのじゃ。
「あたし……あたし、いっぱい殺したよ?」
「全部ゴブリンのせいじゃ。そしてお主を魔王にしてしまった大人たちのせいじゃ。間に合わんかったワシのせいじゃ」
号泣しながらグーシャは首を横に振るのじゃ。
「あたしが命令した! だからあたしのせいでいいの! 許して貰えないかもしれないけど謝りたい!」
「そうかそうか。まずゴブリンがもう勝手に出んようにせんとのう」
ワシはルナに何か方法がないか聞いたのじゃ。
「ジーナさんの時はどうだったんですか?」
「抱きしめて説得したらネックレスになったのじゃ」
じゃがグーシャはいくら抱きしめてもゴブリンが出るのじゃ。
既に二匹出てきとる。待機命令しとるようじゃから何もしてこんが……困るのじゃ。
「ゴブリンは強欲です。欲求が満たされないと駄目かもしれません」
ルナがそう言うので、ワシはグーシャに何かしたい事がないか聞いたのじゃ。
「誰かとキスしたい」
ワシこけそうになったのじゃ。じゃがその想いは切実じゃった。
「あたし、この歳まで恋愛してこなかったし、そういうのしてみたい」
「で、では相手を探すとしようかのう……?」
グーシャがワシを見てくるのじゃ。ええい! わかったのじゃ!
「グーシャ、目を瞑るのじゃ」
目を閉じたグーシャの唇にワシの唇を重ねたのじゃ。柔らかいのじゃ……。
すると二匹おったゴブリンが腕輪になりグーシャの右手に嵌ったのじゃ。
ようやくコントロールできたのう。一件落着じゃ。
「コン様、私にもしてくださいよ、キス」
「私にもだよ?」
ルナとジーナが迫ってきたのじゃ。ええいままよ! 熱いキスを二人とかわしたワシはもう後戻りできん。未成年にキスした犯罪者じゃ。
「この世界では十四歳で大人扱いされるので問題ありません」
それじゃあいいやとはならんのじゃ。ワシの倫理観の問題じゃ。
「では謝りに行くとするかのう」
グーシャはギルドに着くと緊張した面持ちでスカートを掴んでおったのじゃ。
ルナがギルドで説明すると役員さんは驚いておったのじゃ。
そして周りの目のある中グーシャにゴブリンを出せるか聞いたのじゃった。
グーシャは右腕に力を込めるとゴブリンが一匹出てきたのじゃ。
悲鳴があがるのじゃ。じゃがゴブリンはグーシャの言う通りに動いたのじゃ。
役員さんがルナにいくつか質問して、グーシャの身分証を受け取った後、新しい身分証を彼女に渡したのじゃ。
ゴブリンマスター、神憑きの身分証を得たグーシャは、広場になるべく人を集めてくれないか頼んだのじゃった。
広場に集まった人達は台に上ったグーシャを見ておった。ルナとジーナも後ろに控えておったのじゃ。
ワシは隣でグーシャの手を握って勇気をあげたのじゃ。
「あたしが……あたしがゴブリンの魔王です! 今まで沢山悪さして殺しもして、許して貰えるとは思ってないけど……神様のおかげで改心しました! これからは真っ当な道に進みます! 罪を背負って生きていきます!」
「ふざけんな! 処刑しろ!」
「魔王が生きてていいわけないだろ!」
「真っ当な道って何? 殺された人は進めなかったのよ?」
「改心したってまた悪さするだろ? 意味ないぞ」
街の人の当たりは強かったのじゃ。ワシはルナに頼んで姿を見えるようにしてもらったのじゃ。
「ワシは狐依コン。神じゃ! この子は強欲な大人たちのせいでゴブリンの魔王になってしもうたのじゃ。許せとは言わん。じゃがワシが責任を持って罪を償わせるので、生きることは許可してあげてほしいのじゃ!」
街の人はザワついたのじゃ。そしてある人が言ったのじゃ。
「神様の奴隷になると誓うなら許してもいいんじゃないか?」
ど、奴隷はやりすぎではないかのう? ワシの奴隷って何じゃ?
「コン様の奴隷でいいよ! 生きるのを許して!」
「あいつは神様の奴隷になると言ったんだ。許してやろうじゃないか、皆?」
街の人たちは納得したようじゃった。うーむ、ワシはちょっと困ったのじゃ。
そもそもワシの元おった世界では奴隷は駄目なのじゃ。そういう時代もあったものの、ワシの生きとった時はなくなったはずじゃ。
でもここは世界が違うのじゃ。そういう価値観も必要かもしれんのう。
「それでよいわい! ワシの姿を見せさせておくのも大変じゃから、これで双方共に納得したとせい!」
ワシは見えなくなったのじゃ。ルナがジーナのスライムの上でくたびれておったのじゃ。
「ありがとう、コン様」
グーシャがワシに抱きついてきたので、頭を撫でてやったのじゃ。
これにて一件落着じゃ。
奴隷はやり過ぎだったかもしれんのう…。
ここまで読んでくださりありがとうなのじゃ!続きを読んでくださるとありがたいのじゃ!




