9-低レベルアイテムに期待してはいけません
「ほ、本日は、お日柄も良く」
「ミナミさん。それ、違います。スピーチになっちゃいます」
「そ、そうか。つ、月が綺麗ですね」
「それも違います。何高度なプロポーズしてるんですか」
「そ、そうか」
只今、塔の前でミナミさんがパニック中だ。
いきなり現れた知らない人にマヨのいつもは読めない表情に当惑が透けて見える。
脱線、的外れな言葉の場合、僕が訂正しているけれど、そのせいで挨拶から全く進んでいない。
いきなり対面させたのは悪手だったのかな。
「えーと、マヨ」
「何だ」
「こちら、ミナミさん。僕がアイテムを優先的に売る代わりに服を作ってくれる人。後、マヨのファン」
「み、みみ、ミナミです」
「そうか。俺はどうすればいい」
「サインか、握手か、ハグのどれかをすれば良いんじゃない」
「ウルカ! 何て事を言うんだ!は、ハグなんて恐れ多い!」
「ハグが駄目なの? じゃあ、熱い抱擁」
「熱い!?」
おお、ミナミさんの顔が見る見る真っ赤になっていく。
対するマヨの表情に変化はない。
女性が勇気出してるんだから少しくらい笑えば良いのに。
それに比べてルリ子さんと僕は、こんなに楽しげに笑っている。
微笑ましいからで、他意は全くない。
マヨが困ってる姿を見て、楽しいなんてそんな事、思うわけ無いじゃないか。
「解説のウルカさん。この一戦、どう見ますか?」
不意にルリ子さんが僕に話しかけた。
そのノリ、今はとても心地いい。
「そうですね。圧倒的にミナミさんが不利です」
「おおっと、やはりそうですか」
「ええ。ミナミさんは初出場と言うことで実力未知数ですが見て分かる程、緊張しています。更に、ミナミさんの弱点はマヨその物。不利と言わずになんと言いましょう」
「天国と言いますね」
確かに天国と言える。
「対するマヨですが、彼はああ見えて恋愛のプロです」
「プロですか」
「ええ。冷たく凛々しい顔にどきり、実は親切というギャップにどきり、そして深く関わる内に彼の性根を知りどきりと、三段構えなんですよ」
「戦略的ですねえ」
「更に愛した女性を恋人にするために情報収集、情報操作をするような奴です。イケメンは爆発すれば良いのに」
「ウルカさん。本音出てます」
「じゃあルリ子さんは成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能なのにゲームする時間をも作り、尚且つそんな自分に驕らない奴に何て言います?」
「爆発しろ」
「おい、俺はスポーツ万能じゃない」
マヨが何か戯れ言を吐いてるけど、あいつが苦手なスポーツは砲丸投げ、重量上げだ。
それ以外はそつなくこなす高性能ボディはスポーツ万能と言って差し支えない。
「あの、あの、あの」
「お、実況のルリ子さん。ミナミさんが動き出しましたよ」
「本当だ。もじもじと恥ずかしがる様子はまさに乙女。いやあ是非とも見習いたい」
ルリ子さんがもじもじしても多分、僕はときめかない。
多分、お花摘みか悪巧みかのどちらかを疑う。
そんな事を思っていたらルリ子さんがいきなりこちらを睨んできた。
女の勘が、怖いです。
「あのあのあのあのあのあの」
何かミナミさんが壊れかけた電子機器みたいになってるけど大丈夫だろうか。
「すみません!」
その言葉を最後に、ミナミさんは光の輪に包まれ、消えてしまった。
対戦時間、五分。マヨと交わした言葉ゼロ。触れた回数ゼロ。
ミナミさんの戦果は、マヨに植え付けられた面倒臭そうと言う印象。
「これはミナミさんの完全敗北だ」
「ウルカ。お金はどれくらいになった?」
「そして完全なスルーだね。戦いも無かったことにされちゃったよ」
ルリ子さんが言うことも無視してマヨは僕を見て、解答を待っている。
まあ、これからミナミさんのファン人生の黄金期を作るつもりだから、今は流されてやろう。
「ええと、2958Gで売れて、今の手持ちは3358Gだよ」
「ふむ、まずまずだ。アクセサリーの性能とのバランスを見ながら装備を整えれば次の町に行けるが、どうする?」
装備か……。それはミナミさんに任せるから要らないかな。
それよりもお金を貯めて、早く植林地を買いたい。
「目標は植林地。ぶれないよ」
「分かった。ならアクセサリーだけ付けてみてくれ。スライムの宝珠はデータが不足しているんだ」
「え? でも二十レベルまで通用するって言ってなかった?」
「宝珠は特殊な能力が付くときが多い。スライムは倒す利点が少ないからその宝珠もあまり作られず、特殊能力はまだ知られていない」
たかがスライムだから、仕方ないね。
「因みにその一つ上のゴブリンの宝珠の特殊能力は悪食レベル一。効果は生肉を食べてもダメージにならない、だよ」
なかなか面白い効果だ。スライムの宝珠にも期待が高まる。
「じゃあ、付けるよ」
アイテムボックスからスライムの宝珠の首飾りを取り出す。
涙型の青い塊は穴が開けられ、黒い紐が通されている。
僕は、その紐で出来た輪を頭に通して、ステータスを確認した。
「魔法防御が十、上がってる」
スライムから取れたアイテムとは思えないくらいの性能だ。
問題の特殊効果の欄は、この変化のあったアビリティの欄かな。
「効果、悪食レベルゼロ?」
「ゼロか」
「ふふふ、ゼロって。あはははは! ゼロだって! 流石スライム!」
ゼロなんてあるのか。そもそもゼロなら特殊効果無しって言った方がマシじゃないのかな。
いや、特殊効果はあるのか。説明文もあるみたいだし。
「……生水が飲めるようになる」
いや、だから何の効果があるの? だってたかが水だよ。それに川の水とか飲む予定無いし。
ほら、悪食レベルゼロのせいでマヨは頭を抱えてるし、ルリ子さんが笑い死にしそうだし、どうしてくれようか。
「たかが、スライムならこの程度か。気を取り直して、植林地を買うためにこの町の北にある草原で金を稼ごう」
いち早く立ち直ったマヨが強引に話を打ち切り、話題を進める。
「あそこはウルカには早過ぎるんじゃない。ゴブリンがいっぱい居るじゃない」
「いや、ウルカのスキル構成ならなんとかなる」
途端にさっきまで笑っていたルリ子さんが興味深げに僕を見た。
いや、マヨが言い切る様な、スキル構成なんて大層な物は無い。
使える物はマヨに教えてもらった空中動作制限解除と兎跳びだけだ。
だから、そんな期待の眼差しを向けないで下さい。ルリ子さん。
「じゃあ、早速、北の草原へ出発!」
だから、そんな楽しそうに歩き出さないで下さい。ルリ子さん。
気乗りしない僕を引きずるようにルリ子さんが北にある門を目指して歩き出す。
どうしよう。あんなに期待してるけど、結局やることは敵を踏んづける作業だ。
期待に応えて、跳び蹴りでもしようか。
多分今の僕が跳び蹴りをして当たるかは分からないから無理だ。
格好付けて外すより、敵の頭上で慌てふためく僕を晒して笑われよう。
「ほら、ここが始まりの街から、次の町へ行くために横切る。南の大草原だよ」
「おおお」
慌てふためく僕と笑うルリ子さんを想像して憂鬱になってた僕だけど、目の前の光景に気分は全て一新された。
そこにあったのは大草原に恥じない、緑の海だった。
膝の高さまである草が見渡す限りに続き、その絨毯が風に波打っている。
平坦な地形だから、波は奥から押し寄せ、本当に海に来たみたいだ。
右を見ても草原、左を見ても草原、前を見ても草原。
視界の全てに艶やかな草が飛び込んでいる
「綺麗だけど、遭難しそうだね」
「遭難は実際にある。別名、緑海と言われる位だ。北へ真っ直ぐ進む分には弱い敵しか居ないが、東や、西にはもっと強い敵が居る。気を付けろ」
こんなに綺麗だけれど色々物騒な場所みたいだ。
「東にはオーガ系、西にはウルフ系が蔓延ってたね。まあ、どれも私には物足りないけど」
「ウルフ系は集団行動をしているから罠にはめやすい。俺が弱かった頃はそこで金稼ぎをしていた」
二人もなかなか物騒みたいだ。
「それじゃあ、戦いやすいようにゴブリンの情報を教える」
「ありがとう」
「ゴブリンは全部で四種類居る。棍棒を振り回す奴、石を投げる奴、魔法の火を放つ奴、後、剣を使う奴だ」
「この入り口付近には棍棒と石を使う奴らしか居ないからスライムの首飾りは要らないよねー」
悪食レベルゼロは意味なし、微かに上がった魔法防御も用無しじゃ余りにも首飾りが可哀想だ。
けど、必要性が皆無なのは厳然たる事実だ。
「600Gも払う必要あったのかな」
「あはは。600Gのアイテムなんてそんなものさー」
軽やかに笑うルリ子さんだがこっちはお金を貯めるために頑張っているため、笑い事じゃない。
「お前達、勘違いしているようだが、俺達が金を稼ぐ場所はもっと奥だ」
唐突にマヨが言うと、草を踏みつけて先を歩き出した。
「マヨ? 僕初心者なんだけど」
「大丈夫だ」
「ゴブリン軍団の相手をを初心者のウルカにやらせるのは無理があるんじゃないかな?」
「大丈夫だ」
返事をしながら取り出した猟銃を構え、マヨはどんどん先へ進んでいく。
マヨがそこまで言うんだからきっと何か意図があるんだろう。
所詮ゲームだし、肩肘張らないで何が待っているのか楽しみにしよう。
「ウルカ」
「どうしたの。マヨ」
マヨが突然立ち止まり猟銃を構えながら話し掛けた。
肩に銃の端を当て、構える様は、なかなか様になっている。
「何か物音がした。少し跳んで索敵してくれ」
「分かった。……でも、それって僕が敵の的にならない?」
跳んで、敵に見付かって石とか炎が雨あられと降り注ぐ。
嫌な想像だけど有り得なくはない。むしろ可能性が高い。
「見つけたら空中で跳んで、奇襲しろ。援護する」
「あの、僕初心者だよ?」
何か高度な戦術に巻き込まれてる気がしてならない。
マヨのすることだから僕を囮に、なんて事は無いと思うけど。
「大丈夫だ。子供程度の大きさの敵を蹴りつければ良い。援護射撃は当てない。だが、出来ればゴブリンを踏み続けて地面に落ちるな」
「ねえねえ。ウルカ。そんな変則的な攻撃出来るの?」
ルリ子さんが呆れたようにマヨを見ながら僕に聞くけど、それは僕が聞きたい質問だ。
初めにやった戦闘では成功してたけど、そもそもあれはスライムと兎が足の踏み場も無く敷き詰められてたから出来たことだし。
「とにかくやれ。出来なくても構わない」
そこまで急かさなくても良いじゃないか。その言い方だと、意地でもやりたくなくなってきてしまう。
だけど、ここで愚痴を言ってても仕方ない。
マヨを信じて、言うとおりにしよう。




