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N・A・SーOnline  作者: 想磨
8/22

8ー混雑時にはより一層の他者への配慮、協力をお願いします

書き方を若干変えてみました


前話のあらすじ~ウルカは兎跳びのコツを掴んだ。おばばからスライムの宝珠の首飾りを手に入れた。他のアイテムを売りさばきに行こう



 結局マヨの口を割ることは出来ず、目的地の、白い塔にやってきた。


 置いて行かれたルリ子さんが途中で追い掛けて来たというハプニングはあったもののそれ以外は平穏な道中だ。


 無論、ルリ子さんが機嫌を損ねていないか焦ったけど、それも心配無く、笑顔で許してくれたのには驚いた。


 むしろ、合流した時に僕の顔を見てにやにやと笑っていた程、上機嫌だった。


 気にならない。ルリ子さんのその笑みに凄い寒気が走ったけど、気にならない。


「そう言えばこの塔ってどんな役目があるの?」


 これだけ、大きくて、綺麗な建物の活用法がアイテム売買だけとは思えない。


「主にアイテムの売買。複数のスキルの合成。後はイベントもここで管理している」


 成る程。だからあんなに受付が多いのか。


「あれ? ほら、クエストみたいな奴はここでやってないの?」


「クエストはね。街の住人からの依頼って形でやるんだよ。だから街の人に話しかけるのさ」


 未だにニヤニヤしているルリ子さんが僕の疑問に答えてくれた。


 けど感謝の気持ちが沸いてこないのは、多分その人の秘密を握ったような笑いのせいだ。


 全然、本当に、気にならない。


「宝珠の性能もみたいが、先ずはアイテムを売りに行ってからでも良いだろう」


「分かった。行ってくるよ」


 塔の前で二人と別れて、僕は開け放たれた扉から混雑する室内へと踏み入れた。


「うへ、凄いな」


 思わず声が漏れてしまうほどの人混みは、外から見る以上に混雑していた。


 常人なら、この停滞しかけた人の流れに絶望し、ぐだぐだと無為な時間を過ごしただろう。


「けど、僕は違う」


 こういった込み入った場所対して、僕は圧倒的に有利だった。


 小さいから簡単に隙間に潜り込めるし、多少無理しても子供だからと許してくれるのだ。


 ふん。せいぜい勘違いしているがいい。人を外見だけで判断する愚か者よ。


 君達が僕を子供扱いしている間に、僕はこうして、簡単に空いている受付へと続く列に辿り着く事が出来るのだ。


「……空しい」


 幾ら強がっても、子供扱いされている事には変わりない


 こういうものは利点だからと言って、簡単に割り切れない。


 僕はいつ、渋く、格好いい大人になれるんだろうか。


 その答えが出ないまま列の人が次々と捌かれていき、短時間で僕の番になる。


 異様な早さを疑問に思ったけど、その疑問は直ぐに解消された。


「大変混雑しております。手短に用件をお願いします」


 あの、スキルの説明で僕を蜂の巣にした受付だ。


「えと、アイテムの買い取りをし」


「ここに売却するアイテムをお入れ下さい」


 言葉を言い切らない内に、この受付は大きな籠をカウンターに置いた。


 またこのパターン、いや、速度は前よりも早い。


 だけど、今回の僕は一味違う。


 受付のマシンガントークに立ち向かうだけの物量がある。


 見せつけよう。物量が戦いを如何に左右するかを。


 まず僕は兎耳三十枚を素早く籠の中に投入した。


 たちまちいっぱいになる籠をちらりと見て、受付は眉を少し動かし、次の籠を出す。


 すぐさまそこに兎の皮を投げ込むと、籠は瞬く間に、二十枚の皮で満たされた。


 すると、受付が何も言わずに僕をちらりと見た。

 そして、無表情だった顔を崩し、笑みを見せる。


 途端に籠は新しいものに替わっていた。


 これは、受付に勝負を挑まれている。


 昔、時間をかけずに僕をさばいて、追い返した受付が、僕に勝負を挑んでいるのだ。


 それは、僕をライバルと認め、熾烈な戦いへと互いに身を投じようという誘いだ。


 ならば、僕も全力で彼女に答えよう。


 僕は今までとは比べものにならないくらいの速度で籠を兎の皮で満たした。


 と思えば籠は既に新しいものに替えられている。


 甘い。僕も躊躇わずに皮と肉を一気に投入した。


 溢れたアイテムを回収しつつ、差し出される次の籠へ新たなアイテムを投入。


 更に受付の手が速くなる。


 だが、僕もその速さについて行ける。


 いや、僕ならその速さを超える事が出来る。

 既に籠は受付の周りに山積みになっていた。


 そして、最後のスライムの核達が籠に雪崩れ込み、戦いは終わった。


 受付の、籠へと伸びかけた腕がゆっくりと下ろされる。


 そして、交響曲が終わった時の余韻に浸るように、僕と受付はゆったりと互いを見た。


 僕と受付は互いの速さを追い抜き、追い抜かれる中に何かを見いだしたのだ。


「スライムの核は795G、膜は840G宝玉は10G。兎の肉は483G、皮が500G、耳が330。計、2958Gになります」


 受付はにこやかに笑い色とりどりに輝く硬貨を渡すと、僕も心からの笑顔を見せて受け取る。


「またのご利用、心からお待ちしております」


 受付に見送られ、僕は立ち去ろうとしてふと、疑問を覚えた。


「あの戦いの、勝利条件って何だったんだろう」


 そもそも、何であそこまで熱くなれたのか、さっぱり分からない。


 後ろを見れば、受付も同じだったようで、首を傾げつつ、次の客の応対をしていた。


 まあ、いいや。楽しかったし、何より会計が直ぐに終わった。


 思い直して、出口へと向かおうとした僕だが、人混みの中から声がかけられた。


「ちょいと待ちな。そこの子供」


 その声は余りにも無礼な言葉遣いで、反射的に振り向き、反論した。


「子供じゃないよ! もう中学校も卒業してるから!」

 が、その言葉は、無礼者の鳩尾に当たって、虚しく跳ね返った。


 その鳩尾の持ち主を見上げると、背の高い、女性が僕を見下ろしていた。


 彼女が履いているジーンズは片方の裾が太ももまで破かれ、黒いワイシャツのは下から三番目のボタンまで開けられて、お腹が露出している。


 露出魔だろうが何だろうが、無礼者には容赦はしない。


 例え、その片方だけ髪を結ぶ、サイドテールなる髪型に嫌な思い出があろうが、絶対に容赦はしない。


「初対面の高校生に子供、なんて礼儀がなってないよ」


「君が高校生とか、そんな嘘どうでもいいから」


「高校生だから! 嘘じゃないから!」


「はいはい。背をもう少し大きくしてから言わないと、誰も騙されないよ」


 この無礼者は側頭部にまとめた髪を後ろに払い、涼しい顔で聞き流した。


 少しばかり背が高いからって言って誰彼構わず年下扱いする事が許されると思わないで欲しい。


「この露出魔め」


「あたしの知人に露出魔が居るけど、比べものにならないよ」


 比べものにならない? それは違反にならないのだろうか。


 男としては見てみたいけど、女性は、男性の視線に強い不快感を感じるらしい。


 つまり、格好良く、渋い紳士を目指す身としてはそんな欲望は律して見せる。


 マヨくらいの顔と性根があればむしろ見るのが礼儀になるのかも知れないけど。


 ルールすらねじ曲げてしまうんだから、これだからイケメンは困る、と言われるんだ。


「話が脱線したな。あたしはミナミだ」


「あ、ウルカです」


 考えに没頭している最中に自己紹介されたから無意識に自己紹介しちゃったけど、こいつは無礼者だった。


 いや、だからと言って無視するのも悪いし、人の失敗をつつきまくるのも大人げないか。


「単刀直入に言おう。あたしにアイテムを売れ」


 アイテムを売れと言われても今売ったばかりだし、何より人が欲しがるようなレアアイテムは持っていない。


「服装からして初心者だろう。あたしの考えが分からないだろうから説明してやる」


「あ、ありがとうございます?」


 少し上から目線で話されている気がする。


 いやいや、大人げないから、涼しい顔で受け流そう。


「あたしは服飾系のスキルを取った。だけど、スキルのレベル上げには大量の服を作らなきゃならない」


「そうですね」


「それには勿論、大量のアイテムが必要だ。これで分かるな?」


 つまり、僕が大量にアイテムを売っている所を見て、丁度良いと思った訳なのか。


「でも、さっきの成果は友人のおかげなので」


「それでも良い。たまには友人とやらに手伝って貰えるんだろう」


 ずいとミナミさんが接近した。


「まだ分かりません」


 僕が後ずさると、ミナミさんが追うように更に前進する。


 思わず、また後退すると、ミナミさんがどんどん近付いていき、僕はどんどん壁際に追い詰められていく。


「それでも良い。私と組め。さあ」


「ミナミさん。落ち着いて」


「さあ、組め。さあ」


 迫るミナミさんに僕はまた後ずさろうとしたけれど、背中に何かが当たって下がれない。


 何か、何て考えなくても分かっている。壁だ。


 つまり、逃げるとしたら横しかない。


 その思考のままに横に逃げようとしたら、ミナミさんの両腕が壁を付き、僕を捉えた。

 今にも食い付きそうな視線と勢いで見下ろされるとかなり、怖い。


「な、何で僕なんですか? 初心者ですよ?」


「実は……」


「じ、実は?」


「未だにそう言った人が確保できず、行き詰まりかけてる」


「…………そう、なんですか」

 見上げた表情の割には案外可愛らしい事情だった。


 だけど、そんな理由だからこそあんなに真剣に説得するのも頷ける。


「行き詰まる前にお願いしなかったんですか?」


「服飾系スキルは主に布や皮を使うスキルだ。それらは鉱物と比べると物理防御力に優れていない」


「つまり、鎧を作る人と手を結んだ方が良いって事?」


「そう言う事だ。魔法抵抗、いわゆる魔法防御力も特殊な鉱石を混ぜればかなり上がる」


 世知辛い世の中だ。


 それにしても鎧だけで魔法と物理がまかなえるなら何で服があるんだろうか。


「どうせお前も服の価値を疑問視してるんだろう。だが服は決して価値が無い訳じゃない。服はお洒落に幅があるし、魔法抵抗と共に素早さを上げる物もある。決して、鎧に負けてなんか無いんだ」


「お洒落?」


 お洒落な服で格好良くダンディズムに溢れた僕になれるんじゃ無いんだろうか。


 そう、タキシードとか、燕尾服とか、シルクハットなんて物だ。


「お洒落な服を着れば僕も格好いい大人な男性になれますか?」


「君が、大人な男性になるための、服か…………いや、やっぱり」


「作る気があるならアイテムを全力で集めます」


「よし、やろう。君を格好良くしよう」


 僕とミナミさんは固い握手を交わし、頷いた。


 勿論、ミナミさんのあの微妙な間は気付かないことにする。


「あ、でも、しばらくはマヨの計画とかに乗るかも知れないからね」


「マヨ……。まさか、マヨネーズは史上最高の発明かつ世界一の調味料さんか」


「そう。それ」


 流石、最前線で活躍するだけはある。知名度が高い。


 だけど、まさかあの名前の全文を覚えている人が居るとは思わなかった。


「まさか『玉箒』と友達だとは思わなかったな」


「『玉箒』?」


「そう、憂いを払う玉箒と言うだろう」


 お酒の事を言う言い回しだけど、マヨは未成年だし、実家が酒屋を営んでいる訳でもない。


「一体どういう意味なんですか?」


「そのままの意味だ。ボスにはたまにだが取り巻きが居るんだ」


 知らなかった。それなら大変だなあ。


「だけど、『玉箒』が居ると、一瞬で取り巻きが死ぬ」


「おお」


「しかも無限に湧くような時でも湧いたそばから死んでいく」


「おおお」


「更には弱いボスなら巻き添えで死ぬ」


「マヨ格好いいー」


 ミナミさんの話で頭の中に、爆炎の中で死ぬ巨大なモンスターとその取り巻き、そしてそれを背にするマヨが勝手に思い描かれている。


「成る程。『玉箒』ならあのアイテム量は納得だ。あの御方は一瞬でモンスターを消すからな」


「爆炎すら起こさないの!?」


 罠というより魔法みたいだ。

 一体どんな戦い方をするんだろう。


 地道に情報集めて、地道に罠を張って、そして、華々しく敵を倒すんだろうか。


 それとも罠を張って、大胆に誘導するんだろうか。


 まさか敵を発見してから罠を張るなんて不敵な真似をするんだろうか。


「ウルカ、おい」


「ん? 何?」


「マヨさんを紹介しろ」


「紹介?」


 こちらミナミさんです。後は若いもので、と言えば良いのか。


「あの御方を頼るつもりは無いが、あの御方の舎弟と手を組むんだ。挨拶はしておかないと」


「舎弟じゃないよ。友達だから」


「舎弟でも、友達でも良い。紹介しろ。いや、サインだけでも良い」

「さ、サイン?」


 紹介から何でサインに変わるんだ。


「出来れば握手もお願いしたい。いや、無理なら良い。あの御方は忙しい身だ。二日後にもまた大規模なボス戦がある。あの御方の助力が必要だろう」


 握手? あの御方? ま、まさか。


「ミナミさんってマヨのファンなの?」


「ふ、ファンではない。憧れているだけだ」


 憧れてて、サインやら握手やらを頼むなんて、どう言い繕うとファンだ。


「そっかあ。マヨにファンかあ」


 憎らしい程モテる奴だったけど、まさかゲームの世界でもモテモテだったなんて。


 何か、凄く、イライラする。


 マヨの彼女さんにこの現状を報告してやろうか。


「それで、どうなんだ。サインか? 面会か? 握手か?」


「うーん」


 マヨが嫌がるかも知れないけど、ここまで熱中しているミナミさんを無碍にするのも気が引ける。


 本当に、本当に気が引けるんだけど。


「でも、ミナミさんががっかりする位ならあのモテ男を困らせる方が良いよね」


 いやいや、モテる男は辛いねえ。



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