10-チュートリアルを見ないと苦労します
マヨに急かされるまま僕は地面を蹴った。。
「よいしょ」
風を切り自分の身長ほど上昇すると、長い草に隠れていた何かが容易に見えた。
「そりゃマヨも早くしろって言うよ」
眼前に広がった、緑の光景の奥の方に灰色の頭が幾つも集まっていて集会所のようになっていた。
灰色の顔は歪んで怒りを示し、たまに草の中から兎の死体がちらりと見える。
十五匹程のゴブリンの集団が三つあり、それらで一匹の兎を取り合っているようだ。
「つまり、この塊を散らす前に奇襲しろって事だね!」
僕は空中で更に跳躍して、高く飛び上がると、塊の真ん中に居る、兎を奪い合うゴブリンを踏みつけた。
「ンギ!」
猿が何かに踏まれたような声を出し、潰れたゴブリンを更に踏み台に飛び上がる。
すると、敵襲に気付いたゴブリン達が石や火を投げて始めた。
空中で身体を捻れば大抵はかわせる。
「でも、少しは当たるか」
けど気にしないで、もう一回、ゴブリンを踏みつける。
途端に棍棒を持ったゴブリンが襲いかかるけど、振り下ろされる前に空へ脱出。
すんでのところで棍棒を避けることが出来た。
石と火はなるけど棍棒は足をかすめて心臓に悪い。
直撃したら地面に落ちて袋叩きだ。
それにゴブリンの足の速さじゃ踏みつけ攻撃は避けてしまうかも知れない。
「……飛び蹴りの練習でもしようかな」
思い立ったが吉日。身体を捻って、足を空へ向ける。
「ここで蹴る!」
空へと向けた蹴りは、僕の身体を落として、ゴブリンの群に急降下した。
ここで更に身体を捻って、踵を、ゴブリンへと……。
「ぶつける!」
手応えがあり、僕が下を見ると、僕の足の下にゴブリンが居て身体が消えかけていた。
「やった」
おっと。喜ぶ前に空中に逃げないと。
空へと跳びながら僕は一発で成功した事の喜びを噛み締めた。
「でも、これはゴブリンの背が低いから出来るんだよなあ」
多分、僕と同じ大きさだったら身体を捻る時間がなくなって、ただの体当たりになっていたはずだ。
「つまり、この方法って背が低いモンスターにしか通用しないんだよね!」
もう一度、同じ動作をして、火を使っていたゴブリンを地面にめり込ませる。
そして、石と火の雨をくぐり抜け、更に一撃。
膝打ちでも良いのかも知れないけど空へ逃げるときに隙が生まれるかも知れない。
ここでマヨの声が少し離れた場所から聞こえた。
「後二分で全滅させろ」
「はあ!? 無茶だよ!」
僕の友達は初心者になんて要望を出してるんだ。
モテすぎて頭がお花畑になったか、爆発でもしたのか。
「無茶でもやれ。アイテムは五分で消える」
「全力で頑張ります!」
五分で消えるなんて初耳だ。そもそも消えるんなら初心者に軍隊を相手させるなよ。
いや、教えて貰ってる身でどうこう言わないけど、言わないけどさ。
「マヨがスパルタ教師だとは思わなかったよ!」
こうなれば空へ逃げる時間は無い。
ゴブリンの顔面を蹴って真横に跳ぶ。
そして、直ぐ近くのゴブリンに……。
「一撃! 次!」
火を投げるゴブリンを蹴飛ばし、棍棒を持っているゴブリンをへし折る。
もう石や火を避けるなんて事はしない。
真正面から跳び込んで蹴りつける。
剣と棍棒も同じく蹴り飛ばす。
ゴブリンの群れの中を僕は縦横無尽に駆け回った。
そうやって二分、僕は全てのゴブリンを蹴り飛ばし終えた。
気が付けば兎跳びはレベル二、僕自身のレベルも後少しで上がりそうだ。
「やっぱり、初心者のやることじゃない」
一端町の入り口まで戻った僕は、精神的疲労を癒すため、地面に寝転がっていた。
未だに空を駆けずり回っている感覚が体から抜けない。
海に行って帰ってきたときにまだ波の中を漂っている感覚があるのと同じ原理だろうか。
「いやあ、ウルカがまさかあそこまでトリッキーなプレイヤーだとは思わなかったよ」
ルリ子さんが隣に座りながら僕に笑いかけた。
金色の髪と青いドレスは風景と相俟って一枚の絵にでもなりそうだ。
「僕も、まさかトリッキーなプレイヤーにさせられるとは思いませんでした」
ゲームをやる前は、弓でも使って格好良く一撃必殺を狙う僕を想像していたんだけど。
「あははは。素質があるんだねえ。空中動作制限解除をあそこまで使いこなすなんて驚きだよ」
「僕も驚きです。疑問に思ったんですけど、普通は空中動作制限解除ってどう使うんですか?」
僕の使い方が真っ当だとは思えないし、蹴り飛ばす為だけのスキルなんて意味がない。
「そうだねえ。大体は空飛びながら戦いたい人が取るって感じかな。ほら、そのスキル無いと空中で剣も振れないから」
つまり、空飛ぶスキルのお供だった筈なのに、マヨは敢えて、跳躍系のスキルと組み合わせたのか。
「マヨのやることは凄いね」
「私は君の適応能力の方が凄いと思うけどね」
「あはは。七分みっちり鍛えれば誰でも出来ますよ」
そう、死ぬ気で、四百体ほど倒せば、誰でも簡単に出来るだろう。
「それはそうと、マヨはどうしたんですか?」
「マヨは今、仲間からの連絡が入ったから話してる最中。終わったらまた同じ事をやるだろうから今の内にアイテム確認しておいたら?」
と言われても、興味を引くようなアイテムなんて無かったはずだ。
僕は皆で集めたアイテムをボックス内を確かめて調べた。
ゴブリンの腰巻き、ゴブリンの宝玉、後は石。
腰巻きと宝玉は納得出来るけど、石って何に使うんだろう。
多分、ゴブリンが投げていた奴だから投げる事が出来るだろうけど、プレイヤーに必要なのだろうか。
「ルリ子さん。石って何に使うんですか?」
「パチンコの玉とか、でもたまに宝石の原石の時があるから大抵磨いてもらうんだけどね」
「宝石の原石かあ」
ミナミさんが磨けるなら磨いてもらおうかな。
それにしても宝石の原石を投擲するゴブリンなんてかなり剛毅だ。
価値が分からないから、と言うのもあるかも知れないけど、宝石を投げるゴブリンに裏設定なんてあったら面白そうだ。
「ウルカ」
唐突にマヨの声が聞こえ、僕が後ろを向くと、しかめ面をしたマヨが門のすぐ前にいた。
「何かあったの?」
「うむ。俺が所属しているレギオンに呼ばれてな」
「レギオン?」
「要はギルドみたいな物だよ。因みにマヨと同じ所に私も入ってるんだ。五本指に入るほどの勢力だし、かなり人が居るんだよねえ」
そう言うルリ子さんの腕をマヨが掴み、無理矢理立たせた。
「お前も来いとのお達しだ」
「リーダーが?」
「ああ」
「なら、仕方ないか」
リーダー以外が来てくれと言ったら行かないつもりだったのかな。
渋々歩き出したルリ子さんの後を追おうとしたマヨが、立ち止まり振り返る。
「安全に行くなら、南の野原で金を稼ぐと良い」
「うん。分かった」
言われなくても勿論、最初からそのつもりだ。
マヨが早足で門を潜る姿を見送り、僕はふと、今までの出来事を思い出して気付いた。
「さっきまでのはチュートリアルか」
多少、強引な場面はあったけど、取り敢えず楽しく遊ぶための知識は得た。
ここからは、僕らしくやってみよう。




