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N・A・SーOnline  作者: 想磨
5/22

5-他者への迷惑行為は禁じております

「お疲れ。お香の有効時間は十分。スライムのドロップアイテムの割合は核が五十、膜が四十、宝玉が十。兎はまだデータ不足か」


 マヨのおざなりな労いの言葉が疲れきった頭を通り過ぎた。


 更に続く独り言を僕はお香の効果が無くなった静かな野原に寝転がって聞き流す。


 下を向いて、必死に飛び跳ねたからか気分が悪いし、使いすぎた頭は熱を持っている気がする。


 その熱を奪う風が心地良良いけど、暫くは顔も上げたくない。


 でも、マヨにこれだけは言っておかなければならない。


「いきなり臨床実験に付き合わせないでよ」


「いつもは格下相手を一気に始末するために使うお香だからウルカのレベル上げにも使えると思ったんだ」


「でもそのお香の効果、詳しく知らないみたいじゃないか」


 つまり、レベル上げの大義名分を掲げた臨床実験だって言われても何も言えないはずだ。


「ああ。友人の最新作だから詳細な効果は知らない。以前の物とは持続時間は格段に上昇していた」


 容易く自白し、尚も悪びれないマヨに僕は苦笑した。


 どうせ追求しても、だから何だ、と言うに違いない。


 なら、さっさと諦めて、疲れた頭を草にくっつけた方が建設的だ。


「そう言えばお香なんて物、作れるんだ」


「ああ。人気は無いが罠を使う俺は重宝している。箸も、縫いぐるみも作れる。多分、現実に有るもので作れない物は無い。回収したアイテムを渡す」




 マヨが言うと、軽妙な音と一緒に大量のアイテムが僕のボックス内になだれ込んだ。


 連続して入ってくる効果音はうるさい筈なのに何故か耳に心地良い。


「スライムの核が百五十九、膜が百二十、宝玉が二十一。兎の肉が六十九、皮が五十、耳が三十。大量だね」


「ああ。レベルもかなり上がった筈だ」


「ああ、そう言えばそうだね。確認してみる」


 精神的に疲れてて確認するのを忘れてた。


 あれだけ頑張ったんだ。レベル五くらいにはなってるかも知れない。


 えーと、ステータスを確認。レベルが十。跳躍のスキルレベルが六。


「……十!?」


「ふむ、意外と上がらないようだ」


「いやいやいや、十分だよ。たったの六百秒でレベル十だよ?」



「モンスターを四百体以上も倒して十だ。いや、レベルが上がるに連れ、貰える経験値が少なくなるから当然か」


 マヨが何を言っているか分からない。


 まだ初めて少ししか立っていないのに何時の間にかレベルが十。


 この結果を当然だと言う風な口調で、驚いた様子がないマヨの方が驚きだ。


 ステータスの割り振りポイントも四十五に増えているし、スキル欄ではハイジャンプの横に兎跳びなんて文字が明滅してる。


「何が何だか分からない」


「俺の実験に付き合った結果、ウルカは七時間程の成果が凝縮された十分を過ごした」


「マヨのせいか」


「俺のおかげだ」


 ああ、そうか。マヨのせいで頭が痛くなるくらい精神的に疲れて、マヨのお陰でレベルが凄い上がった。


「えーと、一応、お礼言っておく。ありがとう」


「礼には及ばん」


「でも、植林地を買ったら呪いの藁人形作っておくね」


「止めてくれ。効果のある藁人形もあるから」


 それは良いことを聞いた。十体くらい買っておこう。


 勿論使い道は実験に付き合わせたマヨへの呪詛だ。

 マヨには学校中の男子が発する負の感情がまとわりついているからきっと効果を発揮するに違いない。


 妬みが五割、逆恨みが四割、憎しみ一割の負のオーラをたっぷり吸収した人形が目に浮かぶようだ。


「ふふふ」


「……寒気がするな。町へ帰ろう」


 マヨが何かを察知したように草茂る窪地を登り始めた。


 僕も藁人形の空想を止めて後に続こうとすると、不意に目の前に影が落ちる。


「やっぱりマヨ君の仕業だったようね」


 上から女性の声が降り注ぎ、顔を上げると、窪地の縁で髪の長い女性が腕を組んでいた。


 彼女は青いドレスをたなびかせ、まるで階段があるかの様に窪地を降りていく。


 緩やかにうねる金髪はその度に揺れ、豪奢な首飾りや紺碧の海を練り上げて固めたような長い杖が煌めきを放つ。


 どれをとっても気品に溢れるその人だが、顔は悪戯を仕掛けようとする子供のように笑っていた。


「マヨの知り合い?」


「一応」


「一応なんて酷いじゃないか。暑い夜を過ごした仲だろう?」


「あ、熱い夜!?」


 まさかの恋人。いや、浮気か。マヨの恋人が知ったら、大変な事になる。


 そして、学校中の男達が号外を出し、浮気を大義名分として、ここぞとばかりにマヨに殴りかかるだろう。


 まさしく、修羅道。男達がことごとく地に倒れ、マヨが困ったように溜め息を付く未来が容易に想像出来る。


「ジャングルでの熱帯夜の事なら暑苦しい夜と言った方が正確だ」


 何だ。熱い、じゃなくて暑いだったのか。


 しかし、これで学校閉鎖は免れた。


「初めまして。私はルリ子。ご覧の通り、魔法使いだ」


「僕はウルカと言います。えーと、初心者です」


「いや、初心者じゃない。兎だ」


「そうね。君の職業は兎だ」


「兎族ですけど兎じゃない!」


 職業兎って何すれば良いのか分からないよ。


 跳べば良いのか? 確かに僕は歩くより飛び跳ねる時間の方が長かったけど。


「何故お前がここにいる」


「スライムがいきなりぞろぞろと列を成してたから気になったんだ」


「初心者用エリアに来た理由は?」



「暇だからマヨをからかおうかと」


「帰れ」


「嫌だ。私は一日一回マヨをからかわないと死んでしまうんだ」


 ルリ子さんの性格が分かってきた。


 多分、お祭りの時にはしゃいで、はしゃぎすぎて疲れて、誰よりも早く帰るような人だ。


「さてと、君が年下の男が好きだったとは思わなかったよ」


「誰が年下だ! 僕はマヨと同い年だからな!」


 しまった。つい反射的に怒ったけどルリ子さんのような性格の人にはこの反応は拙い。


 現に何か楽しそうに笑ってる。その笑み怖い。優しく微笑んで下さい。


「話は後だ。先ず町に行こう」


「そうだよ。もう疲れたし」


 マヨの助け舟に乗り込んで僕はそそくさと歩き出した。


 まだ視線を感じるけどルリ子さんも大人しく町へと歩き出したようだ


 マヨには後で何かお礼をしておこう。


 そう決意して、マヨの後を歩いて門をくぐると、彼は大通りを歩きながら思い出したように僕に質問をした。


「スライムの宝玉だが、どうする?」


「どうするって? 何が?」


「ああ、宝玉は装飾に使えるのだよ。兎君。後、集めて固めれば宝珠って強力なアイテムにもなる」


 ルリ子さんに話を奪われて、マヨが少し睨み、話を受け継いだ。


「スライムの宝珠は二十レベルまで通用するアイテムだ。アクセサリーにするなら安価で作れる」


「因みに、二十個で宝珠一つ。料金は二百G。アクセサリーにするなら五百は必要だね」


 七百の出費に見合う性能なのかな。いや、そもそも、レベル上がったばかりだし。


 ステータス割り振って、性能確かめてからじゃないと決められない。


「ステータス振ってから考えるよ」


「ふふふ、そんなのんびりで良いのかな。マヨが急いでいるのに」


 マヨが急いでいる? 余り表情変わらないし、いつも通り計画を練って手短に事を運んでるだけのように思える。


「本当に急いでるの?」


「多少」


 全然気付かなかった。でも、確かにあのお香を使った実験は情報をかき集めてから動くマヨらしくなかった気もする。


 でも、何で急いでいるんだろう。用事があるなら僕を後回しにして、動くだろうし。


「その心の中にある質問! 私が答えよう!」


「マヨ、何で急いでるの?」


「私を無視しただと!? 何故だ!」


 さっきからせわしなく動いているルリ子さんに聞いても集中出来る自信がないからです。


「最近始めた人々の中にマナーが無い人が混ざっている。問題に巻き込まれる前に広い町に行って接触の危険性を下げたい」


「マナーが無い人?」


「ああ。モンスターと戦っている最中に魔法で横取りする。アイテムを無断で拾う。周りに人が居るのにモンスターを大量に引っ張って仲間で殲滅する等やりたい放題だ」


「因みに最後の行為はトレインって行って、暗黙の了解で禁止にされてるよ」


「お香は?」


「範囲を限定している物を、人が居ない所で使うなら平気だ」


「でも、もし人が来たらお香を途中で止めるくらいの謙虚さが必要よね」


 制作者側が決めた物の他にも色々細かいルールがあるみたいで覚えていられるか不安だ。


 気付かない内にルール違反でキャラクター消される人とか居るのかな。


「端的に言えば、人の迷惑になる行為は止めろ、ということだ」


 成る程。つまり、町中で大声出して騒がない、とか、電車に乗る前に携帯の電源を切るとかと同じ配慮をすれば良いのか。


「それなら簡単だね。でも、そのマナー悪い人達は何でそんな事してるんだろう?」


「分からない。情報が足りなさすぎる」


「そんな奴らを気にするより、ステータスポイントを振れば? どうせ対応は苦情を言うくらいなんだから」


「そうだね」


 気にはなるけど、僕にはどうしようもないし、見ない、近付かない、触らないの三条件を満たせば大丈夫だろう。


 僕はマナーの悪い人達の事を頭から振り払い、再びステータスを開いて、自分の能力を見てみた。



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