自分のペースでゲームを楽しみましょう
たった今、このRPGゲームが恋愛ゲームに変化したことに気付かずマヨは作戦を伝える
「先ず、スキルポイントは温存しよう。初心者に貰える軍資金は確か千Gだった筈。……ならば装備の購入は後回しだ」
「何で?」
「その値段で買える装備なんてたかが知れてる。初期装備で十分だ」
「初期装備って、靴と短パンとシャツなんだけど」
「問題無い」
そう言うと、マヨは長閑な町を歩き始め、僕は慌ててその後をついて行った。
「これからウルカにしてもらうのは効率重視のレベル上げだ」
「効率重視ってまさか強い敵に突っ込むの?」
いきなり魔王に挑む棍棒装備の村人なんて、勝利じゃなくて笑いが目的としか思えない。
「違う。相手は最弱のモンスターだ。効率化の事は俺が何とかしよう。ウルカはひたすらハイジャンプのレベルを上げてくれ」
いきなりレベルを上げろと言われても戸惑うしかない。
「ハイジャンプのレベル上げのやり方なんて知らないよ。ただ跳べば良いのかな」
流石にそれは無いか。余りにも簡単過ぎる。
「ああ、そうだ」
冗談がまさかの正解なんて、想像しなかったよ。
「跳ぶだけ?」
「ああ。今からウルカはジャンプしながら移動するんだ」
「え、恥ずかしいんだけど」
「ほら、早く」
マヨに急かされ、仕方なく、両足で飛び跳ねながら進んで見る。
けれど、やっぱり周りの視線が痛い。
指差されてるし、笑われてるし、向こうで大爆笑する声も聞こえた。
何事か、と集まって来た人で、人集りも出来てる気がする。
「マヨ、羞恥心で死にそうなんだけど」
「植林を取った自分を恨め。それにスキルレベルを上げる奇行は良く見る光景だ」
「……やっぱり奇行なんだ」
上下する視界の下の人混みと、揺れる耳が捉える笑い声。
やっぱり気になってしまうが、こうなれば、自棄だ。
無視して、景色を楽しもう。
そう思い直すと、高いところからの景色に興味深い発見を次々と見つけた。
プレイヤーは大通りにしか居ないと思ったら、何故か屋根伝いに走る人も居る。
見えなかった煙突からは煙が上がっているし、屋根の隙間からは薬という文字が書かれた看板が少し見える。
もしかしてこの町の探索出来る場所はかなり広いのかも知れない。
「マヨ、ここってどこまで探索出来るの?」
「ここを探索する人はかなり少ないが、一応全ての家、店に少なからず何か用意はされている。流石に何かまでは調査できなかったが」
「マヨが調べられないほど有るんだ」
「ああ。興味があるならレベルを少し上げた後、好きに動くと良い。俺もここには用事があるから」
マヨの用事って何だろう。マヨはかなりのプレイヤーらしい事は会話の端々で分かるからきっと凄い用事何だろうな。
「ん? そう言えばマヨのレベルって幾つ?」
「七十二だ」
「……それって凄いよね」
「一応、未踏破フィールドの最前線で戦えるな」
そんな人が僕の補佐をしてくれるなんて、頭が上がらない。
跳べと言われて跳んでいるから実際、頭はかなり頻度で上がってるけど。
「お、少し高くなった」
跳躍したときに、薬の上半分しか看板が薬の下まできちんと見える。
「初歩的なスキルはレベルの上がりが早いからだ。そろそろ跳ぶのを止めろ。フィールドに出る」
マヨに言われなくても門が見えていたから分かる。
その門の向こうには野原があり、スライムやら野兎やらが歩き回っていてスライムを除けば穏やかな風景だ。
そして、そこではモンスターを狙って、僕と似た服装のプレイヤーが短剣や手斧を振り回していた。
「これからどうするの?」
「先ず、俺がこれを使う」
マヨが手の平を見せると、円が生まれて、中から小さな布袋が出て来た。
「マヨ、いつの間に手品が使えるようになったの?」
「アイテムボックスから取り出しただけだ。これはモンスターをおびき寄せるお香を入れた袋だ」
「ふむふむ」
「それで寄ってきたモンスターを」
「モンスターを?」
「連続で踏み続けろ。頭を踏み台にして跳ぶと更に効率が良い」
「僕、そんなに身体能力高くないよ」
跳び箱も、鉄棒も何とか出来るけど竹馬は乗れない。そんな一般人の身体能力を過大評価しないでほしい。
「ゲームだからタイミングの問題だ」
マヨが問答無用と言わんばかりに僕を門の外へ引っ張り出し、歩き出す。
「人気の無いところでやるぞ。他の人に迷惑はかけたくない」
「本当にやるの? レベル一だよ? 初心者だよ? まだ剣も振ったこと無いんだよ?」
「本当にやる。レベル一でも初心者でも出来る。剣は必要無い」
ことごとくマヨに反論され、僕が行き着いた場所は、盆地のようにくぼんだ場所の真ん中だった。
「良し。お香を使った」
「心の準備をする時間は!?」
「無い。実はそもそも可能かどうかも分からないから失敗したなら手早く終わらせたいからな」
「今更言わないでよ!?」
マヨの奴、僕を実験台にしやがった。
逃げようとしたけど、既にモンスターがどんどん集まってきて、逃げられない。
「む、意外と多いな。発生源の近くだったか?」
「マヨ!?」
「安心しろ。アイテムもお前の骨もちゃんと拾う」
「バカヤロー!」
マヨなんか、もう知らない。あいつの言うことなんか信じてやるものか。
絶対、生き残ってやる。
先ず、目の前に居るスライムに向かって跳び、思いっきり踏みつける。
「ふみゅ」
「何か声が出た!」
その透明で丸い身体のどこから声を出したんだろう。
気になりつつも、消えかけるスライムを踏み台にもう一回跳躍する。
今度は、あの犬歯が覗いている以外普通の兎にしてみよう。
「ヴァ」
「何か滅茶苦茶濁声だ!」
怖い。愛らしい兎が出して良い声じゃない。
しかも濁声兎は死なず、僕を捕まえようとする。
慌てて跳躍して、スライムの頭を踏み台に再び兎を踏みつける。
「ふみゅ」
「ヴァ」
兎が消えかけてるから、二撃で倒せるのか。
なら、スライム一、兎一、スライム二、兎一、と言う風にやり続ければ死にはしないだろう。
そこから、窪地には可愛い声と怖い声の混声合唱が響き渡った。
たまにレベルアップの音が聞こえるけどそれも直ぐに声に飲まれて消えていく。
「マヨ。これ、何時まで続くの?」
「初めてやったから知らない。データを取りたいからそのまま倒しててくれ」
「実験に使うな! 何でマヨは無事なのさ!」
「レベル七十二がスライムの攻撃に屈する訳がない。ダメージは五十匹が襲ってようやく一削れる程度だ」
つまり、ピンチなのは僕だけなのか。
既に何匹倒したかも分からない。なのにまだまだ増え続けるモンスターに心折れそうなのは僕だけなのか。
心にどす黒い何かが生まれた気がする。そいつは、彼の冷蔵庫にあるマヨネーズを全て捨てろと囁いている。
「そう言えば、ドロップアイテムが百二十越えたぞ。初心者にしてはなかなかの稼ぎだ」
「本当!?」
「三分でこれなら一時間もやれば植林地が買えるな」
「ふふ、あはははは! さあ虫けら共よ! どんどん来るが良い!」
一時間? 余裕だよ。だって僕は兎だから。跳ぶのと餅付くのが仕事だから。
「お前達の屍を踏み台にして、僕は土地を買うんだ!」
「単調な作業で精神に異常が発生したか? 後六分で休憩を挟むとしよう」
さあ、雑魚共よ。早くお金を落とすんだ。




