3-安易なスキル取得には責任を持てません
「早くスキルを決めろ」
「打ちひしがれる時間くらい良いじゃないか!?」
兎耳と早口にやられた僕に鞭打つなんてマヨは恐ろしい奴だ。
きっと身も心もマヨネーズに侵食されたに違いない。
傷口からはマヨネーズ。涙の代わりにマヨネーズ。一皮めくるとマヨネーズ。
「お前はもう人間じゃない!」
「良いからさっさと決めろ。眺めるだけでも楽しいから。ほら」
マヨは僕の手から表を奪うと、開いて目の前で見せつけた。
「そんなので騙されるわけ」
何だこれ。人形使い? 石化? 呪術師?
いやいや、騙されない……この調理スキルは何で戦闘用と生産用の二つのマークが付いてるんだ?
「それに何で液化があるんだよ。水になったら弱くなるでしょ」
「液化は物理に弱くなるが魔法に耐性を持つことが出来る。横にあるのが必要なポイントだ」
今のスキルポイントは十。大体のスキルに目を通すと、無理やり割り振れば五つの枠全部が埋まる。
「マヨ。こういう時の基本って何?」
「攻撃系と金を稼ぐ為の物を入れれば、どうにでもなる。だが、敢えて言うならば兎族固有スキルを取っておくと良い」
「兎族固有スキル?」
僕は表に目を走らせると、確かにそんな欄があった。
「でもハイジャンプとか、月の加護とか微妙な物ばかりだよ」
説明を見るとハイジャンプは跳躍するだけだし、月の加護は夜中にしか効かない。
しかも新月になるとステータス低下だ。
加護どころか呪いになってませんか。お月様。
「確かに月の加護は微妙だ。だが、ハイジャンプは良い。これは元々、ジャンプのレベルを上げないと取得出来ない」
「へえ」
「更に空中動作制限解除で」
「解除で?」
「飛び蹴りが出来る」
「おお、格好いい」
「それに威力もそれなりにあるから上位スキルを取るまでの繋ぎになる」
つまり、飛び蹴りでレベルを上げて強いスキルを得るまでポイントを温存するのか。
「流石マヨ! 情報戦略で女を落としただけはある!」
「言うな。あれは若気の至りだ」
何を言う。緻密な情報収集。自身の情報を適切なタイミングで開示。更に周りの噂を操作して自分を好青年に見せたあの手腕。
「軍師って言われるだけはあるよね」
「もう、止めろ。あいつにもからかわれてるんだから。はあ」
褒めただけなのに陰鬱な雰囲気になったマヨは放って置いて、スキルを取得しよう。
ハイジャンプと空中動作制限解除で三ポイント。
ふむ、これで残り七ポイントだ。
金稼ぎは料理から細工まで大量の系統があるけど。
「狩と決闘の神様の名前を貰ったんだから何かそれにちなんだ物が良いなあ」
北欧神話のウルさんと言えば狩猟、決闘、スキーの神様だ。イチイの木から作られた弓を持ち、雪山を駆け巡る。
「……植林でもしようかな」
僕の乏しい知識じゃこれしか思い浮かばなかった。
「んーと、じゃあ固有スキルの植物用成長促進もって、何で一般スキルにも同じ名前があるんだろう」
まあ、いいや。兎族固有の方で。
これで合計七ポイント。後三ポイントで攻撃スキルを取るのか。
「でも、どの攻撃スキルもだいたい三ポイントだし、四ポイントの斧なんて使わないよね」
「残り三ポイントしか無いのか」
「あ、マヨ。立ち直ったんだ」
「何とか。スキル構成はどうだ?」
「えーと、ハイジャンプ、空中動作制限解除、植林、成長促進。で、後三ポイント」
説明したらマヨが何やら深刻そうな顔をして、僕の肩を掴んだ。
皆はいつもと変わらない表情に見えるらしいけど、眉の位置や目の開き具合でどの位深刻か僕とマヨの彼女には分かる。
今回は、まあまあ、それなりに深刻なようだ。
「ウルカ。良く聞け」
「うん」
「植林と成長促進を選んだのはまだ何とかなる良い。初期投資は大変だが後に他の金策よりも上回る回収率になる」
「でしょ。ちゃんと考えてるんだから」
だけど、マヨの表情は晴れず、鋭い眼差しで僕を見る。
「だが、木を採集するにはポイントを四つ必要とする攻撃スキルが必要なんだ」
「え?」
「資金繰りして、木を植えても、回収できない」
「あは、ははは。嘘だ!」
まさか、だって木なんて切れれば良いんだから、スキルを使わずにただ斧を振ればいいだけじゃないか。
「このゲームの木は現実よりも堅い。仕様だ」
「し、仕様のバカヤロー!」
仕様が何だ。僕は絶対木を斬ってやる。斧がないと斬れない?
斬れなければ折れば良いんだ。殴って、蹴って、叩きまくればきっと折れる。
「だが、幸い初心者ダンジョンのボスを倒せばスキルポイントが一つ手に入る」
「良し行こう!」
やっぱり素手で木を折るなんて無理だよね。それに折れたとしても労力の割に合わない。
「だが、今のお前のレベルでは足りない」
「上げて落とさないでよ!」
確かにマヨの言うとおり、レベル一がボスに挑むなんて無茶だけど。
それこそ大木を拳で折るくらい無謀な事なんだろうけど。
「金策の為にも早急にレベルを上げよう。スキルで魔法を得るか、ひたすら飛び蹴りするか選べ」
「選ぶとしたら魔法なの?」
「魔法を勧める。物理攻撃は蹴りで十分だ」
なるほど、いやでも、ここでスキルを取ったら斧への道が遠のく。
そうしたらまたボスを倒さなければならないだろう。
「よし。スキルは取らない。斧を最優先で取るよ」
「そうか。なら、一応言っておく。植林地は最低一万はするぞ」
「い、一万?」
「そして、魔法が無ければ余計金稼ぎが長引く」
これは、所謂詰み、という状況なんじゃ無いだろうか。
お金を安定して稼ぐ方法には初期投資一万と、更にスキルポイントが必要。
だけどそのスキルポイントを得るためにはボスを倒さなきゃ行けない。
なのにレベル上げとお金稼ぎを効率良くするには魔法スキルが必要で、スキルポイントを使うとボスをまた倒さなきゃならない。
いや、詰みじゃない。地道に時間をかければ何とかなる。
何とかなるけど、苦行になるだろう。
「はあ、どうしよう」
思わずマヨを見上げると、情報収集を趣味とし、数多の書物を読み尽くした頼りになる友人が微かに笑った。
「さして、問題でもない」
言い切る彼はかなり格好良くて、近くにいた女性プレイヤーの頬が少し赤らんだ。




