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N・A・SーOnline  作者: 想磨
2/22

2-仕様は覆せません

 ふわりと体が浮いたと思ったら、僕は木製の家が並ぶ街中に立っていた。


「すげー」


 僕と同じ初心者で賑わう街並みも少し湿った地面から香る匂いも本物のようで、心が躍る。


 風が髪と大きな耳を撫でる感覚も同じく本物そのもの……。


「耳が、何か大きい?」


 変だ。確かに獣人を選んだから犬耳が生えているけれど、背中に垂れる程長い訳がない。


 恐る恐る、背中に手を回し、耳を引っ張って正面に持ってきて、見る。


 僕の長い耳は白い毛が生えて、長くて、とても愛らしかった。


 愛らしい?


「う、兎耳!?」


 何で、あれ、僕確か犬族だったような気がしたんだけど。


 いやいやいや、これはきっと幻覚だ。ふわふわの手触りも、撫でられている感覚も幻覚だ。


「……やっぱり全然幻覚じゃないよ!? 何でだよ!?」


「何を驚いているんだ」


 驚愕している最中に突然聞こえた友人の声に耳を持ったまま振り返った。


 ポケットが幾つもある革のジャケットと黒いシャツ、頑丈な手袋と狩人風の服に身を包んだ、目つきの鋭い青年が居る。


 僕の友人は余り姿をいじっていないみたいだ。


 名前を言おうとして、僕は彼の頭の上にある文字を読んだ。


「マヨネーズは史上最高の発明かつ世界一の調味料?」


「略してマヨだ」


「じゃあもうマヨで良いじゃないか……って違う!」


 そんな事はどうでも良い。


 犬耳だった筈なのに何で兎耳になってるんだ。不具合か。誰にこれを言えばいいんだ。


「マヨ。最初犬耳が何でか兎耳で」


「言わなかったか。系統はランダムだ。ゲームを始めるまでは何になるか分からない」


「でも、兎だよ! バニーだよ!」


 僕にそんな物を付けたら、どうなるか分かってるじゃないか。


「僕のなけなしの男らしさが無くなるだろう!」


「仕様だ。諦めろ。お前の名前は……ウルカか。狩と決闘の神の名前を入れたんだな」


「そうだよって、うわあ」


 マヨは言葉が終わらない内に、僕の手を掴み、さっさと歩き出してしまう。


「先ずはスキルを得る。こっちだ」


「でも兎なんてメルヘンな種族僕は遠慮したい」


「兎は魔攻が高い。お前にぴったりな種族だ」


 それはやりたいことを鑑みてだよね。決して子供にしか見えないからぴったりとかじゃないよね。


「仕方ないから納得しよう」


 耳なんて隠せば良いだけだし。


「スキルは何を取りたい」


「何をって言われてもマヨみたいに情報集めてから始めた訳じゃないし」


「そうか。無い物は無いくらいスキルも豊富だから何か言え」


 このゲームは初心者にとことん不親切だ。


 マヨに言われてチュートリアルを飛ばした僕も悪いんだろうけど。


「じゃあ、弓」


「特徴は遠距離から中距離までカバー出来る射程。だがある程度の防御を持つ相手には無効。更に下手な打ち方をすると飛距離が伸びる毎に威力が落ちる」


「残念な武器だね」


「撃ち方で威力も飛距離も伸びる」


「マヨは何を使ってるの?」


「罠だ」


「そんなのまであるんだ」


 確かに情報を集める事を趣味にしてるマヨにはぴったりなスキルだ。


 多分、弱点とか行動パターンをを観察して、最適な罠を張るんだろう。


 一対一。AIとの知恵比べをするマヨがありありと想像出来る。

「罠は連鎖作動も出来、大量にモンスターを狩れるから便利だ」


 罠は思ったよりも派手だった。


 そして僕の想像のマヨが真剣勝負をかなぐり捨てて大量虐殺に走っている。


「ついた。スキルの説明は受付に聞け」


 マヨが立ち止まった所には五段重ねの白く大きな塔が立っていた。


 開け放たれた両開きの扉からは装備が僕と同じ半袖短パンのプレイヤーの悩む姿や、受付に何かを渡している姿が見える。

 中に入ると、正面にはカウンター越しに受付が十人居て右手には大きな階段があった。


 取り敢えず、端に居る受付に話を聞いてみよう。


「すみません」


「ようこそ。初めてご利用される方ですね。申し訳有りませんが大変混雑しております。直ぐに説明を始めます」


 初めて来たって分かってるのに、いきなりマシンガントークなんてこの受付、何かを間違ってるよ。


「先ず、スキルポイントをお渡しします。これは大会の優勝。ボスの討伐等様々な場面で貰えます


「つまり、理論的にスキルは全部取れるん」


「次に、スキルのレベルについてです。スキルは使っていく内にレベルが上がり、より強力になっていきます。レベルが高くなれば上位スキルに変化しますし、二つのスキルを合成することも可能です」


「へえ、組み合わせは」


「スキルを同時に発動させる事出来る合計は五です。それ以外は控えとなります」


「控えはいくつ」


「最後にあなたが使えるスキルを記した表をお送りします。ご活用下さい。本日は誠にありがとうございました」


「で、控えは」


「本日は誠にありがとうございました」


「……はい」


 何だろうこの虚無感。話を聞いていただけなのに負けた気分だ。


 僕は最後まで笑みを崩さなかった受付を視界に入れないようにして覚束無い足取りで塔を出た。


「どうだった」


 塔の前で待っていたマヨに声を掛けられ、僕は会話の大切さを理解した。


「受付が、早口で、質問する前に帰れって言われて」


「仕様だ」


「……え?」



「混雑時に滞りが無いようにするための、仕様だ」


 本日二度目の仕様の壁の気力を削り切るには充分な威力を持っていた。



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