20ー未踏破エリアは踏破されて居ないから未踏破エリアと呼ばれています
ミナミの工房へと入った僕は早速アイテムをミナミに売り払おうと声をかけようとした。
が、彼女はどうやらマヨの姿を脳裏に焼き付ける作業で忙しいみたいだ。
僕の姿どころか存在すら忘れ去られてるかも知れない。
その証拠に、目の前で手を振ろうが、一束になった髪を振り回そうが、反応する気配がない。
「マヨ。いい加減手当たり次第に落としてくの止めてくれないかな」
「俺のせいじゃない」
「嘘だ。どうせ過去にミナミを助けたことがあって、なんてありきたりな馴れ初め話があるんだろ。僕には分かる」
「馴れ初めた気はないが確かに助けた覚えはある」
「けっ。これだからマヨは」
どうにも我が友達である超人は片思いな乙女を量産する傾向がある。
腹立たしい限りだ。この事を話したら学校中に男共の歯軋りが響き渡るに違いない。
それと、この事を彼女さんが知ったら、また不安な顔をするだろう。
全く、少しは彼女さんの為に嫌われる人間を演じれば良いのに。
「いや、惚れて当然か。心優しい、芯のあるイケメンが有望な将来を背負って歩いてくるんだから」
僕が女性だったら間違い無く飛び付いて、他の女を踏みにじっている。
彼女が出来たと聞くや否やファンクラブを設立し、暖かく見守る潔さがある分彼女達の方が大人だろう。
「はあ、鬱になってきた」
「人をだしに、勝手に鬱になるな」
「マヨが居る限り彼女が出来ないんだ。鬱にくらいなりたいよ」
「だから、大学に遊びに行け」
「遊ばれるのは嫌なんだ」
全く、僕を見る女性の目とマヨを見る女性の目は百八十度違うと何で気付かないのかな。
「弟扱いなんて恥辱の極みだ」
「弟扱いでもまだ良い方だと、周りから言われてただろう」
「それはそうだけどさ。マヨが居るとそのお姉様も色めき立つんだよねえ」
多分、容姿とその行いがもう町中に広がってるからだ。
仕方ないと分かってても、理不尽なものを感じるのは決して可笑しい感覚じゃない筈だよね。
「でも、目の色変えない人も居るだろう」
「そんな人間、信用出来る訳無いでしょ」
マヨを見て顔色変えない人間がいたら、何でこんな良い奴を前に好意を示さないのか、僕は疑るよ。
何て言ったって僕の友人は世界一良い男で、世界一良い人間なんだから。
「あーもう。誇らしいんだか憎らしいんだか分かんないんだよ。はっきりしろ!」
「俺に言うな」
お前に言わずに誰に言う。
これは町内の男が皆思ってる事なんだ。
この複雑な気持ちのせいでカレーテロとか男のみの大運動会とかにマヨを巻き込んでいるんだ。
「知れ! この何とも言えないもやもやした気持ちを!」
「努力はしよう。先ずはアイテムを売らなければ」
「そんなの、もう算段はついてるよ」
先ずアイテムを取り出し、マヨに押し付ける。
それで、ミナミに話し掛ければおしまいだ。
「ミナミ、マヨが買取をお願いしたいって」
「へ!? あ! 畏まりました!」
ミナミの慌てたような声で買い取りが始まり、とんとん拍子で物が売られてマヨにお金が入る。
その後、再びミナミがマヨを眺める作業に戻った。
それを見届け、マヨは無言でお金を僕に渡した。
「お金と一緒に女運も少し分けてよ」
「出来ればとっくの昔にやってる。あの人の心労が減るからな」
彼女思いの良い彼氏め。涼しい顔して惚気ないで欲しい
「そんな大事な彼女さんの為にまたカレーテロを仕掛けようか?」
「また屋上から吊される覚悟があるならやれ」
「彼女さんは絶賛してくれたのにあの仕打ちは酷いよね」
低カロリーを実現し、更に栄養バランスを完璧にし、更に更に美味しいという僕達の至高の逸品だったのにマヨの取った行動は酷すぎる。
「そのせいであの日、俺が作った弁当を食べてくれなかった」
「男達を代表して言おう。ざまあみろ」
初めて僕達の目論見が成功したあの日は男性教諭を交えた祭りが始まった程喜び合った。
但し弁当は夜食として持ち帰ったという悲報で残念会に変わってしまったんだけど。
「そうか。明日の個別授業はスパルタだ。一問間違える毎に安物のマヨネーズ一気飲みなんかどうだ」
「レシピ教えるから許して下さい」
「レシピは貰おう。そして、スパルタだ」
何て酷い奴だ。僕達の至高のレシピを奪い尚且つスパルタにするなんて。
やっぱり血の代わりにマヨネーズが通っているに違いない。
「お前達のレシピはネットに上がっているから価値無しだ」
「じゃあ何で貰うって言ったんだよ」
「大手を振ってあの人に振る舞えるからだ」
「振る舞うな。もし振る舞ったとしてもその時の彼女さんの笑顔を公開しなさい」
「拒否する。あの人の全ては俺の物だ」
独占欲が強すぎるよ。彼女さんにまた呆れられてしまうんじゃないか。
「そんな事より、ウルカの植林地だ」
「え? ああ、そうだったね」
彼女さんの話で盛り上がってすっかり忘れてた。
「植林地ってどこにあるの?」
「どこの町にもある。が、今となっては勧められる場所は一カ所しかない」
マヨの言い方で僕もその場所に思い至った。
僕とあの一団が敵対関係になり、僕を追放しようと目論む奴らが大量に生まれた今、安全な場所は一つしかない。
「マヨのお膝元に逃げ込むって事だね」
「正しくは俺が所属しているレギオンのお膝元で、それも次善策だ」
「次善策?」
「ああ。最善は違う場所だ」
「ふーん。僕としてはゆっくりと木が植えれるならどこでも良いけど」
その言葉を発してしまって、僕は不意に背中に寒気が走った。
この寒気は……そうだ。マヨが彼女さんを掴まえようと躍起になった時に感じた寒気に近い。
つまり、僕の発言でマヨは何か大胆な事をしでかそうとしている。
「ウルカ。どこでも良いんだな?」
「いやいやいや。言葉の綾だよ。ほら、マヨを信頼してるから、じゃなくて、お膝元に居たいなあ」
「お前の信頼に応えるにはレギオン付近では物足りない。もっと良い場所がある」
「レギオン付近で充分だよ? 不満無いよ? 楽しみだなあレギオン付近」
「レギオンは常に動いている。未踏破エリアを踏破したら進むからだ。その移動の時までに奴らが諦めるか、分からない」
「諦めるよ。諦めるさ。だって何不自由なく過ごしてきて苦労を知らないような奴らだよ?」
「諦めることも知らないだろうな。だから」
ああ、駄目だ。交渉に失敗した。マヨはもう止まらない。
僕の最善の為に無理を通して道理を叩き潰すだろう。
それにマヨが言う安全地帯を予想するに、文句無しの安全地帯だと分かってしまった。
「未踏破エリアの更に奥にある町で、植林地を買おう」
確かにあいつらの干渉は受けないよね。
屈強な軍団じゃなきゃ行けない場所なんだから。




