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N・A・SーOnline  作者: 想磨
21/22

21ー移動速度はスキルとステータスに依存します

 マヨの提案は一見、無謀そうに思えて、実は良く考えさせられる物だった。


 言い分も理屈も理解できるし、何より、マヨの実績も信用に足るものがある。


「けど、流石に無茶があるよ」


 いや無茶なんて言葉じゃ足りない。


 無謀にも程がある、でも役者不足な気がする。


 マヨが企んでいる行為を言うなら、そう、自殺行為が相応しいだろう。


「無茶ではない。策を練れば出来る」


「そんな簡単に行けないから未踏破エリアなんだよね?」


「ああ、だが俺達なら出来る」

「自信たっぷりに言われても」

「では、止めるか?」


 一応マヨは訪ねてるけど、答えなんて既に予想済みだろう。


 マヨの提案が僕に取って一番良いことくらい僕も分かってしまっている。


 例え、それがどんなに可笑しな提案でも、最善の手だって理解するくらいにはマヨに鍛えられている。


 マヨの問いかけに僕は首を振るという選択肢しか持っていなかった。


「はあ。分かった。やるよ」


「そうか。早速行こう」


「え!?」


 僕が、何か言う前に、マヨは僕の身体を脇に抱えると、扉を開け、勢い良く走り出した。


「待ってよ!? 準備は!?」


「もうしてある」


「返事を聞く前に準備するなよ!?」


 無理にでも頷かせるつもりだったのか。


 はたまた用意周到が高じただけなのか。


 それとも本当に予想済みだったとか。


 後者のどちらかである事を信じたいけど、マヨの事だから……。


 いや、もう考えるのは止めよう。


「そう言えばミナミに挨拶出来なかったなあ」


「時間が勝負だから仕方ない」


 確かに、マヨは何時になく急いでいた。


 マヨがこんなに走るなんて見たことが無い。


 人口が増した町の中をまるで障害物が無いように走っている。


 だけど、マヨ。思い出して欲しいんだ。


 君が上手く避けられても、抱えられている僕はかわせる訳がないんだよ。


 物、人、木に突撃させられ、少しずつ体力が減っていっている件の苦情は誰に言えば良いんだろうか。


「あの一団か、マヨか、はたまた僕自身か」


 どちらにせよ、苦情は無駄になるという結果しか見えない。


 物悲しい気分が胸中に立ちこめる中、不意にマヨが僕を脇から前に移動させた。


 ちょうど、マヨに後ろから抱き締められている様な状態で、気分が悪い。


「マヨ。幾らイケメンでも抱き締められて喜ぶわけな」


「草原に出る。俺が跳べと言ったら、上斜め前を目指して、持てる全てを使って跳べ」


「持てる全て!? 初心者が持つものなんて」


「跳べ!」


 話を遮り、質問も受け付けないなんて。


 打ち合わせくらいする余裕を持てないのかな。


 そう思いながら僕は、マヨを後ろから押すように、言われたとおりの向きに六回連続で跳躍した。


 僕の身体がマヨごと打ち出され、落下していく。


 耳がはためき、空気が強い抵抗を示し、目が上手く開けられずなくて、思わず目を閉じた。


 すると、マヨが僕の脇を掴み、僕の身体が落下運動から解放された。


「へ、マヨ? 何で飛んでるの?」


「俺は妖精族だからだ。固有スキルに飛行がある」


「妖精!?」


 顔を上げると、確かに透き通るほど薄く、幅が広い羽がマヨの背中に生えている。


 だけど、ガラス細工よりも繊細そうな羽はマヨには似合わない。



 それに、マヨが妖精やったら、あのふわふわしたイメージが崩れるじゃないか。


 これは立派な風評被害になる。即刻妖精族を止めてもらわないと。


「妖精のイメージが崩壊する前に種族を変更すべきだと思うな」


「素早さと魔攻は確実に上げたかったから、選んだ。変える気はない。加速するぞ」


 マヨがそう言うと空気の抵抗が急になくなった。


 突然巻き起こった暴風が僕の背中を強打した。


 後ろになびいていた耳が前にはためき、後ろ向きでジェットコースターに乗っているみたいだ。


「マヨ、マヨ! 速過ぎるよ!?」




「何を言ってるのか分からない」


 一応返事をしてくれたみたいだけどマヨが何か言ってるけど全然理解出来ない。


 自分の声も、マヨの声も、風を切る音以外の全ての音が呑み込まれている。


 下を見れば僕達の巻き起こす風で草原が波打ち、ゴブリンがひっくり返っている。


 今の僕達を言い表すなら風の軍団を連れて草原を蹂躙している、と言った様子だ。


 そんな面白い景色だけどマヨの速度が一段と上がると、突き放され、遥か後方に押しやられた。


「異常だよなあ。この速さ。妖精よりもジェット機って感じだ」


 やっぱり妖精の羽より鉄の翼の方が似合ってる気がする。


 そんな事を考えていると不意に耳元で鳴り響いていた轟音が消えた。


 後ろから吹き抜けていた筈の風が止んだみたいだ。


 いや、風と僕達の速さが同じになったのかな。


 轟音が止むタイミングを見計らっていたのか、マヨが口を開く。


「そろそろ砂漠地帯に入る。砂嵐に気を付けろ」


「気を付けろって」


 抱えられた人間がどう気を付けたら良いんだろうか。


 出来る事と言ったら、目を閉じて、口元を手で覆う位しか無いんだけど。


 それとも耳をマフラーみたいにして、覆うなんて方法もあるな。


 長いし、幅広だからぴったりだ。


 頭から耳を持ってきて、ぐるりと巻き付けてみる。


「おお、暖かい! ねえ、マ」


「砂漠地帯だ」


 話してる途中で砂漠地帯に突入した。


 途端に、視界が一気に茶色くなり、同時に砂粒が束になって全身を打ち据える。


 全身が凄く痺れて体力がどんどん減っていってるんだけど何でだ。


 砂嵐に遭遇したのは分かるけど、何でこんなに体力が減るんだ。


 砂粒が刃にでもなってるのか。


 拙い。削れてる。大根下ろしを早送りしてるみたいにどんどん削れてる。


「マヨ! 死ぬ! 僕死ぬ!」


「大丈夫だ。このダメージは体力が一になると止まる」


 それは大丈夫の範疇には無い。絶対に、無い。


 それで大丈夫なら片目抉っても大丈夫になるじゃないか。


 そして、体力が一の時に他の敵が出て来たら間違いなく死ぬじゃないか。


 何でマヨは平気そうな顔をしているのか、不思議でならない。


「そろそろムカデの巣だ。少し揺れるから気を付けろ」


「揺れる~!? うあああああ!」


 マヨが僕ごと、いきなり、唐突に、合図もなく、宙返りした。


「何が少しだあああ!」


 思わず叫んだ僕だけど不意に横に気配を感じて視線を向けた。


 僕を易々と飲み込めそうなお口と横にずらりと並んだ虫歯知らずの牙と可愛らしい複眼に対面した。


 きっと歯ブラシを毎日欠かさず、丁寧にしたのだろう。


 僕の身体なんか易々と引き下げそうだ。


「ぎゃあああああ! 死ぬううう!」


 叫ぶと同時に、僕の身体ががくんと落ちて、牙はマヨの上を通過した。


 マヨが急降下したお陰で助かったみたいだ。


 マヨが地上すれすれまで低く飛び、指示を出す。


「足付けろ」


「何で!?」


「お前のスキルで逃げる。失敗すればお前は死ぬぞ」


「マヨは死なないの!?」


「無論。レベル七十二だからな」


 だから、こんなに冷静なのか。


 自分が危険じゃないから冷静なのは当然と言うことか。


 あの涼しげな横顔にはっきりと文句をぶつけてやりたい。


 けど後ろから数多の何かが迫っている気配がして、それ所じゃない。


 取り敢えず、つま先を付け、強く地面を蹴った。


 けど、地面は直ぐに遠ざかるので全く反発力が生まれない。


「やっぱりこの速さじゃ加速にならないよ!?」


「いや、大丈夫だ。空中で跳べ」




 何を根拠に言っているか分からないけど自棄だ。言うとおり跳んでみる。


「わ、加速した! 何で!?」


「この空気は俺達と同じ速度で動いているからだ。電車内で歩けるのと同じだな」


 こんな時まで分かり易い説明をするマヨの律儀さに驚きだ。


 だけど、ムカデの巣はまだまだ続くようで、前から横から後ろから、襲いかかってくる。


 それに合わせて、マヨは軽やかに潜り抜け、越え、避けた。


 そして僕は、引きずられ、逆さまになり、放り出された。



「投げた!?」


 何で、何で僕の身体は宙に浮いてるんだ。


「あああああああっ!」


 浮いた身体が自由落下を始める。


 そして僕目掛けて鋭い牙が、食い付いた。


「うひゃ! わあ! ぎゃああ!」


 次々とムカデの牙が迫るから、無我夢中で跳んで逃げる。


 そして放り投げたマヨの足にすがりついた。


「いきなり投げるな!」


「後で回収するからしばらく遊泳しても良かったんだが」


「遊べる程余裕無いよ!」


「そうか。ふむ、巣が終わるな」


 マヨが言うと、砂塵の幕を突き抜けて、僕は青空の元を飛んでいた。


 後ろを見ると、巨大な球を形作りながらに砂が渦巻いている。


 砂の幕の内側は見通せ無いけど、それを突き抜けては引き返すムカデの姿は見ることが出来た。


 あの大きな球体がムカデの巣と言うことらしい。


「よく生きて脱出出来たよなあ」


「安心するな。まだ路程は半分だ」


「は、半分?」


 身も心も、装備品さえボロボロなのに、まだ半分。


 辿り着ける自信がない。いや、辿り着ける可能性が無い。


「心配するなあの森を越えたら町がある。そこで休む予定だ」


 マヨが指差した森はさめざめと雨が降り注ぐ、霧の深い森だった。


 ビルに負けない高さがある大木は白っぽい幹のようで霧の中に溶け込み、黒い葉だけがはっきりと見える。




 もし、一人であの霧の中に入ったら、間違い無く迷うだろう。


 何かが潜んでいるような凍えた空気の中を一人で歩く度胸は無いけど。


「マヨ、あの森って何?」


「静寂の森と言われてるな。幽霊、ふくろう、蛇等、音を出さない様な敵ばかりが巣くう森だ」


 つまり、自分達以外の物音はあの雨の音だけなのか。


「益々怖いよ」


「そうか。だが、空を通るだけならあそこは比較的楽だ。魔力の温存をするから少し遅くするぞ」


 マヨが言うと、町を出た時から吹いていた追い風が唐突に止んだ。


 途端に骨を掴まれるような寒気が森から流れて来る。


 思わず僕は身を縮め、マヨの足を湯たんぽ代わりに抱き締めた。


「この辺り、かなり寒いね」


「ああ、森の奥にある山から絶えず寒気が降りてきてるからだ。あそこを越えるから今よりももっと寒くなるだろう」


 手足が露出した野兎装備には酷な環境だ。


 あっと言う間に兎のルイベが出来上がってしまう。


 あれは鮭の身を凍らせるのが一般的で兎の肉には適さない料理なのに。


「冬眠出来る熊が羨ましい」


「兎も冬眠出来るが、山越えにはお前の力が必要だから寝ないでくれ」


「マヨの力で越えられないのに僕の微力で何とかなるの?」


「ああ、移動速度で言えば、お前は三十レベル程度の速さを持ってる」


 それもこれも、走る時間よりも、歩く時間よりも、立っている時間よりも跳んでいる時間が長いお陰だ。


「プレイ時間の半分は跳んでたからなあ」


「それは跳びすぎだ。何を目指してるんだ?」


「跳躍で山を越えるとか?」


「無謀だが、夢があるな」


 そんな話をしていたら、僕の身体を霧が包み始めた。


 マヨが目を凝らして、霧の中を見極め、旋回する。


 風が無くともかなりの速度が出ていて、景色がぐんぐん流れていく。


 けど、そんな景色も霧と微かに見える黒い葉だけで、余り意味がない。


 何より冷たい雨と凍てつく冷気が体温を奪い、景色を見るどころじゃない。


「ま、マヨ。かなり寒いんだけど」


「魔法防御が低いから一層寒く感じるようだな。手足はまだ動くか?」


 こんな所にまでステータスが関わってるなんて思いもしなかった。


 つまり、魔法防御が無ければ、冒険すらままならないのか。


「手足は、動かし辛い」


「ふむ、仕方ないな」


 そう言うと、マヨは厚手のもこもこした布を取り出し、袋状にした。


「中に入れ。これで運ぶ」


「に、荷物扱いなんて、酷いなあ」


 そんな事言っていられないから入るけど。


 マヨの身体を這い、布に滑り込んで雨が入らないように、入り口に布の切れ端を乗せる。


 ふわふわで、もこもこな布の中は確かに寒くなく、人心地付けるだけの安らぎがあった。


 ただ、柄が二本足で立つ兎で、どことなく子供っぽくて気に入らない。


「まあ、贅沢は言わないけどさ」


 暫く布に籠もって居よう。



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