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N・A・SーOnline  作者: 想磨
18/22

18ー重ねて申し上げますがプレイヤー同士の争い事には不干渉です

 濃密な時間を過ごした翌日、僕は再びボススライムの上で弾んでいた。


 端から見ればボススライムをトランポリン代わりに遊んでいる様に見えるだろう。


 勿論、遊んでいる訳でも、感触に病み付きになった訳でもなく、純粋にスキルポイントとアイテムの為だ。


 それ以外の理由なんて微塵も存在しない。


「……うん。病み付きになってるのは認めよう」


 でもこれは仕方無い事だ。このスライムの感触が余りにも心地良すぎる。


 僕のベッドと交換したいくらいの心地よさに抗う意欲すら起きないくらいだ。


 出来れば一日中跳ねていたいけど、他の人もこの柔らかさを堪能したいに違いない。



 残念だけどこれを倒したら一回離れて植林地を買いに行くとしよう。


 そうして、考えがまとまった瞬間、タイミングを計ったようにスライムが弾け飛んだ。


 以前の経験を生かして、僕は雫と一緒に落ちて、綺麗に着地する。


「よし、倒した」


 今回は正真正銘、ダメージゼロだ。


 ボススライムの強さが分からないけど、ダメージゼロはなかなか良い結果じゃないだろうか。


 頑張ったからステータス、特にスキルは上がってる筈だから確認しよう。


「レベルは……十三。スキルは五。凄いな」


 ゲームを始めて二日目とは思えないステータスだ。


 ゲームの為に睡眠時間をも削る人じゃないとここまでいかないだろう。

 それにアイテムもスライムの強膜や、宝玉なんて、興味深い物がいっぱい取れた。


 絶好調だ。余りにも好調過ぎる。


 好調過ぎて、運を使い果たしてしまった気分だ。



 何か悪いことがありそうで不安になってくるんだけど、どうしよう。


「うーん。悪いことが起こる前に、アイテムをミナミに買い取って貰おうかな」


 工房に居なかったら、そのまま植林地を買いに行く。


 これなら不運が来る前に諸々終わってるはずだ。


 何かが起きる前に、迅速に行動して、この良い調子を保つ。


 そう決めて、南門に急ごうとした時、南門の方から見覚えのある人影が二人、歩いてきた。


 狩人姿のマヨと、隣で真っ赤になっているミナミだ。


 これは珍しい組み合わせだ。行動を起こす前にからかうのが礼儀何じゃないかな。


 きっと、そうだ。礼儀に違いない。


 だってこんな如何にもからかってくれって言っているような状況だ。


 二人もそれを期待してるだろう。


「礼儀を守って、期待に答えないとね」


 跳躍して、二人の前に着地すると、二人が話す前に機先を制する。


「二人ともどうしたの? デート?」


「でっ! でえとな訳ないだろ! な、なな、何を」


「なら結婚の報告?」


「けっっっ!!」


 爆発音が聞こえそうなくらい、急激にミナミの顔が赤くなって、固まった。


 うん。ミナミの思考が完全に停止したみたいだ。


 打てば響くとは正にこの事、教科書に乗せたいくらいの例題だ。


 だけど、そんな資料に対してマヨは無視を決め込み、僕の顔を見続けている。


「ウルカ。公式ホームページのBBSでお前が論戦の渦中に居るぞ」


「BBS? バーベキューの親戚か何かかな?」


 バーベキューは元々、硬い肉を低温で、時間をかけて蒸し焼きにして柔らかくした物だったらしい。


 それがアメリカ南部で豚を丸焼きにする料理法に変わり、屋外で大勢の人達と食べるイメージが定着したようだ。


 BBSがその親戚なら、多分、大きな魚を野外で焼いたりするものなんだろう。


「勿論、違うからな。……。出会い頭の会話といい、今のボケといい、機嫌が良さそうだな」


「好調だからね。このまま何も起きない内に波に乗りたかったんだけど」


 マヨの顔からして、もう問題が起きた後で、何をやっても無駄らしい。


 機嫌は勿論下降気味で直に表情が暗くなるだろう。


「それは残念としか言えないな。好調な時間は終了だ。BBSはゲームをやっている者同士の情報交換、雑談が出来る場だ。ここからでも見れる。見てくれ」


 マヨが操作すると、半透明で薄い板が空中に浮かんだ。


 裏側から反転した文字が見えるそれをマヨは軽く押すような動作をして、倒す。

 それを覗き込むと、一と書かれた横に主題の様な物が書き込まれていた。


「何々、ウルカというプレイヤーは不正行為をしてるから追放しよう、と」




 おお、あの人達は有言実行するだけの行動力があるらしい。


 けど話の運び方が雑で、押し問答になっているみたいだ。



 昨日もそうだったけど、この人達は詰めが甘いのが特徴だな。


 残念な悪役臭がそこはかとなく香ってきて、哀れになってくるよ。


 この人達は騒ぐだけ騒いで最後は呆気なく終わるに違いない。


「反対意見は泣き兎のプレイスタイルを見たことがあるけど不正行為は見当たらない、初心者専用エリアで不正行為する理由がない」


「泣き兎!?」


「自分で高速跳躍して、止まらなくて泣いていた所から名付けられたらしい」


 あの時か。まさか見てる人が居るなんて思わなかった。


 そう言えば、あの後、ミナミと町中を歩いた時にくすくす笑われてたけどこれが原因か。


 どうしよう。目撃者の記憶を消去する方法は無いかな。

 いや、消去しなくても良いからこのあだ名の拡散は避けたい。


「この論争は直ぐに治まらないの?」


 この論争が続く限り拡散は続いているんだ。先ずはこれを封じ込めないと。


「無理だな。ありとあらゆる所でウルカ追放派とそれに反論する奴らの論戦が巻き起こってる」


 もう、拡散を止めるなんて話じゃない。拡散し終わってる。

 少し落ち込んだけど、マヨが言葉を切って、文字の羅列から視線を外して、真剣な眼差しを僕に向けたから、気分を切り替えよう。


「で、この追放派とあった因縁を教えてくれ。南の平原で何があった?」


 因縁がある事は既に知ってるらしい。マヨの情報収集能力は本当に侮れない。


 いや、情報収集能力というよりは推理力なのかな。


「大した事じゃないよ。向こうが狩り場を独占しようとして、口喧嘩になって、袋叩きにあいかけたから、蹴り飛ばしただけ」


「この不正やチートに付いて、追放派は何か確証を持ってるような口振りだが」


「さあ? 向こうが不正したのに勝てなかったからじゃない?」


 負けもしなかった筈なんだけど、プライドが傷付いたようだ。


「まあ、僕のプライドも傷付けたんだからお互い様だよね。いや、もっと傷付けた方が」


「その言葉で大体の事情は把握した。だが向こうが不正をした、とは何だ?」


 そんな一言で把握しないで欲しいけど、取り敢えず不正の内容を言っておこう。


 一から十まで、なかなか印象が悪い出会いから喜劇的な別れまでマヨに話す。


 真剣に聞いているマヨは、全てを聞き終えると難しい顔をして、顎を撫でた。


 マヨの難しい顔なんて、不安を煽る光景でしかない。


 何か嫌な出来事でも起きているんだろうか。


「でも、その事はきちんと管理者に報告したよ」


「そうか。だが、恐らく管理者は今回の事には不干渉を貫くだろう。未だに初動すらないのは可笑しいからな」


 おお、まさか本当に上からの圧力があるとは。


 あの人達がお坊ちゃまだって半信半疑だったけど本当にお坊ちゃまだったんだなあ。


 でも、それならもっとあくどい事が出来そうな気がする。


 僕のアカウント停止にしたり、弱体化させて今度こそ袋叩きにしたり。


 流石にそこまで権力は万能じゃないかも知れないけど、更なる強化アイテムを引っさげて追いかけ回すくらいは出きるだろう。


 強化アイテム程度なら支給させるくらいの権力者みたいだし。


「じゃあ僕はどうすれば良いの?」


「妨害者から逃げたり、叩きのめしたりすればいい」


 あの冷静沈着で根回し、策略が得意なマヨにしては過激な発言だ。


 いつもなら敵と相対する時には過激な発言をせずに、過激という言葉すら平伏す様な策を練るのに。


 第六次カレーテロの時の二酸化炭素すら凍る冷血ぶりを見たときは友達止めようかと思ったくらいだ。


 やっぱり彼女さんにカレーを食べさせて、マヨの弁当をお役御免にしたからかな。


 とにかく、そんなマヨからすれば、過激な事を口にするのは珍しい。


 彼女さんと喧嘩でもしたのかな。


「叩きのめすって方法だけど、そ初心者には難しい手法だし、そんなに過激で良いの?」


「飛んできた火の粉を払うな、そして逃げるな、なんて暴論だ。後、妨害者については一週間俺が付いてるから安心しろ」


「それは安心だ」


 天変地異が無い限り、ゲーム内での僕の自由は保証されたも同然だ。


 僕を追放しようとする人が哀れに思えてくる。


「それじゃあ、早速植林地買いに行こうよ」


「金は大丈夫なのか? もう貯まったとは思えんが」


「貯まったよ。マヨが深刻そうに言ってたから難しいと思ったけど全然簡単だった」


「それは意外だ。装備の修繕費、食事代諸々掛かって三日目位に貯まると予想していたが」


「ミナミが色々協力してくれたから大丈夫だったよ。ねえ」


 そう言ってミナミの方を向けば、熟し切った林檎、もとい首まで紅くなったミナミが居た。


 目の前で手を振ってみるけど、反応がない。


 未だに機能が回復しないなんて、困ったな。


「でも、幸せそうだから気にしなくて良いか。それで、食事代はご飯を食べてないからかかってないよ」


 僕の言葉が引っかかったのか、ミナミの方に背を向けて視界に入らないようにしたマヨが少し首を傾げた。


 ミナミの事は無視するらしい。


「それは拙いな。二時間も活動すれば飢餓状態になるはずだ」


 言われて、確かめて見ると、空腹度がかなりの数字になっている。


 真っ赤なゲージから推察すると十五分もすればマヨの言う飢餓状態だ。


「じゃあ、何か食べて、ミナミに素材を売って、植林地かな」


「妥当だ。だが、問題がある」


「問題……ね」


 心当たりはある。マヨもこの問題に関しては頭が痛いようだ。


 確かに、この問題は追放運動を沈静化するよりも難解なものだ。


 僕とマヨは視線を走らせ、問題の大元を、ちらりと見やる。


「ミナミをどう起こすか。大きな問題だ」


「マヨ、不用意に名前呼んだら心臓が潰れて死んじゃうから」


 さて、本当にどう起こそうか。



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