17-スライムと言えどもボス。ボスと言えどもスライムです
さて、あの権力崇拝者達をどうやって動かそうか。
今も人間ロケットで落ちていったあの坂を突っかかりながら進む人達の事だ。例え言うとおりなっても動けないに違いない。
あの言葉遣いと思想と人をバカにしたような態度を鑑みて、死に戻りでもいい気がする。
けど、ステータスの差からそれも無理だろう。
所詮は十レベル。高望みしたら痛い目に合う。
「でもなあ。謝罪くらいはさせたかったなあ」
不用意に近付けば百倍の攻撃力でやられるから断念しなきゃいけない。それが辛い
お陰でのんびり考えられるんだけど、本当に訳が分からない。
「やっぱり蹴り飛ばすしか無いか」
間を置かずに二回連続で跳べばかなりの速さで近付ける。
だけどその場合、勢いの良い跳び蹴りじゃないと飛ばせないから気を付けないと。
敵の位置を確認。未だ坂でもがいてる。素早さ百倍と坂の相性は最悪みたいだ。
手順は三つ。二回跳び、蹴って飛ばし、周りの人の反撃を食らう前に跳んで離脱だ。
「よし。いける」
まず、加速。景色が後ろに飛んで、対象の男が迫る。
次に蹴り。僕の身体の速度とすくい上げる様に蹴り出した脚の威力で男は遠くへ蹴飛ばされる。
あれで一ダメージ何だからチートは恐ろしい。
自分があれを怒りに任せて蹴っていた事実に寒気が走る。
一歩間違えれば即死という綱渡りをしてたんだなあ。
そして、退却。案の定凄い早さで剣を振り回されたが、あらぬ方向に振り回している。
その隙に文字通り脱兎の如く逃げて距離を取った。
これは幸運だ。今度はもっと早く逃げないと、兎肉のバラ肉としてスーパーに並ぶ羽目になりそうだ。
よし、今度はもっと早く、音楽的には十六分音符を目指そう。
手順も短くするべきかな。二回蹴って加速。蹴り上げながら、もう片方の足で二回蹴って元の位置、なんて良いかも知れない。
「それっ」
接近、蹴り上げながら退却。
短剣を投げつけられたけどその時にはもう退却の途中だった。
うん。前よりも手早く終わった気がする。
これはもっと早くできるんじゃ無いだろうか。
何事も極めてこそ、真の男だ。
やらないわけには行かないな。
そうして、工夫に工夫を凝らして、早二分。
実験動物、もとい、口の悪いプレイヤーは居なくなってしまった。
もう少しで何かが掴めそうだったんだけど、諦めるしかないみたいだ。
「あ、そうだ。あのプレイヤーについて、管理者に連絡しなくちゃ」
もう二度と僕に近付かないようにさせるために。そして、あの人達に世間の厳しさを教える為にも必要だろう。
お祖父さんが権力者なんだって家族に甘えまくってたけど、駄目なものは駄目と教えるのが優しさだ。
でなければ頼りになる家族からも見放され、世間の冷たい眼差しと無言の圧力に自殺するなんて事態になるかも知れない。
「言い訳じゃないし。復讐なんかじゃないし」
別に、ガキって言われたり、親を罵倒されたり、蔑まれただけで怒るほど僕は子供じゃない。
「いや、そもそもあいつらに進んで関わった事自体が子供じみてるか」
僕の大人への道はまだまだ遠く、険しいようだ。
「よし、送信。これで管理者が動いてくれるから安心だ」
厄介事も片付いたし、ボスのスライムを倒して、スキルポイントを集めよう。
「……あ、ボスが居た場所分からない」
怒りに任せて蹴り続けたから見失ってしまった。
だけどこの起伏に富んだ、穏やかな野原のどこかに居るんだから虱潰しに探していけば良い筈だ。
「潰すのは得意だから大丈夫だよね」
後、精神的耐久力を試す作業もこの一日でうんと強くなった。
地味で平坦な作業でなら、マヨにも負ける気がしない。
「ふふふ。虱潰し。良い響きじゃないか」
こうして、南の野原限定、虱潰し作戦は始まった。
が、呆気なく、目標は見つかった。
作戦なんて要らなかったし、極論、探すという作業すら要らなかった。
余りの発見の速さに意気込んで、格好いいこと言っちゃった僕の顔が赤らんだのは言うまでもない。
目標は身近に居たんだから、尚更、恥ずかしかった。
「でも、まさか、地面から湧いてくるとは思わなかったなあ」
僕の隣の地面から唐突に巨大なスライムが生えてきた時は本当に悲鳴をあげてしまった。
にゅるんと出て来て、ぷるんと形が出来上がって、ぷよんと跳ねて徘徊を始める巨大なスライム。
そんな異常な発生方法に驚かない人は、多分居ない。
「いや、マヨなら淡々と攻略準備を始めるかも」
木の枝から大きな蜘蛛が落ちてきたときも、冷静に避けて歩いてたし。
僕もその冷製さを見習って攻略を素早く済ませよう。
先ずは身体的特徴を見て、弱点を調べる。
大きさは僕の身長の四倍くらい。
少し潰れた円形をしている気がするから横幅の方が大きい。
その巨体が動いているのに、効果音に地響きが無いなんて不自然だけど、気にしたらいけないのかな。
最大の特徴は跳ねる度に揺れる凄まじい弾力を持った半透明の身体だ。
「やっぱり、物理攻撃が効かない気がするなあ」
でも、 攻撃手段は物理攻撃しかないし、聞かなくてもごり押しで頑張るしかない。
一撃離脱で死なないように頑張ろう。
「先ずは、一撃!」
足に力を込めて地面を蹴り、半透明な敵に飛び上がって、足の裏をに向ける。
ぐにゃりとした感覚が足に伝わり、ひんやりとした何かに足が包まれた。
何か、癒される。
と、和んだ瞬間、強い反発が足から伝わり、気が付けば地面に叩きつけられていた。
全身が痺れて、僕の体力が削れてる。
流石、ボス。一筋縄じゃ行かないみたいだ。
起き上がろうと、地面に手を付いたら、ぼんやりとした影が僕に落ちた。
考える暇はない。
慌てて跳び、後ずさると、スライムが落ちて、僕が居た地点を押し潰した。
衝撃にスライムがふるりと揺れて、再び飛び上がる。
取り敢えず、逃げよう。
僕は後ろを向いて、走り出した。
「……あれは本当にスライムなのか?」
まるでゼリーの中に、三次元構造のゴムの網を張り巡らしてるみたいだ。
感触は病み付きになりそうなくらい良いんだけど、大きなダメージは期待できそうにない。
「でも、時間はたっぷりあるし、攻撃手段も押し潰ししか無いみたいだから、地道に削ろう」
先ずは普通に跳ぶ。
更に跳躍して空中で直角に曲がる。
勢いそのままに、スライムを真横から蹴り付ける。
「うわっ」
勿論、その驚異的な弾力で僕は弾かれてしまった。
「けど、これでまた、三回跳べる!」
弾かれた身体を捻って、空中で一回跳躍。
これで僕の身体はスライムの上へ陣取ることに成功した。
歩くよりも跳ぶ時間が長い僕だから成せる技だ。
後でマヨに自慢しよう。
さて、押し潰しが出来ない位置についたけど、この位置は踏みつけし放題でもある。
「だから、後は地道にやるだけだ」
僕は、全てを跳ね返す柔らかな巨体に飛び込んだ。
ひんやりとした感触に脚全体が包まれる。
そして、僕は真上に弾かれた。
「おお、跳ねる! 跳ねるぞ!」
風を切り、かなりの高度まで上がったけど、下には柔らかいマットがあるから恐怖はない。
恐怖が無いから、全身に太陽を浴びながら空へ吸い込まれる爽快感が楽しめた。
「これは、はまっちゃうな」
今、僕は間違い無く、このゲームを楽しんでいた。
弾む感覚は病み付きになるし、安全に高いところに行けるから身体を捻ったり、宙返りもしてみる。
「でも。幾ら時間があると言っても、このままじゃ日が暮れるよなあ」
名残惜しいけど先ずはスキルポイントを優先しよう。
「で、その後に他の人が来るまでのんびり遊ぼう」
心に決めて、僕はスライムを踏みつけた。
柔らかな体がが僕を受け止め、空へ返すけど、その途中で空中を蹴る。
また、スライムの身体に突進し、跳ね返され、また飛び込んで。
ドリブルされてるバスケットボール状態で目が回るけど我慢して更に加速する。
一ダメージでも、何百回とこれを続ければボススライムはきっと死ぬ。
兎跳びのレベルも上がって一石二鳥だ。
「……跳躍スキルばかり上げて何になるんだろう」
マヨ曰わく、この二つの組み合わせは上級スキルの繋ぎらしい。
だからこればかり上げても余り意味がないような気がしてきた。
「いやいやいや。これは旅の為に必要なスキルだ。上げておいて損は無い」
それにこれだけ素早く動けるなら武器を持ってもそれなりに立ち回れる。
思考がそこまで行って、不意に足から弾力のある感触が無くなった。
「わっ」
いつの間にか破裂してたみたいで、僕は雫が飛び散る中を落下していた。
余りの美しさに時間の流れが遅くなっている気がする。
水の粒一つ一つが繊細な輝きを放つ様をずっと見ていたくなる。
それに囲まれる、水の花火の中は、宝石の中に飛び込んだみたいだった。
だけどいくら綺麗でも雫と一緒に落ちている事は変わらない。
「んぎゃ」
当然地面に衝突し、僕の全身にダメージを受けたときの痺れが走った。
「で、でも、倒した。倒せたよ」
地面にぶつかる以外はノーダメージ。そして初日で、初めてのボスで勝利だ。
これは僕の時代が来るんじゃないだろうか。
「ふふふ、あはははは。来たんだ。ゲームの中で頼れる大人になる一歩を踏み出したんだ」
ここで気分の波に乗ってもう一回スライムと戦いたいけど、もう時間がない。
残念だけど今日はアイテムを回収して、終わろう。




