16-プレイヤー同士の喧嘩は静観させて頂きます
いよいよ、事件が起きます
「ボスさーん。どこですかー」
ただいま迷子を探しております。多分、このエリアで一番強い方です。
何て言ってる場合じゃない。本当にボスが見当たらない。
勢いに任せてボスの居場所や名前すら聞かずに飛び出してしまう何て僕は馬鹿だ。
全くそそっかしいと言われても仕方ない有り様だよ。
幸い人が少ない頃なので、声を出して呼び掛けているけど、人が居たら顔から火が出ること間違いない。
でも、仕方ないよね。見晴らしの良い野原にボスらしい大きな影は見えないんだから。
「とは言え、このままじゃあ日が暮れちゃうよ。この服はあまり人には見られたくないから手早く終わらせたいんだけど」
出来は完璧なんだけど僕の顔が台無しにしてるから残念でならない。
頭が他の人間、例えばマヨに着せれば、かなりワイルドになるはずだ。
想像してみたら案外似合ってて、むかついた。
「こんなワイルドな服でも着こなしてしまうマヨが憎い」
それでも人を惹きつける魅力があるから益々憎くて、憎みきれない。
「マヨの友人って大概複雑な心境だよねえ」
あらゆる意味で罪づくりな男だ。きっと閻魔帳にびっしり罪状が書かれてるだろう。
「それにしても、本当に見つからないなあ」
こうなったら限界まで跳躍して、見渡してみるかな。
あまり高いと嫌だけどこの際、遊園地のアトラクションだと思い込んで諦めよう。
まず、一回。更に二回、跳んで、見渡してみる。
これで、高度は既に一軒家をゆうに越えるほどだ。
そこから見える光景に背筋がざわざわして兎耳の毛が逆立った。
もう、跳ばなくて良いよね。この高さからでも十分、見渡せるし、十分、見渡せる。
「怖いからじゃない。怖いからじゃ、……お?」
東に少し歩いた所にある窪地に人集りが出来ている。
それが取り囲む影は大きくて丸い。
もう落下して見えないけど、透き通った姿から推察するとは恐らく巨大なスライム、と言った所だろう。
「あそこで待っていれば僕もボスと戦えるかな」
かなり大人数だったから直ぐに倒してしまうだろうし、待ち時間は少ないだろう。
二回倒して、さっさと斧スキル確保しよう。
落下の勢いを両手足で殺し、長い耳を跳ねさせて例の場所へ向かった。
耳がなびいて、はためいてるのがかなり邪魔だ。
ああもう。いい加減、耳を何とかしたい。
兎の頭巾でも背中にかかる長い耳は収納できないから、未だに兎耳は自由を謳歌してる。
「ミナミにお願いしてみようかな」
そんな事を考えていると、直ぐに目標地点が見えてきた。
そこに居たスライムは大きな水泳施設の水をまるまる使ったと思わせるほどの重量感があった。
誰かが叩く度にぶるんと揺れて、近くに居た人が、弾かれる。
まるで柔らかいゴムみたいな弾力だ。
これに踏みつけみたいな物理攻撃が通用するのか不安になってくる。
周りに居る人達は皆ばらばらの種族だが、仲間らしく、笑い合いながら、スライムと戯れていた。
連携は取れてないし、仲間を弾いて笑ってるから、余り真剣に討伐する気は無いんだろうな。
でも幾ら戯れでも攻撃は攻撃だ。
誰かの一撃に巨大スライムがぶるりと震え、破裂した。
水の玉が飛び散り陽光を乱反射して輝く。
ボスに相応しい、華々しい最後だ。
水の花火があればきっとあんな感じだろうなあ。
だけどそんな幻想的な風景は周りの人々の興味を引かなかったようで散らばる素材を奪い合う様にかき集めている。
何というか、醜い人間の代表を見ているようで気持ち悪いし、身につまされるような感覚もよぎる。
その一人が顔を上げ、僕の姿を見た。
「ちっ」
僕は舌打ちされるような行動、もしくは嫌われる行動をしただろうか。
「おいお前。ここは俺達が暫く使うんだ。他を当たれ」
「え? 何で?」
狩り場の独占なんて、ゲームの世界に疎い僕でも行けないと分かる行為なんだけど。
「何でって。待たせる事になるのにお前に無駄な時間を使わせるのは気が引けるからな」
「気が引けるなら譲れば良いのに」
あ。つい、本音を言ってしまった。
途端に、周りの人間が僕に敵意を隠さない視線を向け始めた。
そんな感情剥き出しにしてるなんて、さぞかし生き難いだろうなあ。
「俺達がここを使うって言ってるんだけど」
「僕もボス倒したいんですけど」
「日を改めれば良い」
「譲り合いの精神は大切ですよ」
「だろうね。ならお前が譲れば問題は無い。だろう?」
何だろう。会話が成立してる気がしない。
「僕はまだ倒してない。あなた達は少なくとも一回は倒した。ならあなた達が譲るのが筋じゃ無いですか」
「筋じゃないね。そもそも、何でお前は俺に楯突けるわけ?」
「はあ?」
元々高飛車な人だったけど、何か飛車に謝らなきゃ行けないくらいの変人かも知れない。
「見える? 俺の名前」
「名前? 風山透さんですね」
「そう。風山グループの、会長の孫。孫って分かるよね。時期社長なんだよ?」
段々人を小馬鹿にする言動になっていくあなたが社長になったら、交渉が大変になりそうだなあ。
「で、時期社長が何なんですか? 親の育て方が悪かったんだって主張したいなら他当たってください。そしてどけてください」
いらいらが募って言ってしまった一言に周りの人間の眼差しが、きつくなり、僕を取り囲んだ。
ピンチみたいだ。
「おいガキ。余り調子にのんじゃねえぞ」
は? この人今なんて言ったのかな?
「俺達はな、お仕事でやってんだよ。分かる? お仕事。ガキが口挟む事じゃねえんだよ」
この二人は目が悪いみたいだ。頭への衝撃で治るかな。
「あんまり生意気な態度取ってるとお前がチート野郎だって言い触らすぜ」
「あは、そりゃあ良い。おい、こいつフクロにした後で、全アカウント使ってやっちまおう」
ガキ。ガキか。女性に対してお若く見えますよ、何て言うのは良いけど男には使えない。
この人達はそんな事も知らないみたいだ。
「へ、何も言わないでびびってやんの」
「お漏らししましたかあ? お母さん呼びまっ」
跳び蹴り一閃、頭に異常のある方は遠くに飛ばされました。
これで完治すると良いんだけど。
「安心して。治療費はタダだよ?」
「ふん。ほざいてろ。おい、竜の玉使うぞ」
「ガキ相手にぶっ」
「ガキじゃないよ!」
患者二人目、高高度からの襲撃で地面にめり込ませる治療をしてみたけどどうだろう。
と言うか、こいつら本当に弱い。
何というか、動き方がつたない気がする。
僕の下で未だに倒れてる人の頭を何回も踏みつぶすと、ガキ扱いした患者は消えていった。
レベルは僕よりも低いみたいだな。
「てめえ!」
「風山グループに楯突いた事後悔させてやる!」
そう言うと、残りの患者が赤い球を取り出し、握り潰した。
すると、彼らの身体が赤く染まり、まるで熱を発しているように光っている。
うん。病状が悪化したみたいだ。
「きひひひ! 死にさっ」
赤く染まるなんてかなり危険だ。問答無用で治療しないと。
顔面にめり込んだ片足をそのままに自由な足で更に空中を蹴って患部に衝撃を馴染ませる。
すると、蹴る度に患者が後退りしてのけぞった。
最後の一蹴りで患者を突き放すと、吹っ飛ばされた患者が全身草まみれになって地面を転がった。
病気の進行が止まれば良いんだけど。
様子を見てみると患者はまるで何事も無かったかの様に立ち上がり、笑った。
しまった。蹴られて笑うなんて病状が悪化したに違いない。
「今の俺に何をやっても無駄だ。全ステータス百倍だぜ! 勝てるわけがないだっぶっ」
ステータスが何倍だろうと病状が悪化したんだから治療が必要だ。黙って蹴られなさい。
僕を子供扱いする病気から始まって、とうとう笑い出すまでに悪化するなんて、どんな病気だろう。
「ん? ステータス百倍なんて、チートでしょ。あんたら治療したら通報しよ」
「何っ訳っわかんっねえっ最後まで喋れっらせろっ」
何か蹴り飛ばし続けたら、変な喋り方になってる。気持ち悪いな
そして、百倍ステータスのお仲間さんが何故か僕に追い付けていない。
後ろを見れば、高速でかくかく動きながら、坂を転がり回る人達が居た。
早過ぎて、足が坂に引っかかってるみたいだ。大変そうだな。
それにしても患者の話し方が気持ち悪い。さっさと消え去れば良いのに。
と、思ってたらやっと患者がかくかく動いて転びながら僕から距離を取った。
学習するまで計三十秒。やっぱり頭の方を患ってるみたいだ。
「良いか! 百倍だ! てめえの攻撃なんざ一ダメージにしかなんねえんだよ! それに管理者に言っても無駄だよ!」
「何で、って聞いた方が良い?」
先が読めるから聞かなくても良いんだけど。
「俺はな、権力者だからだよ! 俺はてめえみたいな下等な親から生まれたガキとは生まれが違うんだ! さっさと俺に土下座しっ」
話も聞けない。常識の欠落。罵倒でしか会話が出来ない。それに、未だに僕を子供扱いしてる
この病状。本格的に医者を紹介した方が良いかも知れない。
取り敢えず、蹴り上げてみて、頭の働きが戻るか調べよう。
後、地味に親の事はむかついたから強めに蹴っておこう。
リフティングを始めてしばらくすると、やっとお仲間が到着した。
草だらけのその姿を見るに、よっぽど険しい山道を乗り越えたに違いない。
そんな皆にはご褒美として、この末期患者を上げよう。
落ちてきた患者をようやく登りきった皆に蹴り飛ばす。
正に人間ロケット。やっと付いたお仲間がボーリングのピンみたいに倒れて、落ちていく。
「怒りに任せてやってみたけど、空中動作制限解除と、兎跳びは相性が良いな。ダメージは低いけど」
それなりに使えるようになるには時間耐久性スライム踏みを十分で四百匹こなさないと難しいだろう。
後、止まらないドリブル運動三十分耐久で速さに馴れたから、思い切り踏み出せたのも影響してるかも知れない。
「マヨには後で礼を言っておこう」
マヨのお陰でガキ扱いする馬鹿共に仕返し、じゃなくて治療が出来るよ。
「まあ、やり過ぎても禍根が残るし、熱い友情が、の一歩手前で止めとかないと」
目指せ青春漫画。けどあんな友達は遠慮したい。
「おっと」
何かが横切った。途端に後ろで激しく転ぶ音が聞こえてくる。
どうやら突進しようとして、失敗したらしい。
向こうは百倍の速度に付いていけずに鈍行。
こちらは計四十分の特訓でそれなり。
「何か、哀れになってきた」
怒りは、もう無い。狩り場から強制退去して、終わろう。




