14-物作りを忠実にした結果、機械で作らないと苦労する設定になっております
作業を始めて数分後、何故か僕の前には綺麗に並べられた素材達が鎮座していた。
もう一度、確認の為に言おう。たかが数分で、素材達が行儀良く整列してる。
「……何でだ?」
いや、何でか、は分かっている。
ミナミの手際が見事で、アイテムを数える作業も直ぐに終わらせたのだ。
でも、そんなのは現実には有り得ない。ゲームの世界でも有り得ない。
だって作業中のミナミの手元は並の撮影機材では追えないくらいだったんだから。
「ミナミは……加速装置でも付いてるの?」
「そんな訳無いだろ。服は膨大な数の素材を使うんだから、この位が当たり前だ」
そう言うもの何だろうか。
だとしたら服を作る人全員が集まったらどんな物でも二秒で数え切れるに違いない。
芝生に生えてる葉っぱの数とか、森にある木の葉の数とか。
木を隠すなら森の中なんて言うけど彼等の前にはそんなことわざは成り立たないだろう。
木どころか、木の葉一枚見逃さない。
「恐るべし。服屋さん」
「何言ってんだ?」
ミナミが首を傾げて、僕の顔を覗き込む。
「数えすぎて頭可笑しくなったか?」
「さり気ないけど、暴言だよねそれ」
「単調な作業を一日中してたら精神が疲弊して、頭が可笑しくなるから暴言じゃない」
「たかだか五分で疲弊しないよ。皮が二人合わせて四百九十八。耳が三百二十二。玉が百五十四だね」
「勝負はあたしの勝ちだけど、なかなかの量が集まったな」
「アイテムの数が多過ぎじゃないかな。このゲーム」
「そうか? あたし達のレベルで全力を出して兎を狩ればこんな物だろ」
「でも、これじゃあお金とか稼ぎ放題でゲームバランス崩れないかな?」
「武具の整備一つで1000Gは飛ぶし、良い武器なら万単位の金が必要だ。六つ装備すると、安くても6000Gだし、これ全部売っても収益はごく僅かだ」
僕は足で蹴倒してるから千もかからないからかなりお財布に優しいな。
土地買うまで足で頑張ろう。
「それにご飯代も馬鹿にならない。店で買えば一食1200G。一日二食で3400G。つまり、最低でも4000は稼がないと空腹で前ステータス半減だ」
「え? ご飯? 空腹?」
「何驚いて居るんだ。ステータス画面にゲージがあるだろ」
言われて、慌ててステータス画面で確認すると、確かに体力を表すHPと、魔力を表すMPの下に三番目のゲージがある。
あれ、可笑しい。更にその下にもゲージがあるんだけど。一体何なんだ。
「上から体力、魔力、空腹度、経験値。ウルカ、チュートリアルを飛ばしただろ」
「マヨが要らないって言ったんだ」
「そうか。なら要らないな。私が説明するし」
マヨの前に理屈は必要ないらしい。全く、心に黒い火が燃え盛っちゃうなあ。
「ふふふ、ゲームに置いても周りの女性の心を奪うのか」
あいつのせいで何人もの人間が青春を謳歌出来ずにただ涙を流していると言うのに。
あいつに彼女が出来たらチャンスが出来るかも知れないからと、皆が全力で協力したと言うのに。
結局、町ぐるみのファンクラブが設立されただけで現状は変わらなかった。
「ふふふ、あいつが引っ越すだけでかなりの人が喜ぶよね」
「男の嫉妬は見苦しいな」
「じゃあ、ミナミはクラスに頭良くて、運動神経良くて、ちょっと冷たい印象があるのに実は優しい女の子が、地域の男の子全てを惚れさせても平常心で居られる?」
「女の子なら許さない。あの御方の目に止まる前に顔の骨格ずれるくらいしばく」
マヨ至上主義者、とでも言えば良いのか。そんなミナミがかなり怖い。
「つまり、そう言うことだよ。幾ら恋をしようともその恋は報われず、ただ枕を濡らすしかない。片やマヨはいつどこに居ても女性が侍り、手作り弁当ならぬ、手作りおかずを手渡されるんだ」
この差は何なんだろう。
マヨが全ての人に優しく、あらゆる方面の努力を厭わない人間じゃなかったら、命が危うかっただろう。
因みに危ないのはマヨの命ではない。
世の中に絶望し、それでも諦めきれずに結託して、マヨを強制引っ越しの刑にしようとした全校の男達の命だ。
あの時、マヨの執り成しが無かったら、マヨの過激的なファンが制裁の嵐を巻き起こしてただろう。
過激派の、眼差しが、今でも、トラウマだ。
「あの御方なのだから当然だ。諦めて引っ越せ」
「ミナミの考えはかなり排他的だよ。それ言ったらモテない男子の居場所か無くなる」
「なら恋愛は諦めて部活に専念するんだな」
そう言うとミナミは曲がった金属板を取り出して、毛皮の裏を乗せ、ナイフで脂を削ぎ落とし始めた。
手早く済ませ、次の毛皮を取り、また同じ工程を繰り返す。
「何やってるの?」
「皮をなめす為に脂を削いでるんだ」
つまり、五百近くある毛皮にこの動作をするんだろうか。
「大変だね」
「現実でやるともっと大変だぞ。二秒では絶対に終わらない。ウルカ、それを薄めた洗剤で洗え。これ洗浄液。これ、撹拌棒」
手を止めたミナミから渡された物は液体が入ったドラム缶と木の棒。
「手伝えと?」
「早く格好いい服着たいだろう? 五枚同時に入れて五秒かき混ぜろ」
問答無用と言わんばかりに押し付けられ、僕は渋々毛皮を入れて、かき混ぜた。
泡立ち、浮かんでくる毛皮を押し込めて、五秒、直ぐに毛皮を取り出す。
「ミナミー。この毛皮、どこで洗剤落とすの?」
「後でまとめて落とすから適当に置いて」
それで良いのか。てっきり、洗剤で毛皮が傷ついたりすると思ったんだけど。
「まあ、ゲームだし、そこまで厳密じゃないよね」
僕は疑問を捨てどんどん積み重なっていく毛皮をざぶざぶ洗う作業へ戻った。
二十五分後、洗い終えた毛皮は一足先に作業を終えたミナミによって纏めて水洗いされ、水槽内の薬液に漬け込まれていた。
「これって大変だね」
「本当は専用のナイフで削る物を安いナイフでやってるからね。専用ので削ると一秒もかからないし、洗いも要らないんだ」
「その専用ナイフは高価なの?」
「専用ナイフ一つでこのナイフが二百本買えるな。後、手入れに50000Gかかる。つまり維持費は月に大体、150000Gだ」
想像も出来ない単位になっている。少なくとも、僕には手が出せない。
「それに比べて、安価なナイフは月に600Gで済む。経済的だろ。良し、終わり、後は十分放置すれば終わりだ」
最後の一枚を水槽に放り投げ、ミナミは伸びを一つして、僕をちらりと見た。
「後は、採寸するだけだな」
メジャーを取り出し、僕に近付いてくる。
「いや、そんな厳密に作らなくても良いんじゃないかなあ。ほら、ゲーム内だから補正効くでしょ?」
「そうだけど、適当に作ったら完成した時に形がぐちゃぐちゃになるんだよ」
嫌だ。僕の情報、特に身長は知られたくない。
これは、保険の先生含む全ての関係者に口止めしてるんだ。
逃げよう。今の僕ならきっと逃げられる。
「服が出来たら教えて!」
台詞を吐き捨てて、ドアへと跳び付いたけど、開ける前に僕の足に違和感が生まれた。
何かが僕の足に絡みついて、足が踏み出せない。
振り解こうと下を見ると、数字が記された長い帯が足首にしっかり絡みついている。
「これメジャーの使い方じゃないよ!」
「ああ、これから本来の使い方をするから大丈夫だ!」
ぐいとメジャーが引かれ、僕は地べたに転んでしまった。
そのままメジャーを巻き取るミナミの目が好奇心で輝いている。
「やだ、止めろ」
「安心しろ。秘密にしといてやる」
「やだ、嫌だ。ぎゃあああ!」
十分後、なめしが終わって革は水槽から引き上げられた。
ミナミは既に作業に没頭し、兎の革を縫っている。
「はあああ」
何で、何で厚底の靴を履いてないんだろう。
まさかあんなに強行に計って来るなんて。
マヨにも秘密にしてきたのに、身長で負けてる中学生にばれるなんて。
「鬱だ」
「気にするな。その位の身長なんて、今時珍しくない。ほら、陰干しを手伝え」
気にするなと言われても僕には重要な秘密だったんだ。
女の子で言う、体重みたいな存在だったんだ。
やる気が起きなくなるのも仕方ないと思わないのか。
……陰干しは手伝うけど。
指示されるまま、左右の壁際に張られた二本の長い紐に、兎の革をかけていく。
干すとしわしわになるから、これで、しわを防止するらしい。
「干して二分、後に揉みほぐせば完成だ」
「おー」
「元気無いなあ。今回はワイルド路線で行くんだ。気合い入れろ!」
「おー!」
ミナミの構想を聞かされた時点でどんな服になるかは予想が付いているんだ。
そして、僕がそれを着たらどうなるかも。
でも、折角ミナミが作ってくれるんだ。文句は言わない。
ただ、憂鬱なだけなんだ。
「よし。私は早速出来上がった奴を使って作り始めるから、陰干しと揉みほぐし、頼む」
「りょーかい」
さて、ミナミは僕の雰囲気をワイルドに出来るのだろうか。
言うまでもない。無理だ。最初からそこまでがらりと変えられるほど僕の少年的雰囲気は柔じゃない。
でなければ、僕が私服に苦労するはずがない。
今、干したり、揉みほぐしたりしているこの兎革もワイルド風にはしてくれるだろうが、きっと子供っぽさは拭えないだろう。
「せめて、子供っぽさ二割減になれば良いなあ」
「何言ってるんだ。ワイルドになるんだから子供っぽさは無くなる。間違いない」
ふふふ、昔の僕を見ているようだ。そうして絶望した後に、諦めきれなくて数多の服に手を出す事になるんだ。
それにしても、たかが毛皮を作るだけでこんなに大変だとは思わなかった。
きっと高価な道具を使えばもっと時間を短縮されるんだろうけど、それでも狩りをする時間は限られている。
つまり、物を作る時間のせいで材料とお金を稼ぐ時間が無い。
普通はどうやってこのバランスを取って居るんだろうか。
一時間を前半と後半に分けて、素材集めと加工に分けているのかな。
「でも、そうして出来上がったのがただの毛皮なんだよなあ」
割に合わないというか、損してる気分というか。
「ただの毛皮じゃないよ。アイテムの詳細見な」
声がした方を見るとミナミが毛皮を切りながらこちらをちらりと見ていた。
「ただの毛皮じゃない。ほら」
ミナミが毛皮の一部を投げつけ、僕は落としそうになって、慌てて両手で掴んだ。
そして、言われるままに詳細を見てみる。
「手作りの毛皮?」
「そう。機械で作った奴より頑丈だし、魔法の付加もし易いんだ」
なかなか優秀な毛皮らしい。
でも機械式の毛皮を見たこと無いから苦労は報われたのか分からない。
「どれだけ優秀かは試着して確かめな」
そんな僕を察してか、ミナミは作業を早めながら言い放った。
大した自信だけど、スライムより多少強いだけの野兎の毛皮なんだから期待はしない。
だってあの兎だよ。あれだけ倒してレベルの一つも上がらないあの兎。
「やっぱり期待するなら性能よりも見た目だね」
「何言ってるんだ? ほら、着ろ」
ミナミにふわふわの毛皮で出来た物を手渡され、何気なく視線を落とす。
「って、もう出来たの!?」
「当たり前だ。これ以上時間がかかったらスキル育てるのが大変だろ」
そう言われればそうだ。この作業に加えて製作の時間までかかるとなればレベルを一つ上げるのにも苦労する。
「付け方は分かるな」
「うん」
さて、総製作時間三十分の真価を見てみよう。




