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N・A・SーOnline  作者: 想磨
13/22

13-このゲームでは想像している人と、現実にプレイしている人が違うことがよくあります。

  

 空中を跳ねるように駆け抜けて、僕は南門に到着した。


 僕の背と大して変わらない門の前には、ミナミさんはまだ来てないみたいだ。


 時計を見てみたら時間は後、二分あるけど、今更足掻いても仕方ないだろう。


「それにしても、あの状態を十分しかやってないなんて信じられないなあ」


 てっきり二時間はやり続けてたと思っていた。


 苦痛な時間は長く感じるという理論を実感出来た三十分だったよ。


「おう、ウルカ。早いな」


「ミナミさん」


 ほくほく顔で帰ってきたミナミさんは僕の前に立つと、片手で掴んで背負ってきた糸車を地面に置いた。


 かなりぞんざいに置かれた糸車がからりと回転する。


 あまり大切に扱われて無い、何の変哲も無い糸車だけどこれが実は大量破壊兵器なのだ。


 世の中は、特に全て人が作り上げた物は不可思議に満ちてるのかも知れない。


「ミナミさん。この糸車、何なんですか?」


「何なんだって言われても、ただの糸車だけど。ナナカマド製、魔法付加なしのただの糸車。武器として装備出来るけどご覧の通り、殴るのには使えない」


 つまり、ミナミさんのスキルにあの広範囲魔法の秘密があるのか。


 僕が糸車とミナミさんを交互に見ていると、ミナミさんの顔が苦い笑みで崩れた


「ウルカが思ってるほど良いもんじゃないよ。私のスキルは」


「どうしてですか? 格好良かったのに」


「見た目は派手だけどね。制約ばかりなんだよ」


 そう言うと、ミナミさんは指を三つ立てて左右に振った。


「先ずこのスキルは三つのステータスが必要だ。魔防と魔攻と物攻の三つ」


 そして、指を一本折る。


「第一条件、このスキルは自身の魔法防御が敵の魔法防御を上回っていなければならない」


 更に二つ目の指を折る。


「第二条件、このスキルの有効範囲は魔法攻撃力に依存する」


 最後の指も折り、出来た握り拳を僕に見せ付けた。


「第三条件、このスキルは糸を切る事で発動し、その糸が受けたダメージに依存するが、糸切り鋏の攻撃力は物理攻撃力依存だ」


 かなり厳しい条件だ。三つのステータスを伸ばそうとしたら結局どっちつかずになる恐れがあるし。


 不要なスキルとして扱われかねないのに何でこんな条件を付けたのか、制作者の意図が分からない。


「そんな制約が必要なほど強いスキルなんですか?」


「確かに強いスキルだ。普通の範囲攻撃のように威力は拡散しないし、糸切り鋏で斬ればダメージは五割増えるからな」


「納得の制限ですね」


 五割増しの攻撃を一気に複数に当てるスキルなんて使い方を工夫すれば凄いことになりそうだ。


 例えば香水を使えば、それだけで作業効率は何倍にも膨れ上がる。


「だがなあ。移動は難しい、発動準備は時間がかかる、何より圧倒的に物理に弱くなる。ハイリスクハイリターンなスキルなんだよ」


 ミナミさんはぼやきながら頭をかき、糸車の車輪に肘を乗せる


 更に溜め息まで吐いて見せて、苦笑した。


「唯一の救いは糸車は魔法全般のステータスを上げてくれる事だな。それよりもウルカのスキルの方が凄かったぞ」


「あはは。慣れれば誰でも出来ますよ」


 後、少し高めのテンションが必要かも知れない。


 けど、あんな怖い思いをするって知ったら誰もやろうとはしないだろうな。


 僕も、頼まれようが必要に迫ろうが、二度としたくない。


「よし、じゃあ、受付の所で結果報告だ」


「はい」

 僕は糸車をしまって歩き出したミナミさんの後ろをついて行く。


 しかし、町中に入ってみると、何故か時たま僕を指差す人がちらほら見かけた。



 ある人は笑い、ある人は真剣な眼差しで僕を見つめている。


 ああ。そうか。僕がここをハイジャンプのレベル上げをしながら通ったからだ。


 それ以外に理由が見当たらない。


「マヨの奴。覚えてろ」


「何か言ったか?」


「いえ、ただ友人に藁人形を刺す必要があるだけです」


「ただ、で済ますような事柄じゃないな」


 くすりと笑い、ミナミさんは歩を緩めて、僕の隣を歩く。


 横から見ると、ミナミさんのスタイルが強調されてしまい、僕は慌てて視線を前に向けた。


 忘れろ。あの人生で一番大きかった女性の象徴を忘れるんだ


 でないと一生ミナミさんを正視出来なくなる。


「そうだ」


「はい」


 未だあの豊かな丘とその下のくびれが忘れられず、真正面を向いたまま、僕は返事をした。


「ウルカの敬語が気になる。止めてくれないか」


「そうですか? でもミナミさんは目上ですし」


「それでも二、三歳差だろう? 距離を感じるから止めて欲しいんだよ」


「二歳差?」


 可笑しいな。不本意だけど、僕は小学生と思われてた筈なんだけど。


「失礼ですがミナミさんの年齢は幾つですか?」


「失礼だ。聞くな」


「じゃあ、分からないので敬語は使います」


「……絶対老けてるって言うなよ。大人びてるなんて言葉も嫌いだ」


「は、はい」


 どんなトラウマがあるのか分からないけど凄まないで下さい。


 凛々しさ三十割増し、三倍の鋭さがあって、恐いです。


「実は……中学生だ」


「……へ?」


 でも、ミナミさんの身長もその、女性らしさも中学生の枠組みから突出してる。


「あ、そうか。最初のキャラ設定で」


「顔以外は自前だ。顔も少し弄っただけ」


「う、う、……嘘だー。まさかー。嘘ついて良い日はとっくに過ぎてますよー」


 有り得ない。だって僕高校生だよ。ミナミさんより年上なんだ。


 なのに、向こうはあの滲み出る大人感。こっちは溢れかえる子供的雰囲気。


 本当だったら死んでやる。いや、死なせて下さい。


「嘘じゃない。友達とやっていたから余り変えなかったんだ」


「死ぬ! もう死ぬ! こんな人生やってられるかー!」


「ウルカ!? 落ち着け!」


「どーせ僕は落ち着きの無い子供だよ! 年上の女性に弄ばれて捨てられる役柄だよ!」


 高校生なのに、中学生の女の子に身長負けて、雰囲気負けて、惨め過ぎる。


 鬱だ。ああ、鬱だ。これならマヨの反対を押し切って高身長としっかりした肉体を作れば良かった。


 自前の身体でダンディズムな大人になるなんて、無理だったんだ。


「まさか、ウルカは本当に高校生?」


「悪いか!? マヨに勉強教わってるから頭は良い方なんだぞ!」


「何で賢さの話になったんだ?」


「それしか誇れないからだよ!」


 それすらもマヨには劣るけど、そもそも完璧超人のマヨに人類が張り合う事は無駄を表すから気にしない。


「その、悪かった」


「……人のコンプレックスを遠慮無くえぐった。いや、ミナミの存在自体が僕の心をえぐってる」


 まるで鬼のような中学生だ。マヨの彼女みたいにもう少し

棘の生えた言葉を真綿でくるむ努力をして欲しい。


「悪かったから! ほら、大人な服を作ってやるから機嫌を直して」


「本当に!?」


「勿論だ。だからほら、換金するぞ」


「おう!」


 大人な服。どんなのだろうか。紳士的かな。カジュアルなのかな。思い切ってワイルドとか。


 期待感に浮き足立ちそうな、僕はミナミの後をついて塔の中に入っていった。


「今日は少ないね」


 そのおかげで床がチェック模様だと初めて知ったんだけど、人が居ないせいか受付に生気が無い、。


 床の模様なんて知らなくても良いからあの熱い戦いをしたかった。


「よし、同じカウンターで清算するぞ」


「分かった」


 一番端のカウンターに行き、先頭にいたミナミが兎肉を取り出した。


「全部で三百七十個、2590Gで買い取りますがよろしいですか?」


「ああ。じゃあ次はウルカだ」

 ミナミは三百七十か。何か意外と少なかったな。僕はもっと少ないけど。


「全部で二百九十六個、2072Gで買い取りますがよろしいですか?」


「はい」


「二百九十六か……かなり多いな」


「ミナミに言われたくないな。そっちの方が多いじゃないか」


 六十以上も差を付けられたんだ。負けは確定だろう。


 それでも僕は外へと歩きながら喜びが顔に滲むのを自覚した。


 だってミナミを驚かせる事は成功したんだ。


 試合に負けたけど、勝負には勝ったと思っても良いだろう。


「そう言えばミナミの工房はどこにあるんだ?」


「この町の一番東。あそこの殆どの施設は格安で借りれるんだ」


「へえ」


「じゃあついて来い」


 そう言って先を歩くミナミの後を僕は揺れるサイドテールを見ながらついて行った。


 土が剥き出しの道路を歩き、木造家屋の間を通り抜ける。


 そうして到着した場所は、少しカビの臭いがしそうな古びた施設だった。


 ただ、僕が宝珠を作った場所よりはまだ綺麗で、住めば都と言える範囲内だ。


 住めば都と言えるぎりぎりの範囲内だけど。


「見た目は悪いが、皮もなめせるし、足踏み式のミシンもある。埃を被っているが機織り機もあるんだ」


「機能重視って事?」


「そう言うこと。それに本当に住む訳じゃない設備に金をかけたくないじゃないか」


 小さな二階建ての扉を開けるミナミの後ろをついて行くと、ぎしりと床が軋んだ。


 下を見れば、今にも朽ち果てそうな顔面蒼白の木目が僕の足で歪んでいる。


 視線を巡らせると、この部屋の床が全面還暦を迎えた病人じみて居る事が見て取れた。


 これは、体重をかけるという無体を働いて良いのだろうか。


「気にするな。なめした皮がみっちり入った木箱を落としたけどそれにも耐えた歴戦の猛者だ」


 歴戦の床とか、悪い意味にしか受け取れない。


 もう体力が衰えて後は若い者に託そうって心境かも知れないじゃないか。


 そんな事を考えていたため、歩みは更に遅くなる。


 そんな僕に痺れを切らしたのか、ミナミが僕の腕を掴んでずんずんと歩き出した。


「うわ、落ちる!?」


「うるさい! 落ちる訳ないだろ!」


「分からないよ! 昨日崩れなかった崖だからって安心するのは馬鹿がやる事だよ!」


「この床は猛者だ! 馬鹿にするな!」


「歴戦って事はかなりのお年だよ! 老人を虐待しちゃいけないよ!」


「虐待じゃない! マッサージしてるだけだ! ほらついた!」



 床を踏み鳴らした、ミナミが勢い良く扉を開ける。


 そこは水槽が埋め込まれた、石製の床が特徴の部屋だった。


 取り敢えず、ここの床は元気そうで、安心出来る。


「ここがなめす所?」


「ああ。毛皮を処理して、なめして、頑丈にする所だ。ここならアイテムを床に置いても消えない」


 ミナミが大量のアイテムをボックス無い放出して辺りにばらまいた。


 やり方が余りにも雑だけど、無作為に跳ねるアイテムも凛とした女性を中心にすると絵になるんだから何も言えない。


「一人じゃ厳しいな。数えるの手伝ってくれ」


「十枚一組?」


「それが妥当だな」


 短い会話を終え、僕達は床に座って作業を始めた。



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