12-このゲームは創意工夫が大事です
それから五分、取り敢えず、今まで通りにやってみた。
見つけた野兎に対して、跳躍、踏みつけ、飛び上がりながら索敵。
はっきり言おう。
効率が悪過ぎる。
いや、実を言うなら効率は良い方だ。
このやり方は群れを探しながら、兎を踏みつけるという物だ。
つまり索敵時間は実質無いに等しいし、空中で下向きに飛び出せば更に時間は短縮される。
初心者にしてはなかなかの効率である事は間違い無い。
「間違い無いんだけどなあ」
ミナミさんの方法と比べるとやっぱり見劣りしてしまう。
そもそも比べる事自体間違ってるんだろうけど。
「自転車とオートバイくらいの性能差がある気がする」 一瞬で周りの兎をズバッと刈り取るミナミさん。
対する僕は、一回跳んで、狙いを定めて、ぷち。
効率も迫力も違いすぎる。
「無理だ」
想定はしていたけどこのままじゃ、負ける。
それもプライドがずたずたに引き裂かれるような大差で。
「そもそも、兎跳びと空中動作制限解除は攻撃スキルじゃ無いんだよなあ」
僕がやっていることは移動用のスキルを使い接近、圧倒的なレベル差で叩き潰すって言う、口にしたら情けない行動だ。
しかも、移動用スキルを使っても、薄く広く分布する兎を追いかけてるせいで広範囲攻撃に見劣りする成果になっている。
「やっぱり、兎を一カ所に固めないと駄目だ」
何か無いか。兎を集める何か。
餌でおびき寄せるとか。人参は……あるわけ無いか。
それに草なんて辺り一面に生えてるからおびき寄せる事なんて無理。
なら驚かせて、追い込む方法。
いや、このゲームの兎に恐怖心は無いから逃げないだろうな。
それに兎相手に脅しをかける姿なんて、微笑ましい光景過ぎて血反吐が出る。
「うん。一カ所に集めるのは無理」
マヨみたいに頭が良い訳じゃ無いし、こういう事は諦めが肝心だ。
こうなれば、ただただ努力あるのみ。
「己の限界に挑めば自然と効率も上がるに違いない」
己の限界。つまり、動体視力の限界だ。
いや、ゲームの世界だから頭の認識の限界なのかな。
ふわりと跳んでいた跳躍を鋭くする。
更に、跳躍で空中から落下する速度も上げる。
「まだだ。まだ足りない」
速さが、何よりも度胸が圧倒的に足りない。
急激に迫る地面への恐怖心を押さえつけ、僕は更に加速する。
気が付けば僕は、激しく上下運動し、稲妻模様を描きながら敵を蹴散らしていた。
視界が目まぐるしく動くけど空中で跳躍する一瞬で敵の居る方向を定めれば意外と余裕だ。
だけど、幾ら力を込めようとある一定の速度には至らない。
「そうか。これが限界か。見える。僕の限界が見える!」
これを超えれば僕の勝ちだ。
そう思った途端、僕の身体はその速度を超え、地面に背中から叩きつけられた。
「ぐはっ。痛くないけど凄い痺れる!」
今の失敗で体力が三分の一まで削れた。
三回連続で失敗したら死亡らしい。
「残機が三か。イージーモードだね」
それにしても何でいきなり加速したんだろう。
「いやいや、加速した理由なんて分かり切ってる」
どうやら背中を打った衝撃で思考が固まってたみたいだ。
起き上がり、ステータスからスキルの詳細を見てみる。
「予想通りだ。兎跳びがレベル三になってる」
つまり、跳躍の速度はレベルに依存している。
だからと言ってステータスにも依存していないとは言えないけど、謎が少し解明された。
「説明は……おお、空中で四回もジャンプできる」
これは行ける場所がかなり広がったはずだ。
これでレベルがそれなりに上がれば冒険も旅も、し放題だ。
「と、浮かれる前に勝負をしなきゃ」
まだまだ時間はたっぷりある。
勝てなくても、ミナミさんを驚かせるだけの成果を見せつけてやろう。
「よし、やるぞ」
今度はレベル三の速さを使いこなして、更なる効率化を目指すぞ。
先ずはゆっくり跳躍、力をあまり入れずに折り返して、兎を潰す。
アイテムを直ぐに回収して、少し早く跳躍。
敵を確認して、力を多少加えて踏みつける。
更に早く跳んで、踏みつけて、跳んで、踏みつけて。
「あれ、あれ? 拙い! 止まらない!」
もう敵が一瞬しか見えない。景色も線になってるし、何か、足元で地面が変な音を鳴らしてる。
「わ、わ、わ、わ!」
足元からあの兎の濁声が聞こえるから一応敵は倒せてると思うけど、止まり方が分からない。
空中を蹴るって手順を抜けば良いのか?
でも、この速度で空中に放り出されるのは怖い。
近くの木なんか悠々と超えるかも知れないのにそんな事出来ない。
じゃあ、力を抜こう。
「うにゅ!?」
待て待て力を抜いたら身体が変な風に折り曲がりそうになったんだけど。
しかも若干可愛い声出しちゃったし。僕は男だ。青年だ。喉仏も探ればある。
「もう、もう、どーにでもなれー!」
僕は男だ。三十分くらい耐えて見せる。
目から流れるのは汗で、決して怖くて泣いてる訳じゃない。
決して、怖くない。
「やっぱり怖いよ! ジェットコースター並みだよ! 怖くないわけ無いだろ! 何でレベル三でこんなに早いんだよ! もーやだー! 誰か助けてー!」
こんなに言っても、誰も助けてくれない。
薄情だ。縁無き人々なんて言われる現代人の代表みたいな奴らだ。
だから、路上で倒れた人を助ける人が居ないんだ。
ああ、でもその人が詐欺師だったらどうしよう。
助けた人をカモにする詐欺師が実際に裁判を起こしてまんまと金をせしめた例もあるしなあ。
あ、だけど結局バレて協力者諸共お縄になったからそんな事やる人居ないか。
「だから助けてー!」
もう、方向感覚も無くなってきた。
どっちが上でどっちが下だろう
僕は何分跳ねてるんだろう。三十分は経ったのかな。
ミナミさん、助けてくれるかな。
「もう、眠くっ!! わああ!」
いきなり視界が緑だ。何も見えない。で、全身が痺れてる。
「て、今度はいきなり視界が晴れて、痛い!」
痛くないけど、地面に落ちたんだから痛いと言ってしまった。
どうやら木に引っかかって、落ちたみたいだ。
「近くに木ってあったっけ?」
こういうゲームには地図はある筈だ。僕は地図音痴じゃないから現在地と門さえ分かれば何とかなる。
「現在地は……げ、西の森?」
西は強い敵が居るとマヨが言ってた。即刻避難しなきゃ拙い。
「ここから南門は向こうか。ん?」
焦っていたから目に入らなかったけど、折れた枝がアイテムになってる。
「貰える物は貰って、いざ退散」
兎跳びを地面と平行に発動させ、僕は撤退した。




