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吊られた男は(異)世界をかける  作者: 活呑


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2話 

夜が明けた。

僕はザラさんの抱き枕だった。

左の耳たぶに意図せずピアスの穴が開いてしまった。かさぶたが出来てる。


ピロン

メニューが開く。

しょうごう? 

「このチキン野郎!玉ついてんのか!! 」


なんじゃこりゃ。

やっぱりするなら合意の上がいいんだよ。ザラさん良い人そうだし。


酒臭いけど、非力な僕は動けない。

ザラさんの顔が近い。はじめは独特で怖さがあったが、見慣れてきたのか今はそうでもない。むしろ、可愛い寄りでは?口から覗く牙はリアルに怖いけど。


もぞもぞしてると、ザラさんの瞼がピクピクして、ゆっくり開いた。

「カツヤ、良く眠れたか?」

「おはようございます」

「ん。おはよう」


彼女はむっくり起き上がる。

「んー、わたし何でパンツ履いてないんだ?」

こちらをじとっとした目で見る。

「お前な、襲うなら起きてる時にしろよ」


「いやいや、洗濯頼まれただけです。ちゃんと洗って干してるでしょ?」


「ふむ」

彼女は腕を組んで家の中を見回した。

「あの、パンツ履いてください」


彼女は壁にかかったパンツをとって履いた。

「脱がしたなら、履かせとけよ。礼儀だろ?」


礼儀……世の中は広い。

「ごめんなさい。気をつけます」

「あとな? 雄が雌のパンツ脱がすんなら襲え! オークの常識だぞ」

「え……急に襲えとか言われても……」

「んー。人間だもんな、お前」


「決してザラさんが嫌なわけじゃないです」

「ほうほう? オークの雄はな、相手が誰とか関係ないんだよ。本能なの。

どっちかというと雌の方が雄を選ぶんだけどさ。雄はホラ、ぶっちゃけゴブリンとの間でも子供作れるからね? 下半身でしか考えてないってのは本当かもしれん。

……人間も似たところあるって聞いたことあるんだけど……婆ちゃんの思い違いなのかな……」


確かに人間の性癖は、オークを凌駕するかもしれない。種にそこまで元気はないと思うけど。

向こうみずの冒険野郎のせいで広がった感染症があったという話もあるくらいだ。


「雄オークって元気なんですね。もしかしてスライムとかとも子供できたりするんですか?」

「試したやつがいないんじゃない? 流石にあれに興奮しないでしょ……人間はするの?」

目つきが汚物を見るようだ。


「まぁ、最近は雄たち、元気ないんだ」

「はぁ……」


「それより……ほい」

小さい木の枝を放り投げてきた。


「え?え?」


「カツヤ、歯、綺麗にしないの?」

じとっとした目


んーー?

木の枝をつまんでジッと見つめる。これどうするの?


「使い方、わからない? かじって、ほぐして、こするの」

ザラさんは木の端をガジガジかじる。

そのあと、その先っぽで歯をこすり始める。


おぉ、そんな歯ブラシなのね。

真似して木の端を柔らかくして、歯を磨く。どうせなら夜寝る前にもやりたいな……



「そうだ。今日は教会にお前を連れて行くんだった。なんか神官が用があるんだと」

「オークって何か神様信仰してるんですか?」

「オーク神だよ? 教会に石像あるから見てみるといいさ」


ザラさんと僕は家を出る。

朝の里は元気なく感じた。

暫く歩くと、3mくらいの石像があった。胸の前で手をクロスし、片手に槍、片手に杖をもってる。顔や体の造形は完全にオークだ。


「ここが教会。立派なもんだろ?」


教会は、石作りの立派なものだった。50人くらいならオークが入れそうだ。内装はわからないけど、外装が緑に塗られているのは、ちょっと気持ち悪い。


「字の読み書きが出来て、神の声が聞こえれば神官になれるんだ。オークにはそんなやつ、滅多にいないからね。教会のある里はそれだけで位が高いんだ」


そんな神官が僕に何用だろう。

もしかしてあのハゲジジイはオーク神だったのだろうか。禿げてはいたが……


「さ、入るよ」


ザラさんについて教会に入る。中は薄暗く、蝋燭の火が灯されている。


「ザラさま、よく連れてきてくれました」


どこから見てもオークだけど、仰々しい飾り玉?が身体中巻き付いてじゃらじゃらしたのが現れた。


今度は僕の周りをぐるぐる回りながら観察して行く。


「神に吊るされた人間が現れ、

 われらの窮地を救うであろう……御神託があったのです!」


まだそこを擦ってくるとは。どこまでジジイは僕を吊るせば気が済むのか。


「見るからに神々しいお姿。光がみえるようです」


「あの……ただの人間です」

光ってねーし。


「ご謙遜を。両足に聖痕が見られます。それこそが吊られた男の証。

 まずは我々が何に困っているのか、それをお見せせねばなりませんね」


部屋の中には、雄、雌のオークと、男、女の人間が、手に縄をかけられて立たされていた。


神官は、その縄を引いて地下へ降りていく。

「こちらへ……

 あ、この者たちは罪人なのでね。あまり気に病むことのありませんよう」

「一体何したって言うのさ」

「罰されるような酷いことはしてねぇよ」

人間たちの声が耳に残る。


ザラさんも付いていき始めたので、僕は慌てて追いかけて彼女の手を握った。

「置いていかないでくださいよ」

彼女はニヤリとした。

「どん引くんじゃねーぞ」


案内されたのは地下室だった。


不格好なマスクを渡され、つけるよう促される。

神官は、地下室の一室へ連れてきた罪人?たちを押し込み、扉に鍵をかけた。

「この部屋の中には、有り体に言えば媚薬で充満されておりますから、吸い込まないようにお願いしますよ」


なんかグロそうな予感が……胃が重くなる。


男性の奇声とオークの叫び声が聞こえ始めた。


「ここから中を覗いてください」

神官はドアの窓を開けた。

僕は恐る恐る、中の様子を見る……


!!


中は、男性同士が盛り上がっていた。


正気を失った目。

マスクのせいで臭いはわからないが、見ただけで臭いのイメージが臭覚にドンっとくる。


潰れた肉が一定間隔でぶつかる音。


ちょっと正気を保つのがギリギリ。


すぐに窓を閉めた。見なかったことにしたかった。

神官はそれを許さなかった。


「ご覧の通り、香などで強制的に発情させると、雄は、雄を選んでしまうのです。かといって、香を使わなければ雄にも雌にも興味を示さない。言うなれば、正常な繁殖ができなくなっているのです……」


「うげげ……」

正気を失ったオークはあれほどなのか。

相手が壊れようと関係ないのだ。


「病なのか、呪いなのか……ここ数年、オーク全体に広がっている狂気なのです」

神官は悔しそうに言葉を吐き出した。


「今日はその症状を直にお見せしたく、準備をしました。

 我々雄オークは、好戦的なものほど雄雌区別なく行為しますが、

 雌がいるのに雄に手を出すのは稀です。

 それに、雌のオークに誘われているのに他の種族に手を出すなど……」


神官は首を横にふる。


「雌のオークを怒らせると怖いもんな」


ザラさんがニヤリとした。


「ともかく、不自然なのに、原因が分かりません。広がり方はゆっくりですが、オークの子供が減ってきてるのが何より問題で……」


神官は悲痛な表情、のようだ。

目を手で覆う。


これ、もしかして、もしかしなくても、あのスキルの出番ってこと? 自分がそうだと思わせておいて他人に効果発揮できるやつ?


しかしまたれよ。


人間としてはオーク死すべし、ではないだろうか? オークの繁殖が正常に戻れば、人間的には悲しみの事件が再生産されるのだ。

詳しくはわからないが、そんな世界な気がする。


これは、重すぎる選択だよね。なんてこと判断させるんだジジイめ。


「カツヤ……あんた本当にこんなの何とか出来るのかい?」

ザラさんの声は優しい。


種全体のことは分からない。


使っちゃいけない。


人間の本能が警告を発する。

でも同時に、何もしなければ。自分にここでの価値を示せなければ、明日は生きてないかもしれない。


男は度胸。人間は失敗から学習する。

どうせ、自分の「スキル」は早めに把握する必要がある。

「ちょっと……やってみますね」


立ち上がって、メニューを開く。

『精力絶倫』を選択後、対象を選ぶ。

一人でも、ある程度の範囲でも実行できるみたい。雄オークをターゲットに、発動。

僕の目には、雄オークが光って見えた。


雄オークは白目を剥いた。

体が震え出す。

急に吐き始めたかと思うと、口の中から黒い、サソリのようなものが飛び出してきた。

オークは少し身震いすると、雄叫びをあげた。


オークが人間の女性へ襲いかかろうとする瞬間、僕は窓を閉じる。


中から新しい叫び声が聞こえ始めた。

女性の声だった。


「おお、おぉぉ」

神官の喜びの声。


ザラさんの戸惑いの表情。


僕は、胃液を吐いていた。生理的に無理……。

「あの、あれ、止めてやってくれませんか?」


神官は意外そうな顔をした。

「なぜですか。ついに希望が見えたというのに。新たな我らが子孫が増えるのですよ」


唇を噛んだ。こうなることはわかっていたんじゃないのか? 

ザラさんが僕を肩に担ぐ。

「今日はここまでにしてくれ。

 あとのことは相談させて欲しい」


目の前がぐるぐる回り、気がついたら藁の上に寝かされていた。


メニューが勝手に開く。

しょうごう? 「人類の敵」


ふざけた称号に、初めて納得感があった。

後悔?

あの時のあの判断は、僕にとって最善だ。

自分がこの世界で生き残るため。

エゴだよ! わかってるよ!

責められるなら、甘んじて受けねばならない。

あの女性の人、ごめんなさい……

直接顔、合わせらんないな……


また夜が明けた。

どうやら昨日はあのまま眠ってしまったらしい。

息苦しい。

ザラさんのチョークホールドがきまっていた。

危ない、眠ったまま逝くところだった。

「ストップストップ」

空いてる手でザラさんの体をペシペシする。


「~ん~? おはよう」

首は解除された。僕は一命を取り留めた。


「おはようございます。あの、昨日はすみませんでした」


「すみませんじゃないよ? そこはありがとうだろ?」

!!

「ありがとうございました」

「うん、うん、それでよろしい」


ザラさんは時々姉っぽいというか、母っぽいというか。いや、こんな母ちゃんだったら引くな……。

「今失礼なこと考えた?」

「いえ、そんなことは……」


「まぁ、いいや。お前昨日何もたべてないだろ?

 そこに買ってあるから食べとけよ」


ちゃぶ台の上には冷めてるけど、ふやけまくったオートミールのようなものがあった。

ちょっと涙がでた。

「ありがとうございます」


心底感謝した。

僕ががっついて食べてるのを、ザラさんはなんか優しい顔して見てた。



「今日は森へいくよ」

ザラさんが言った。

僕はげっそりした。あの森は厳しい。


「あまりないけど、危険がないか見回りに出てるんだ。

 おまえも連れていくからな」


今日は頑張ろう。

ピロン。

メニューが勝手に開く。


ステータス? たいりょく: ひくいほう


内容が更新されている。でも役に立たない。なにこのやっつけ。言われなくても分かってるわ。


森。

湖に沿って、川の手前側を遡って進む。

水辺の近くといっても、湖が見えるくらいに離れた森の中を進んでいた。


水際は水におちる危険があるし、もし敵対するものがいたら存在がバレバレだ、らしい。


そして例によって僕はザラさんの荷物だった。

肩に背負われ、ぶーらぶら。


途中、いのししのようなものとすれ違ったが、あれは神様の縁戚だそうで、オークは食料にしないらしい。


黙ってろ、の合図。そっと地面に降ろされる。

ザラさんは弓を構え、矢を射る。


ドサっ


大きな鳥が木の上から落ちてきた。

ザラさんはその場で首を落して体に切れ目を入れると、僕に差し出した。


「足もって逆さにしといて。血抜きするんだ」

僕は言われた通りに鳥の足をもつ。

今日は鳥が吊られてる。僕はまだ生きている。


「前にカツヤが罠にかかってただろ? 里のやつに聞いても罠はったやつ、いなかったんだ」

つーっと、汗が垂れる。


まさか神様に吊られたとか言えない。


「カツヤ、さ。お前どこから来たんだ?」


心臓が跳ねる。

喉が、口が、唇が渇く。この人に、嘘はつけない。

違う世界、とかは、僕が厨二だから分かるだけだ。共通のキーワードで……


「あの、神さまに。オークの神さまではないと思うけど。

 神さまに吊るされてました」


結局言ってる。


「カツヤ……何やったのさ……」

目を丸くされた。

そりゃそうだよね……そういえばなんで吊るされたんだっけ?

何も悪いこと、してなくね?


「確か、死にそうな女の子を助けて。そうしたら吊られました」


真実度100% でも普通伝わらない。神があのジジイだから。


「そ、そう? そんなこともあるんだね。

 人間の神様も変なことするんだな」


妙に納得された。

ここは、僕の元の世界よりも神様は身近みたいだ。

人間の神様も、と言った。オークの神様も変なことするんだ。もしかしたらあのジジイが本当にオーク神かもしれん。次会ったら刺そう。


「教会ではさ? 何やったの?」


核心をつく質問パート2。


「神さまにもらっている能力が1つだけありまして。僕的には、その、性欲求というか、性行為がすごく強くなるイメージのものだったんです。他の人に使うとあんなことになるとは……」


「ほほう?」

ザラさんの瞳がギラっとした。

立ち上がり、近づいてくる。

僕は鳥を落としてしまう。

さっと腕が伸びてきてチョークホールド。


「お前、そんなに凄いのか?

 それで私を襲わないのはどういうこった?

 チキンか? 童貞か?」


ギリギリギリ


「ストップストップ。

 えっと、オークの性の事、よく知らないんですよう」


「雌も雄も気持ちいいのは好きだ。

 だけど雌は子供ができることがあるからな。

 雌が嫌がったら雄は手を引く。

 だからかな? 雄は他種族の雌で発散するやつが多いんだ」


「全然、種のピンチじゃない気がするんですが……」


「神官様が言ってただろ? そもそも真っ当な性欲が無くなってきてるんだよ。加えて雄が雄にしか興味をしめさねぇ。


オークの雌はもともと数が少ないけど、それでも真っ当な雄のオークがいないんだ。


オークの雌は、今いろいろ溜まってるんだよ。

察しろ」


締まる首。回された腕をペチペチする。


「僕は神さまにもらった力でオークを助けられるかもしれません。……でも、それをしたら僕は人間を裏切ることになっちゃうんです」


「ごちゃごちゃうるさいなぁ。

 じゃあ、人間やめてオークになりなよ」


うあ、なんかパワーワードきたぞ。


「要するにさ、人間に優しいオークになればいいんだよな?」

「え?っと、あれ?そうなのかな?」

「とりあえず、その能力、あたしにかけて、カツヤも自分にかける。わかった?」

「え?え?」

「ほうら、だんだん首が締まっていくぞ〜」

なんかあたまがぼーっとしてきた。


これはもう、決断の時だ。能力をかけなくても殺されはしないだろう。

彼女から誘ってくれてる。ここで応えないほど、野暮じゃない。


ザラさんに『精力絶倫』をかける。

目のぎらつきがパワーアップ。

「あん。これ、いいねぇ」

次に自分にかける。


おお?なんか体が元気だ。栄養ドリンク飲んだより凄い。

ピロン

メニューが開く。


たいりょく? ぜつりん


あれ?そういう感じ?


頭とあそこに血液が集まる。

なんか鼻血も垂れてきた?

じーっとザラさんの顔を見つめる。

唇が艶っぽく光る。舌がぺろんと覗く。

心臓のドキドキが伝わってくる。

ザラさんの呼吸が荒く、甘い。

体の触れ合っている部分が熱く、それでも不快感などない。

彼女がただ、欲しかった。愛おしかった。彼女にそれを伝えるだけの体力は体に満ちていた。


僕とザラさんはお互いを触りあい、求めあい、貪りあった。

スキルのせいか、体力は一向に尽きない。

彼女の欲求が満足しても、二人の交わりは終わらなかった。



夕方。

目が覚めると、大きな葉っぱの上。

ザラさんとお互い素っ裸で寝ていた。

彼女は満足そうでツヤツヤ。

自分は……よくわからん。


メニューがまた勝手に開く


しょうごう? 「よくやった!」


なにをだよー。


もぞもぞしてたら、ザラさんも起きたらしい。

指で僕のほっぺをつんつんする。

「も〜、カツヤこんなことできるんなら最初からしろよ〜」

胴体を両足で挟まれていて、身動きできない。

「久しぶりに満足だ〜。よく眠れそう♫」


「あの、ごめんなさい。もうとにかく夢中で……」


「むふっ。夢中になれた?」

ザラさんはにんまりした。


「あんなことや、こんなこともできたねー。あんなに積極的になれるとか、人間も隅に置けないなーって感じだった」


上半身も両手で絞められる。


柔らかいのと硬いので複雑な気分だ。


「えっと、日が暮れちゃいますし、そろそろ帰りませんか?」

「今から帰っても家に着くの、夜中だよ。

 それにカツヤ、夜の森、歩ける?」


あ……


「無理です……」

「じゃあ、野営だな♩ あともう一戦やろう〜♫」


もうすぐ夜。

さっき血抜きをした鳥の羽をむしって、内臓を取り出し、ハーブを詰めて焼き始める。

内臓は串にさして、これも焼く。


ザラさんはどこからか椰子の実みたいなのをとってきて、石斧で上の方を切り取った。

「これ、飲み物な。なんか生きてるって感じだなー」


確かに。

ずっと生きた心地がしてなかった気がする。ザラさんの、生きてるって感じ、とは違いそうだけど、こちらに来て初めて心がどっしり落ち着いてる気がする。

生きてるって感じ。


でもきっと、明日になったらまたチキンに戻るのだろう。人間なんてすぐには変わらない。


人間が傷つかないように、オークも元気にできないだろうか? 多分、僕は熊撃ちの猟師さんに「クマとは共存できる」って言ってる人と同じなんだよね。住み分けができない限り、どちらもは救えない……。


星空の下、二人だけの時間は過ぎて行った。




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