7:初めてのパーティー戦闘:予兆
大迷宮ハンバルドの内部――そこは薄暗い空間が広がっていた。
たいまつの明かりで出入り口付近は照らされているけど、奥に目を向けると闇が支配していた。
耳を澄ませばギィギィという鳴き声が聞こえてくる。
もしかしたら魔物の声かもしれない。
しかし、こんな暗い中を僕は一人で進もうとしていたのか。
もし一人で挑んでたら心細かっただろうな。
そんなことを思っていると、隣に立つアリサさんが声をかけてきた。
「カロル君、大丈夫?」
「ちょっと緊張しています。それに、一人だったら引き返していたかもしれません」
僕は正直に今の心境を口に出す。
それを聞いたアリサさんは、優しく微笑みながら僕の手を握ってくれた。
「大丈夫。私がついてるわ」
頼りになる言葉を受け、僕は微笑んだ。
とてもありがたい。
嬉しさもあって、僕はアリサさんの手を握り返した。
「ありがとうございます。勇気が出ました」
「どういたしまして。よし、じゃあ気合を入れて進もう」
「はい。あ、でもその前にクエストの確認をしてもいいですか?」
「そうだね。一回確認しよっか」
僕は手にした用紙を開き、クエストの詳細と達成条件を確認し始める。
アリサさんはというと、横から覗き込むようにして用紙に視線を向けた。
★クエスト
アオキノコの採取【ランク:一つ星】
★達成条件
アオキノコ 10個 採取
★成功報酬
100ゴールド
★緊急クエスト
解毒草の採取【ランク:制限なし】
★達成条件
解毒草 10個 採取
★成功報酬
1000ゴールド
二つのクエストを確認し、僕はあることに気づく。
そういえば採取に必要なアオキノコと解毒草ってどこに群生しているんだろうって。
「うーん……」
「どうしたの、カロル君?」
「今から採りに行くアオキノコと解毒草って、どこに生えているのかなって思いまして」
「ああ、なるほど。ここに来たばかりだったわね」
アリサさんはそう言い、ローブの中から一つの古びた紙を取り出した。
覗き込むとそこには簡易的な地図が記されており、よく見るといろいろなことが書き込まれていた。
「アリサさん、この地図は?」
「ハンバルドの地図。といっても、私が作ったものだけどね」
「え? 地図を作ったんですか?」
「うんっ。まだ九階層までしか作ったことないけどね」
九階層って、結構進んでるじゃないか。
もしかしてアリサさんって、すごい人なんじゃないか?
「あ、あったあった! これ見て、カロル君」
アリサさんはそう言って地図のある地点を指し示す。
視線を落とすと、そこには【三階層】という文字があった。
「これを見る限りだと、アオキノコも解毒草も三階層にあるみたい」
「じゃあまず僕達は、三階層を目指すってことなんですね」
「ええ、そうなるわね。三階層ならそんなに魔物は強くないし、たぶん危なくないかな」
アリサさんの言葉を受け、僕は喜んだ。
これなら、すぐにクエストを達成できそうだ。
そう思っていると、闇の奥からうめき声が耳に飛び込んできた。
目を向けるとそこには顔色を悪くし、肩を担がれているビーストの姿がある。
どうしたんだ?
そう思って見つめていると、パーティーメンバーの一人が叫んだ。
「だ、誰か手を貸してくれ! 仲間が毒にやられた!」
声を聞き、数人の冒険者が駆け寄っていく。
そんな光景を見て、僕はギルドでの出来事を思い出していた。
「どうしたの? カロル君」
「いえ、ギルドでも同じような光景を見たなって思いまして」
「ああ、ポイズントードにやられたって言ってたわね。もしかして、あの人もポイズントードにやられたのかな?」
アリサさんは何気なく思ったことを口にする。
もしそうだとしたら、最大限に注意して大迷宮を進まないといけないかも。
くぅー、さすが緊急クエスト。一筋縄ではいかないってことか。
というか、ついでにアオキノコの採取も難易度が跳ね上がってる気がするんだけど。
僕が苦い顔をしていると、アリサさんがクスクスと笑いながらこう促してきた。
「大丈夫。何があっても私がフォローするから。今はまず、第三階層を目指して進もう」
立ち止まって考えていても仕方ないか。
もしかしたら、他の冒険者に先を越されてしまう可能性があるしね。
よし、ここはアリサさんの言う通りに進もう。
僕はそう決意して足を踏み出そうとした。
するとアリサさんが、「ちょっと待って」と声をかけてきた。
振り返ると、銀色に輝くリングを持つアリサさんの姿があった。
「これ、君にあげる。特別なアイテムよ」
「いいんですか?」
「うん、いいよ。あ、ピンチになったらそのリングを使って。
身体強化が発動してすごいことになるから!
あ、でも魔力を消費するから使いすぎには気をつけてね」
使うって、どうやって使うんだろう?
そんな疑問を抱きつつも、僕は「ありがとうございます!」とお礼を言った。
さて、僕達が目指すのは地下三階層。
手に入れるものはアオキノコと解毒草だ。
そんな意気込みをして足を踏み出していく。
それと共に「ギィギィ」という声が大きくなっていった。
警戒しながら進んでいると、唐突に声が聞こえなくなった。
同時に感じていた気配が消える。
それを感じ取ったのか、アリサさんが僕を呼び止めた。
「カロル君、魔物が来るよ」
僕は腰に差していた剣を抜き、魔物の襲撃に警戒する。
アリサさんも杖を手に取り、後ろの警戒をしてくれた。
滴る水の音が響く。
走り回るような足音が聞こえた。
僅かな風が肌を撫で、僕の神経をすり減らす。
油断したら命を刈り取られる。
そんな状況で、先に動いたのは魔物だった。
「ピギー!」
何かが悲鳴を上げて飛んでくる。
目を向けると、それはスライムだとわかった。
僕は手にしていた剣を振り、向かってくるスライムを切り捨てた。
「ピギャー!!!」
地面を転がり、勢いがなくなると青白い光となってスライムは霧散していく。
そんなスライムに視線を落とし、僕は首を傾げた。
感じていた気配はこいつだったのか?
僕は近づき、屈んで確認しようとした。
その時、アリサさんが叫ぶ。
「カロル君、あれを見て!」
アリサさんの叫び声が放たれた直後、闇の奥から煌めく何かが目に入ってきた。
僕は咄嗟に剣を構えると、同時に燃え盛るような炎が灯った。
「ギギャギャ!!!」
声がした方向を見ると、そこにはゴブリンがいた。
魔法職なのだろうか。
そのゴブリンは杖を持ち、ボロボロのローブをまとっている。
そんなゴブリンは魔法でも唱えているのか、聞き慣れない言葉を口にしていた。
「いけない! バーンストライクを発動しようとしてる!」
一体どんな魔法なのだろうか。
わからないけど、とにかく詠唱を止めたほうがよさそうだ。
僕はそう感じ、詠唱を口にする魔法職のゴブリン――メイジゴブリンを止めようと駆ける。
だが、そんな僕の前に数体のゴブリンが立ち塞がるように現れたのだった。




