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貧乏脱出を掲げて冒険者になったら、女神みたいな魔法使いと出会った ~知恵と工夫で難題クエストを一緒に攻略だ!~  作者: 小日向 ななつ


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4:勇敢な戦士は逃げない

 大男は喉を鳴らし、豪快に酒を流し込む。

 全ての酒を飲み切ると、空になったジョッキをテーブルに叩きつけて大男は立ち上がる。


 大きい。

 重厚な鎧を着ているためか、大男の身体が余計に大きく見えた。

 僕がその大きな身体を見上げていると、大男は「クックッ」と声を漏らし、小刻みに笑った。


「おい、ガキ。戦士ってのはどういうものなのか、このログ様が教えてやる」


 酔っぱらった勢いでか、ログと名乗った大男は妙なことを言い出した。


 すごく嫌な予感がする。

 そう考えていると、ログは唐突に右手を拳に変え、僕に殴りかかってきた。


 顔面に迫る拳。

 それを見て、僕は身体の軸をずらして避けた。


「お?」


 間の抜けた声をログは漏らす。

 勢い余ってか、その大きな身体は前のめりとなり、僕とエレナさんが使っていたテーブルに突っ込んだ。


「きゃあっ」


 エレナさんが悲鳴を上げ、逃げるように立ち上がる。

 僕はというと、酔いで足元がおぼつかないログを見つめながらイスから離れた。


「うぃー、なんで避けやがった。戦士になるんだろ? なら、しっかり攻撃を受けなきゃいけないだろォー!」


 ログは吠える。

 そのまま立ち上がろうとするが、酔いがひどいのか逆にうずくまった。


 何なんだ、こいつ?

 立ち上がったかと思ったらいきなり殴りかかってきたし。

 迷惑にもほどがあるだろ。


 僕がそんな苛立ちを抱いていると、見守っていた周りがひそひそと話し始める。


「ログの奴、また新人に絡んでやがる」

「あー、しかも酒が入ってるよ。あれは厄介だぞ」


 周りからも迷惑がられてるじゃないか。

 というか、この言われようだと相当嫌われてるな。

 なんだかギルドのトラブルメーカーっぽいし、あんまり関わりたくないよ。


 僕がログという男を理解し始めてきたその時、エレナさんが心配して声をかけてくれた。


「カロル君、大丈夫?」

「はい。エレナさんも大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。それよりも――」


 僕とエレナさんは、まだ立ち上がれないログに視線を向けた。

 相当飲んだのか、ヒックヒックとしゃっくりを繰り返している。

 あまりにも足元がおぼつかないためか、立ち上がるどころか起き上がることすらできないでいた。


 これはとんでもなく飲んでいるな。

 というか、なんでここまで飲んだんだ、こいつは?


 そんなことを思っていると、エレナさんがこんなことを促してきた。


「テーブルが壊れちゃったし、移動しよっか?」


 このままここで説明を受けるって訳にはいかない。

 それに、面倒な酔っぱらいの相手なんてしたくないしな。


 僕はそう考え、エレナさんの提案に乗った。


「そうですね。そうしましょうか」


 一刻もここから離れたい。

 そう思って移動しようとした時に、うずくまっていたログが叫んだ。


「どこに行く気だ? クソガキよォー!」

「アンタ、大丈夫か? 飲みすぎてるぞ?」

「あぁ? なんだ、俺が怖いのか? あん!」


 ダメだ、会話が嚙み合ってない。

 どれだけ飲めばこんな状態になるんだ?

 まあいいや、ひとまず適当に相手して流そう。


「はいはい。怖いよ。怖いからどっか行くね」

「んだと! まだ俺の試験に合格してねぇーぞ!」

「今度頼むよ。それじゃあ、ゆっくり楽しんでくれ」


 僕はそう告げて、その場から離れようとした。

 だが、ログから視線を外そうとしたその時だった。

 目の端に、ログが怪しげな笑みを浮かべているのが見えたのだ。


 反射的に僕は後ろへ飛んだ。

 直後、固く握られた拳がハンマーの如く床を叩きつけた。


「うわっ!」


 あまりの衝撃で建物全体が揺れる。

 そのためか足元も不安定になり、立っていられない。


 なんだ、この威力はッ!

 僕はどうにか体勢を保ち、攻撃してきたログに目を向けた。


「俺の、試験は! 始まった、ばかりだ!」


 ログは、僕の身体を吹っ飛ばそうとタックルを仕掛けてきた。

 僕はその攻撃を躱そうと身構えるが、あることに気づく。


「ちょっとログさん! ギルド内でのケンカはご法度だよ!」


 そう、僕の後ろにはエレナさんがいるのだ。

 このまま攻撃を躱せば、エレナさんが危ない。


 それを狙っていたのか、ログは歯を剥き出しにして勝ち誇った笑みを浮かべた。


「行くぞ、クソガキィィ!!!」


 溜めていた力を存分に解き放ったのか、とんでもない速度でログは僕に迫ってくる。

 僕は手を広げ、腰を落とす。

 エレナさんを守るために、ログが仕掛けたタックルを真正面から受け止めた。


「ぐぅぅぅぅッッッ」


 とんでもない威力だ。

 あまりにも痛すぎて、身体の感覚がわからない。


 でも、ギリギリ踏ん張ることができてる。

 できてるけど、タックルの勢いを殺しきれていない。

 このままじゃあエレナさんを巻き込んじゃう。


 それを見てか、ログは挑発じみた言葉をぶつけてきた。


「どうしたどうした! 戦士ならば受け止められるぞ!」


 くそ、勝手なことを言いやがって。


 奥歯を噛み、足に力を込める。

 だが、押し込まれる一方だ。

 ホントにこれはヤバいぞ。


「こん、のぉぉぉぉぉッッッ!!!」


 ええい、もうなるようになれ!


 僕は力の限りを尽くし、突撃してきたログを真上へ放り投げた。

 すると勢い余ってか、ログは天井にぶつかった。

 ものすごい音が響き渡った後、ログは力なく落ちてきた。


 僕は、おそるおそるログの顔を覗き込む。

 背中を打ち付けたのだろうか。それとも落ちた衝撃がヤバかったのだろうか。


 そこには白目を剥き、泡を吹いているログの姿があった。


「あー……」


 仕方がなかったとはいえ、やりすぎてしまった。

 ま、まあ、正当防衛だから咎められないだろう! たぶん……


「カロル君、すごい力持ちなんだね! 私、驚いちゃった!」


 エレナさんはエレナさんで、のんきなことを言っている。

 まあ、無事だったからいっか。


「あはは……たまたまですよ」

「うん! これなら戦士としてやっていけそうだね! よし、じゃあ冒険者登録の手続きをしちゃおう!」


 こうして騒動は終わる。

 見守っていた冒険者達はそれぞれのテーブルへ戻り、談笑や食事を再開する。

 僕を襲ってきたログはというと、誰も関わりたがらないのか放置されていた。


 その光景は、ちょっとかわいそうだったよ。


 何はともあれ、酔っぱらい大男ログを撃退した僕は、冒険者としての第一歩を踏み出したのだった。


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