3:僕が戦士に決めた理由《わけ》
メガネの受付嬢さんに案内され、僕は近くの丸テーブルに着いた。
もうすぐ冒険者になれる!
そう思っていると、メガネの受付嬢さんが「こほんっ」とかわいらしく咳払いをし、ニコッと笑ってから説明をし始めた。
「じゃあ、これから冒険者登録に関するご案内をするね!」
「はいっ」
「あっ! そういえばまだ自己紹介をしてなかったね。
私はエレナ――エレナ・ラージュっていうの。よろしくね!」
「よろしくお願いします。僕はカロルって言います!」
「カロルくんね。これからよろしくね!」
僕の名前を聞いたエレナさんは、気持ちいい笑顔を浮かべた。
そんな笑顔に釣られてか、僕も笑い返す。
とてもいい人だ。
それに頼りがいがありそう。
そう感じていると、エレナさんは丸テーブルの下から何かを取り出した。
なんだろう? パンフレットみたいだけど。
そう思って置かれた紙を見つめていると、エレナさんは口を開いた。
「まず、冒険者はどんな仕事をするか説明するね。といっても、たぶん知っていると思うからおさらいする感じで聞いて」
「わかりました」
僕の返事を聞いたエレナさんは満足そうに頷き、置かれたパンフレットを広げて指し示しながら説明し始めた。
「冒険者のお仕事。それは【未知を開拓】すること。
迷宮攻略するもよし、誰も踏み入れたことのない土地を調査するもよし。
とにかく、人の生活を豊かにし、行動範囲を広げることが大きな目標よ」
つまり、冒険者が頑張ればみんな暮らしやすくなるってことだ。
文明の発展や新しい土地で生活する、なんてことができるようになる。
それだけこの世界には、人が暮らせない場所が多い。
その原因の一端が魔物だ。
僕がそう考えていると、エレナさんは魔物について説明を始める。
「ただ、迷宮攻略でも未開拓地の調査にしても、妨げになるのが魔物だね。凶暴で危険な存在だよ。
冒険者になったら魔物との戦闘は避けられないかな」
冒険者は危険が危険はつきもの。
だからこそ、得られる報酬も大きい。
一発でお金持ちになれる、とまで言われている仕事だ。
でも夢がある分、様々なリスクもある。
その一つが魔物との戦闘なんだ。
これでやっていくと決めた以上、僕の決意は揺るがない。
そう考えていると、エレナさんがパンッ、と手を叩いた。
視線を向けると、エレナさんの表情が真剣なものへ変わっている。
もしかして、いよいよ冒険者登録に関しての説明か。
そう感じ取った僕は息を飲み込み、エレナさんの言葉を待った。
そんな風に真剣に見つめていたからか、エレナさんは「ぷっ」と噴き出した。
「ふふふっ、そんなに見つめないでよ。緊張しちゃうから」
「え? あ、ご、ごめんなさい!」
「いいよいいよ。大切なことなんだし」
エレナさんが朗らかに笑ってくれたおかげか、僕はリラックスができた。
それを確認したエレナさんは「それでは改めて」と気を取り直し、案内をし始めた。
「冒険者登録をする前に、カロル君には職業を選んでもらいます」
「職業?」
「うん。冒険者はね、神様の恩寵を受けるために職業を選ぶんだ。基本となる職業は五つ!
戦士、武闘家、狩人、僧侶、魔法使いってところだね」
へぇー、冒険者ってそういう仕組みになっていたんだ。
僕はてっきり、このまま魔物と戦うものだって思っていたよ。
「あ、もちろん職業を選ばないでそのままって人もいるよ。ただその場合は、神様の恩恵がもらえないからあんまりオススメできないかな」
「そうなんですか。あ、ちなみにその五つってどんな特徴があるんですか?」
「それはこのパンフレットに記載されているから、一緒に確認しよっか」
ということで、僕はエレナさんの説明を受けながら基本職の特徴を確認する。
まずは戦士――力と身の守りの伸びがよく、魔力が伸びにくい職業だ。
魔物の注意を引き、みんなを守る盾役でもある。
ありとあらゆる攻撃に耐え、跳ね返す。
なくてはならない職業である。
僕がパンフレットの説明文を見つめていると、エレナさんが補足説明をしてくれた。
「戦士は防御力が必要な職業だから、装備も重たいものになりやすいんだ。
だから装備の関係でどうしても素早さも落ちちゃう職業でもあるの」
「へぇー。それだけ筋力もつくってことなんですね」
それから武闘家、狩人、僧侶とどんな職業なのか教えてもらった。
そして最後に魔法使い――魔力が伸びやすく、力が伸びにくい職業だ。
攻撃のエキスパートで多くの攻撃魔法を覚え、魔物の大群を一瞬で屠ることができる殲滅力がある。
エレナさんは魔法使いに関してこんな説明する。
「魔法使いはちょっと難しい職業かな。まず、頭がよくないといけないよ」
「どういうことですか?」
「たくさんの知識が必要ってこと。
魔法を覚えるには魔法古書を読まなきゃいけなくて、それに書かれている言語は現代の言葉じゃないんだ。
まあ、レベルアップするだけで魔法は覚えるには覚えるけど、強力な魔法を使いたいなら魔法古書を読まなきゃいけないかな」
「勉強ができないといけないんですね」
「うん。でも、魔法使いとして才能を開花させたらすごいよ!
魔法を使う姿はもう言葉で言い表せないほどカッコいいし!
あ、あと装備できるものは特殊なものが多いから、いろんな強化や補助を受けやすいのが特徴かな」
どれもこれも特徴があり、尖っている。
うーん、どれがいいんだろうか。
迷っちゃうなぁー。
「あっ、そうだ」
そういえばどの職業がスチールアーマーを装備できるんだろうか。
説明を聞いた限りだと、戦士っぽいけど。
よし、エレナさんに試しに聞いてみよう。
「エレナさん、実はどうしても装備したい鎧があるんですが……」
「何々? 何を装備したいの?」
「スチールアーマーです!
ここに来る途中にあったショップで見たんですが、すごくカッコよかったんですよ!
もう、心を撃ち抜かれちゃいましたっ!」
「うんうん」
「それに、スチールアーマーを装備したらお金稼ぎも楽になりそうですし!
たくさん稼いだら仕送りもできそうだしっ!
だから絶対に装備したいんですよ!!!」
僕がスチールアーマーについて熱意を伝えた。
これを手に入れたらお金稼ぎも楽になって、仕送りもたくさんできそうだしね!
そんな熱意を聞いたエレナさんは顎に人差し指を添えて「うーん」と声をこぼしながら一瞬考え、こう言葉をかけてくれた。
「じゃあ、オススメは戦士だね。戦士ならスチールアーマーを装備できるから、これが一番だよ」
やっぱり戦士だった!
よし、それじゃあ戦士にするぞ!
僕がそう決意した瞬間、どこかからか妙な笑い声が聞こえてきた。
振り返ると、近くの丸テーブルにジョッキを片手に持つ大男がいた。
「クククッ。戦士? そんなヒョロヒョロのガキがか?」
その大男は僕を嘲笑う。
そして、気持ちよさそうに酒を口に運んだのだった。




