2:運命的な出会いを星は祝福する
様々な人々が行き交う大通りを駆け抜け、僕は町の中心にやってきた。
そこには赤レンガでできた天を貫くほど高くそびえた塔があった。
他の建物と違い、圧倒的に大きい。
赤レンガでできているためか遠くから見ていても目立つ塔だ。
そんな塔で設立された冒険者ギルド【翔ける星】を見て、僕は感嘆の声を上げた。
「うわぁー、大きい!」
ここでたくさんの冒険者が自分の夢を追って活動している。
その一員に、僕は今日からなるんだ。
「よし、行くぞ!」
胸を膨らませ、巨人が通れそうなほど立派で大きな門をくぐった。
ワクワクしながら塔の中へ足を踏み入れると、翼が生えた星が描かれた垂れ幕が僕の目に飛び込んできた。
あれは確か、このギルドのエンブレムだったな。
そんなことを考え、内部を見渡した。
酒場でも併設されているんだろうか。
数にして五十ぐらい。均等に並べられた丸テーブルで食事をする冒険者達がいた。
お酒を飲んで談笑するグループや、何か真剣に話し合いをしているパーティー、一人で黙々と食べる鉄製の鎧を装備した女性などだ。
そんな冒険者達の注文を聞き、食事を運ぶウェイトレスは忙しそう。
食事場の奥に目を移すと、冒険者ロビーがある。
壁に沿って並ぶように設置された受付口とその近くにはクエストボードがあり、よく見ると冒険者相手に取引をしている商売人らしい人物が目に入った。
「へぇー、これが冒険者ギルドかぁー」
ここで僕の冒険者生活が始まる。
一体どんな冒険が待っているんだろうか。
どんな人と出会うんだろうか。
考えるだけでワクワクする。
僕は明るい未来を考え、また胸を膨らませた。
その未来を叶えるためにも、冒険者登録をしなくちゃね。
よし! それじゃあ、さっそく受付に行こう。
そう思って奥を目指して歩き始める。
ふと、視線を横に向けてみると食事をしている冒険者がまた目に入った。
ここにはたくさん冒険者がいるようで、外で見かけたドワーフやエルフ以外にも食事をしている。
えっと、あの犬耳を生やした女性は獣人族かな?
あ、あのゴツゴツとした不思議な腕を持った男性はなんだ? どんな種族なんだ?
僕は見たことのない人々を見て、つい目移りしてしまう。
そんな風にキョロキョロと見渡していたからだろうか。
僕は誰かとぶつかってしまった。
「きゃあっ」
「おっと」
ぶつかったためか、その人は後ろに倒れかける。
それを見た僕は反射的に手を伸ばし、身体を抱き寄せる。
相手が僕に寄りかかり、体勢を立て直したところを確認してから声をかけた。
「すみません。大丈夫ですか?」
目を向けると、真っ先にキレイな赤髪が目に入ってきた。
背中にかかるほどの長さで、サラサラしている。たぶん触ったら気持ちいいだろうな。
おっと、そんなこと考えてる場合じゃない。
僕は見上げている相手に笑顔を浮かべた。
「ちょっと考えごとをしてて。ケガはありませんか?」
その人は宝石のように輝く赤い瞳で僕を見つめていた。
よく見るとかわいらしい顔をしている。
ちょっと気が強そうだけど、それでもかわいい。
うん、どこからどう見ても女の子だね。
黒いローブで身体を隠しているけど、顔と髪型からしてそう思える。
でもとても小さいな。
背は僕の胸辺りだし。
あれ? なんでこんな小さな子が、この冒険者ギルドにいるんだ?
そう思った瞬間、僕の目に赤い魔石がはめ込まれた杖が目に入ってきた。
これ、確か魔法使いの杖って名前の武器だったな。
あれ? 武器を持っているってことはもしかしてこの子、冒険者なのか?
そのことに気づいた途端、赤髪の少女は「あのっ」と声をかけてきた。
僕は彼女を見て、まだ身体を抱きしめていることに気づいた。
「あ、すみません!」
慌てて僕は赤髪の少女の身体から離れる。
それを見た彼女は、クスクスと笑った。
「ありがとう。私もちょっと考え事をしてて。君も大丈夫?」
「はい、こう見えても頑丈なんで! いや、すみません。前を見てなくて」
「ふふっ。君が身体を抱き寄せてくれたおかげで助かったわ。ありがとっ」
赤髪の少女は朗らかに微笑む。
それはとても素敵な笑顔で、僕はつい見惚れてしまった。
かわいい。
こんなかわいい人、見たことがないよ。
故郷には確実にいない人だ、うん。
そ、そうだ。
せっかくの出会いなんだ。
だから名前ぐらい聞いておこう。
「あ、あのっ」
「どうしたの?」
「よろしければ名前を聞かせていただいてもいいですか!?」
ドキドキとしながら僕は彼女の名前を聞いてみる。
すると、彼女は僕の顔を見つめ、微笑みながら教えてくれた。
「アリサ・ベネットっていうわ。あなたは?」
「か、カロル。カロル・リーファンです!」
僕の名前を聞いた赤髪の少女アリサさんは、目を大きくした。
だけどすぐに顔を綻ばせ、手を叩きながらこんな言葉を口から放った。
「素敵な名前ね! どこから来たの?」
「ラフィーナ村っていうところからです! ここから東にある森の近くにある村です」
「そんな所に村があるの? 初めて知ったわ」
なんだかわからないけど、いろいろと聞いてくれる。
そのおかげか、会話がとても楽しい!
ああ、なんだこの感覚は。
こんな幸せな気持ちは初めてだよ。
そんなことを感じながら僕はアリサさんのことを聞こうとした。
しかしその瞬間、誰かがアリサさんの名前を呼んだ。
「おーい、アリサー。そろそろ行くよー」
「あ、はーい!」
アリサさんは振り返り、改めて僕を見る。
そして、素敵な笑顔を浮かべ、別れを告げた。
「ごめんね。呼ばれちゃったからそろそろ行くわ」
「あ、いえっ。その、頑張ってください!」
「君もね。これから大変だと思うけど、頑張って」
アリサさんは僕に背を向け、奥で待っている仲間達の元へ走っていく。
僕は大きく手を振り、彼女の背中を見送った。
「はぁ〜」
あんなかわいい人がいるなんて。
村から出てみるもんだよ。
さて、思いふけるのはこのぐらいにして、と。
冒険者登録しに行こう!
そう思い、僕は改めて前を見る。
だが、目を疑う光景がそこには出来上がっていた。
「うわぁー……」
さっきまでガラガラだった受付窓口の全てに行列ができていたんだ。
アリサさんと楽しく談笑している間に、人がたくさん並んじゃったみたい。
ギルド出入り口近くまで行列ができてるし、これはさすがに時間がかかりそうだ。
でも、並ばないと順番は来ない。
仕方ない、ここは時間がかかることを覚悟して待とう。
とほほ、と思いながら僕は行列に並ぶ。
しかし、このギルドは大盛況だな。
あっという間に人で溢れかえっているし。
それだけここには冒険者がいるってことなんだろう。
そんなことを考えていると、誰かが声をかけてきた。
「そこの君、ちょっといいかい?」
振り返るとそこには、メガネをかけた女性がいた。
長い青髪をお団子にしてまとめ、素敵な笑顔を浮かべている。
碧眼で、背は僕よりちょっと小さいぐらいだ。
体型を見ると、大きな胸が目に留まった。
引き締まるところは引き締まっているから、たぶんそこそこ鍛えているのかもしれないな。
服装はというと、真夏の青空を彷彿させる紺碧色を基調としたチェック柄のベストと、タイトスカートといったものだ。
たぶん、この人はここの受付嬢をやっている人だろう。
そう思っていると、メガネの受付嬢さんはニンマリと笑ってこんな言葉をかけてきた。
「君、見たことがない顔だね。もしかして冒険者希望の子かな?」
「え? はい、そうですけど……」
「そっかそっか。よかったらあっちの丸テーブルで受付ようか?」
「いいんですか!?」
ラッキー、と思いながら僕はメガネの受付嬢さんの言葉に甘える。
するとメガネの受付嬢さんは「よし、それじゃあ案内するね!」と笑顔で頷いてくれた。
こうして僕は近くの丸テーブルに移動し、メガネの受付嬢さんに様々な説明と冒険者登録の手続きをしてもらうことになった。
だけど、ここは冒険者ギルド。
様々な人間が集まる場所だ。だから当然、いい人もいればガラの悪い輩もいる。
僕はそのことに気づかないまま、声をかけてくれたメガネの受付嬢さんの案内に従い、丸テーブルの席へ着いたのだった。




