12:宿敵《トラウマ》はいつも突然に
「よくそんなこと思いついたね」
僕の作戦内容を聞いたアリサさんは、驚きすぎたせいか反応が薄くなっていた。
どうやら僕は、常識外れのことをやろうとしてるっぽい。
そう感じていると、アリサさんがこう告げて承諾した。
「信じて待ってるわ。だからファイトだよ、カロル君!」
「はいっ」
アリサさんに応援された。
だからなのか、胸の奥がちょっと熱くなる。
おっと、気を緩めちゃダメだ。
この作戦は毒にやられた冒険者達を助けるためにやるんだ。
絶対に成功させる!
僕はそんな想いを抱きながら走り出した。
作戦成功のために僕は来た道を引き返す。
探すのはコボルト。
あいつらならポイズントードに囲まれても、すぐにやられることはないはず。
そう考えながら、辺りを見回す。
だけど、いない。
ここにはコボルトはいない。
さらに奥へ進んでみる。
進んでみたけど、まだ見つけられない。
くそ、時間だけが過ぎていく。
このままじゃあ、作戦どころじゃないぞ。
焦りを募らせつつも、僕はコボルト達を探した。
ふと、何気なく地面に目を向ける。
そこには、犬みたいな足跡があった。
「これって……」
もしかすると――
直感を信じ、僕は足跡を追うと一つの洞窟が目に止まった。
僕は足を止め、耳を澄ましてみる。
「グフフッ」
聞き覚えのある汚い笑い声が、洞窟の奥から聞こえてくる。
見つけた!
確信を持った僕は、慎重に洞窟へと足を踏み入れた。
一歩、また一歩。
物音を立てないように、ゆっくり進む。
ここで鉢合わせたら、作戦どころじゃない。
慎重になりながら僕が洞窟の奥を目指していると、一つの雄叫びが響き渡った。
「ガァアアアァァアアアアアァァァァァ!!!」
おぞましい声に、僕の身体がビクリと跳ねる。
今のは、コボルトの声じゃない。
まさか、他にも魔物がいるのか?
嫌な予感を覚えながら、僕はさらに奥へ進んだ。
だけど、なかなかコボルトは見つからない。
くそ、なんで見つからないんだ。
このままじゃあ、作戦が……
焦りがさらに強くなったその時だった。
「いたっ」
僕は岩陰の向こうで、コボルト達を発見した。
近づいて様子を見てみる。
何やら楽しそうに談笑しているみたいだ。
一体どんな会話をしているんだろうか?
僕には全くわからないけど、見た限りこっちに気づいてなさそうだ。
よし、これなら――
僕はスキル【挑発】の効果が発揮される範囲まで近づく。
あとは、作戦実行するだけ。
そのために必要なのは、僕の勇気と覚悟だ。
強張る身体をほぐすために、僕は深く息を吸った。
そして、静かに息を吐き出しながら、アリサさんと交わした会話を思い返した。
『僕のスキル【挑発】を利用してコボルト達をおびき寄せます。
それで、そのままポイズントードにぶつけるんです。
もしかしたらボスも動くかもしれませんし、そうなったら楽にアイテム回収ができるはずです』
『ええっ!?
確かにできると思うけど……でも、失敗したらカロル君だけでコボルト達の相手をしなきゃいけなくなるわよ?』
『失敗したら全力で逃げますよ』
『そう? 絶対に無茶しないでよ!』
『はい、わかりました! だから信じて待っててください!』
「って、意気込んでたけど……」
いざ作戦実行となると、足が重い。
今すぐここから逃げ出したい気分だ。
……当たり前か。これから命懸けのことをするんだからな。
だけど、このまま逃げ出したくもない。
毒で苦しんでいるみんなを、見捨てたくないんだ。
「勇気を持て、カロル。ここで勇気を出さなきゃ男じゃない」
何度目かの深呼吸。
少し落ちついたところで、僕は両頬を叩いた。
「よしっ」
ここまで来たんだ。
何もせずに帰りたくない。
そう決意した瞬間、コボルト達の談笑が止まった。
「……やるぞ!」
僕は岩陰から飛び出す。
コボルト達が振り向くと同時に、スキル【挑発】を発動した。
「こっちに来い!」
「グルルルゥッ」
「グルゥ!」
コボルト達の目が赤く染まる。
直後、一斉に牙を剥き出しにし、僕を睨みつけた。
よし、成功だ。
後は、ポイズントードの群れに誘導するだけ。
そう思ったその時だった。
「なんだ?」
重たい足音が響く。
洞窟全体が揺れると、コボルト達は後ろへ威嚇を放った。
僕も、視線を洞窟の奥へ向ける。
すると、暗闇の中からとんでもない魔物が姿を現した。
「ガァアァァアアアァァァァァッッッ」
何もかもを圧倒する雄叫び。
洞窟の天井に頭がつきそうなほど大きな身体が、視界に飛び込んでくる。
その頭には立派なツノがあり、手にした大剣でコボルト達を薙ぎ払った。
足元に転がるかつてコボルトだった肉塊。
それはすぐに塵となって空間に溶けていく。
だけど、僕はそれに目を向けられない。
本能が逃げろと叫んでいる。
にも関わらず、身体が動かない。
だから、圧倒的な恐怖から、目が離せないでいた。
「オ、オーガ……!?」
さ、最悪だ。
よりにもよって、このオーガ――【挑発】の効果を受けている!
「ゴォオォオオォォォオオオォォォォォッッッ」
「ひぇぇぇぇぇッッッ」
咆哮を上げただけで、身体が震える。
あんなのと戦うなんて、無理だ。
いや、そんなことよりも――
「なんでこんな所に、オーガがいるんだ!」
僕は絶叫しながら逃げ出した。
でも、オーガは僕を逃がさない。
大きな足音を立て、僕を追いかけてくる。
――逃げられない。
こうして僕は、宿敵との出会いを果たす。
同時に、命懸けの追いかけっこの始まりを告げた。




