11:強い意志が人を動かす
「アリサさん、どうしましょう……」
「うーん、どうしよっか……」
僕達はアイテム採取ができる場所に目をやった。
あちこちから響き渡るゲコゲコという鳴き声。
巨大なポイズントードの群れが大地を埋めつくすほど集まると、それはそれで不気味だ。
「これはすごい誤算だったわ」
「そうですね、まさかポイズントードがこんなにいるなんて……」
「見た限り、ポイズントードは繁殖するために集まっているみたいだわ」
ほら、とアリサさんがとある場所を指す。
視線を向けると、数体のポイズントードが飛び跳ね、頬を膨らませながら一回り大きなポイズントードにアピールをしていた。
あれは一体なんだ?
アリサさんが繁殖するためにって言ってたから、もしかして求愛行動か?
「ポイズントードはああやってメスの気を引いて、番を作るんだ」
「へぇー、そうなんですか」
「でも、たいていのオスは振られちゃうわ」
「世知辛いですね……」
ポイズントードの社会は男に厳しい。
いや、違うか。
何にしても、メスのお眼鏡にかなうように求愛行動を取らないといけないのは、大変だろう。
そんなことを思っていると、アリサさんが渋い顔をしながら腕を組み、口を開いた。
「それにしても、困ったわね。まさかポイズントードの繁殖期と重なるなんて」
「目を盗んでアイテム採取するのはどうですかね?」
「無理かな。私達の目的地にはボスがいるし、取り巻きもたくさん。
あの中に忍び込んで、アオキノコと解毒草を採ってくるのは至難の技ね」
うーん、困った。
戦いを挑んでも数の暴力で負けちゃうし、かといって目を盗むのも難しい。
もっと人手がいればポイズントードを蹴散らせたかもしれないけど、いないものを嘆いても仕方ない。
だとしても、どうすればいいんだろうか。
できるだけ被害を少なく、かつアイテム回収ができる状態にしたいんだけどなぁー。
そんなことを考えていると、アリサさんがポイズントードの群れを見つめながらこんな言葉を発した。
「それにしても、いいなぁー。魔物に出会いの季節があって」
「え?」
「あ、いや。最近、いい人が見つからなくて。それでちょっと、ね……」
ああ、プライベートの話か。
というか、アリサさんって今恋人がいないのかな。
それって、僕にもチャンスがあるってことじゃないか?
もしアリサさんと交際できたら……ああ、幸せだ。
「どうしたの? カロル君」
「はいっ?」
「ボーッとしてたけど、大丈夫? 少し休む?」
「あ、いえ! ちょっと考えごとをしてただけです!!!」
いかんいかんっ。
妄想に浸っている場合じゃない!
どうにかいい方法を見つけて、クエスト達成しなきゃ。
じゃないと、無一文で過ごさなきゃいけなくなるぞ。
しかし、あの大量のポイズントードを退かす方法か。
うーん、さすがに見つからないなぁー。
僕が唸りながら考えていると、アリサさんがガックリと肩を落とし、落ち込んだように息をつきながらこんな決断を下した。
「はぁー、仕方ない。今回は諦めようか」
「え? でも、それは――」
「危険を冒して手に入れる金額じゃないわ。惜しいけど、命を失ったら元も子もないし」
確かにアリサさんの言う通りだ。
でも、もしここでクエスト放棄したらあのパーティーはどうなってしまうのだろうか。
他にも毒にやられた冒険者がいる。
その人達のことを考えたら、ここで投げ出してはいけない。
「いえ、クエスト達成するまでやりましょう。このまま引き下がるなんてできません」
「カロル君、そんなにお金が必要なの?」
「ここに来るまでに、毒にやられたパーティーを見ました。他にも、ポイズントードの毒にやられた冒険者がいます。
その人達のことを考えたら、絶対にこのクエストを達成しないとダメです!」
ここに来るまでに見てきた冒険者達の苦しんでいる姿が脳裏に浮かんだ。
このまま解毒草を手に入れられなかったら、待っている結末は絶望しかない。
だから僕は、アリサさんに頭を下げてお願いをする。
「お願いします! 僕のワガママに付き合ってくださいっ。絶対にこのクエストを達成させたいんです!」
アリサさんは静かに僕を見つめていた。
そして、ゆっくりと近づいて肩に手を置いてくれる。
顔を上げると、優しく微笑んでいるアリサさんがいた。
「わかったわ。そういうことなら、やるしかないわね!」
勇気づけてくれる言葉。
それを受け取った僕は、つい顔を綻ばせてしまった。
そんな僕の顔を見てか、アリサさんがこんな注意をした。
「でもね、カロル君。絶対に無茶はしちゃダメよ。
死んだらおしまい。だから絶対に、いのちだいじに、だからね!」
「わかりました。アリサさん」
僕はアリサさんの言葉を胸に、改めてポイズントードの群れを見た。
大地を覆いつくすほど占領している巨大なカエル。
目的を達成するためには、あいつらを僕達でどうにかしないといけない。
だけど、どうやって?
真正面からぶつかると、ポイズントードの毒の息で僕達もやられる。
だから他にいい方法を考えなきゃ。
でも、どんな方法がある?
考えろ、僕。
考えるんだ、僕。
僕は腕を組みながら、いい方法はないかと考える。
ポイズントードを撃破しなくてもいい。
あそこから蹴散らして、アイテム採取ができるようになればいいんだ。
そのためには何をすればいいだろうか?
僕はあふれ返っているポイズントードの群れを見つめる。
すると、端っこで何やら騒ぎが起きていることに気づく。
「なんだ?」
目を向けると、数体のポイズントードがゴブリンを取り囲んでいた。
迷い込んだのだろうか。
ゴブリンは身を守るために青い顔をしながら威嚇している。
だけど、数で勝るポイズントードがそんなの気にせず飛びかかった。
一体が舌でゴブリンの身体を絡め取る。
ゴブリンは叫びながらも必死に抵抗するが、逃げることができない。
そんなゴブリンを見て、様子を見ていたポイズントードが唾液を吐き出した。
唾液を浴びたゴブリンは、最初は悶えながら叫んでいた。
だけどだんだん声は弱まり、そのうち動かなくなってしまう。
事切れたゴブリンは身体が崩壊し、光となって消えていった。
魔物が魔物を攻撃した?
僕はその光景を見て、大きな引っかかりを覚えた。
だから僕は、引っかかりに関してアリサさんに訊ねてみた。
「アリサさん、ちょっといいですか?」
「どうしたの、カロル君?」
「さっき、迷い込んだゴブリンがいたんですけど、ポイズントードが容赦なく攻撃してたんですよ。
魔物同士なのに、なんでそんなことをしたのか気になりまして」
僕の言葉を聞き、アリサさんは当たり前のようにこう答えてくれた。
「敵だからだよ」
敵?
同じ魔物なのに、敵と認識しているのか?
そんな僕の疑問に答えるように、アリサさんが優しく教えてくれる。
「大迷宮の魔物は基本、他種族を敵と判断するのよ。
ポイズントードのナワバリにゴブリンが迷い込んで、攻撃されたのはそういう理由からだね」
「へぇー。いろんな生態があるんですね」
魔物も普通の動物みたいなことするんだな。
だからポイズントードはナワバリを守るために、ゴブリンを攻撃したのか。
「…………」
いや、待て。感心してる場合じゃない。
これ、使えるぞ。
「どうしたの、カロル君?」
「アリサさん、いいことを思いつきましたよ」
「え? ホントっ!」
アリサさんの顔が輝く。
身を乗り出し、目を輝かせて僕を見つめていた。
「その作戦内容なんですけどね」
「うんうんっ」
僕はアリサさんに協力してもらうために作戦内容を話した。
すると、あまりにもとんでもない内容だったのかアリサさんは、大声でこう告げた。
「ええっ! それはさすがに危険よっ」
心配しながら、アリサさんは僕の顔を見る。
そんなアリサさんを見つめ返しながら、具体的な内容を僕は話した。
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