表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歪んだ宝玉  作者: 氷零熱泉
歪んだ愛
PR
6/9

第六話 謎の商人

森を吹き抜ける風は穏やかだった。

先ほどまで荒れ狂っていた風とはまるで別物だ。

アマルティアは地面に座り込んでいた。

顔色が悪い。

しかし目には正気が戻っている。

「……私は……何を……」

震える声だった。

周囲には切り倒された木々。

風刀によって抉られた地面。

そして崩れた礼拝堂。

その全てが自分の仕業だと理解してしまった。

「落ち着け。」

テルモティアが言う。

「今は話を聞かせろ。」

アマルティアはしばらく俯いていた。

やがて小さく頷く。

「……はい。」

ディエスは歪んだ宝玉を布で包みながら近くに座る。

直接触れていると妙な感覚がするのだ。

「まず聞こう。」

「その宝玉をどこで手に入れた?」

アマルティアは少し考えた。

「三か月ほど前です。」

「市場で商人に会いました。」

「商人?」

ディエスが反応する。

「名前は。」

「アパティス=エンプロス。」

やはりだ。

テルモティアの目が細くなる。

「どんな男だった。」

アマルティアは記憶を辿る。

「不思議な人でした。」

「年齢は分かりません。」

「若く見えたかと思えば老人にも見える。」

「服装も普通なのに妙に印象に残るんです。」

ディエスは眉をひそめた。

そんな人物が本当に存在するのだろうか。

まるで認識を曖昧にする魔術でも使っているようだ。

「その男が宝玉を?」

「はい。」

アマルティアは頷く。

「最初は買うつもりなんてありませんでした。」

「ただ、あまりにも変な形だったので見ていたんです。」

すると、

『あなたにはこれが似合いそうだ』

商人はそう言ったらしい。

「そして?」

「渡されたんです。」

「無料で。」

ディエスとテルモティアが同時に顔をしかめる。

怪しすぎる。

「何か条件は?」

「ありませんでした。」

アマルティアは首を振る。

「ただ……」

「ただ?」

「変なことを言っていました。」

沈黙。

そしてアマルティアは思い出すように呟く。

『感情は宝石になる。』

『愛も。』

『憎しみも。』

『願いも。』

『絶望も。』

風が吹いた。

ディエスの背筋に寒気が走る。

「他には。」

『君は優しい人だ。』

『だからきっと、この子を愛してくれる。』

テルモティアが大きくため息を吐く。

「最初から狙われていたな。」

「ええ。」

ディエスも同意する。

アマルティアの性格。

責任感。

善良さ。

保護欲。

全て見抜かれていた。

だから選ばれた。

宝玉の宿主として。

「……申し訳ありません。」

アマルティアが頭を下げる。

「私のせいで……」

「違う。」

テルモティアが遮る。

「お前が弱かったわけではない。」

「むしろ強かった。」

アマルティアが顔を上げる。

「え……?」

「普通ならもっと早く壊れていた。」

テルモティアは真剣だった。

「三か月も耐えたんだ。」

「精霊神でも嫌な代物だぞ。」

アマルティアは目を見開く。

そんな風に言われるとは思っていなかったのだろう。

ディエスも頷いた。

「実際、私も触れた瞬間に引き込まれそうになりました。」

「だから気にしないでください。」

しばらく沈黙が流れる。

その時だった。

テルモティアがふと立ち上がる。

「どうしました?」

ディエスが尋ねる。

炎の精霊神は森の奥を見つめていた。

「……誰かいる。」

空気が変わる。

ディエスも立ち上がる。

気配。

確かにある。

ほんの僅かだが。

誰かがこちらを見ている。

「出てこい。」

テルモティアの声が響く。

森が静まり返る。

返事はない。

しかし、

次の瞬間。

どこからともなく声が聞こえた。

「いやいや。」

「さすが精霊神。」

「勘が鋭い。」

ディエスが振り向く。

誰もいない。

だが声だけが響く。

「誰だ!」

「ただの商人ですよ。」

クスクスと笑う声。

聞いたことのない声なのに。

なぜか不快だった。

「アパティスか。」

テルモティアが言う。

少し間があった。

そして、

「おや。」

「名前を覚えていただけましたか。」

愉快そうな声。

ディエスの手が剣へ伸びる。

「姿を見せろ。」

「それは遠慮しておきましょう。」

「今日は挨拶だけです。」

声が笑う。

「商品は気に入っていただけましたか?」

ディエスの眉が吊り上がる。

「商品だと?」

「もちろん。」

「感情は美しい。」

「だから私は集めているのです。」

テルモティアの表情が険しくなる。

「何者だ。」

初めて精霊神が問いかけた。

声が少しだけ楽しそうになる。

「さて。」

「何者でしょうね。」

風が吹く。

森がざわめく。

そして、

「またお会いしましょう。」

「炎の精霊神。」

「そしてディエス=アポトス。」

ディエスは驚く。

なぜ自分の名を知っているのか。

その疑問を抱く間もなく。

気配が消えた。

完全に。

まるで最初から存在しなかったかのように。

森には静寂だけが残る。

テルモティアはしばらく黙っていた。

やがて。

「厄介な相手だな。」

低く呟く。

ディエスも同感だった。

あの商人は危険だ。

理由は説明できない。

だが、

あの宝玉以上に。

不気味だった。

そして布に包まれた歪んだ宝玉は。

誰にも気づかれないように。

かすかに脈打っていた。

ドクン。

まるで、

まだ終わっていないと告げるかのように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ