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歪んだ宝玉  作者: 氷零熱泉
歪んだ愛
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第三話 北の森

役所を出たディエスとテルモティアは、そのまま北門へ向かった。

アウレリアの北側には広大な森が広がっている。

正式名称は「アルボルの森」

古代から存在する森林であり、アウレリアのはるか東に位置する大山脈「アルボルン山脈」まで続く大森林だ。

アルボルン山脈は遥か遠くだが、その大きさからアウレリアからも見ることができる。

薬草採取や木材調達のために人が入ることはあるものの、深部まで入る者は少ない。

古い遺跡や魔物の生息地が点在しているからだ。

北門の門番に話を聞く。

「アマルティア殿ですか?」

門番はすぐに反応した。

どうやら有名らしい。

「毎日のように通ってますよ」

「やはりか」

テルモティアが呟く。

「何をしに行っているか知っているか?」

門番は首を振った。

「わかりません」

「ですが最近は変です」

またその言葉だ。

”変”

”異常”

”別人”

全員が同じような印象を抱いている。

「どんな風にだ?」

ディエスが尋ねる。

門番は少し考えた。

「最初は普通でした」

「でも最近は⋯⋯」

言葉を探している。

そしてようやく口を開いた。

「何かを守っているみたいなんです」

ディエスとテルモティアが顔を見合わせる。

”守る”

またその言葉だった。

「森の中の何かを?」

「たぶん」

門番は頷く。

「以前は森へ入る人に挨拶していたんですがね」

「最近は近づく人を帰そうとするんです」

テルモティアの眉が僅かに動く。

「帰そうとする?」

「ええ」


『危険だから』

『近づかない方がいい』

『これは君たちを守るためだ』


門番はアマルティアの口調を真似する。

「そんなことばかり言っていました」

ディエスは静かに記録する。

明らかに何かがある。

そしてそれは森の中だ

「ありがとう」

テルモティアが言う。

「助かった」

二人は北門を抜けた。

森の空気は街とは違う。

木々の匂い。

土の匂い。

鳥たちの鳴き声。

風が葉を揺らす音。

自然そのものだ。

だが、何かが引っかかる。

ディエスは立ち止まった。

「どうした?」

テルモティアが聞く。

「・・・静かすぎます」

炎の精霊神も耳を澄ませる。

確かに。

森は静かだ。

だが自然な静けさではない。

どこか抑えつけられたような静寂。

風が吹いている。

鳥もいる。

なのに落ち着かない。

「嫌な感じですね」

ディエスが呟く。

テルモティアも同意した。

精霊神として長く生きてきた勘が”これは自然ではない”と告げている。

何かの影響だ。

そのときだった。

「こっちです」

ディエスが地面を指差すと、

何度も往復したような足跡が目に映る。

しかも最近のものだ。

「アマルティアでしょうか」

「可能性は高い」

テルモティアは頷く。

二人は足跡を追う。

森の奥へ、

さらに奥へ……

そして、10分ほど歩いた頃だった。

木々が開けると、小さな空間があり、そこには古びた石造りの建物があった。

崩れかけた礼拝堂……

始祖時代の遺跡だ。

ディエスは周囲を見渡す。

最近人が出入りした痕跡がある。

足跡と、焚き火の跡。

そして、入口近くの石段に座る人影。

「⋯⋯いた」

アマルティア=アガピトス。

間違いなかった。

整った身なり。

役人の制服だ。

しかし、

その目はどこか虚ろだった。

両手で何かを大切そうに抱えている。

ディエスは目を凝らした。

小さな物体。

歪な形で、透明なようで透明ではないガラス玉のようで、宝石のような……

だがどちらとも言えない異様な物体だった。

そして、

アマルティアはそれに向かって話しかけていた。

「大丈夫だ」

「私が守る」

「誰にも奪わせない」

「君は安全だ」

ディエスの背筋に冷たいものが走る。

目の前の男は我々に話しかけているのではない。

人に話しかけているのでもない。

宝玉に話しかけている。

まるでそれが生きているかのように。

テルモティアも険しい顔になった。

「かなり深いな」

その声に、アマルティアが顔を上げた。

そして二人を見つけると、一瞬だけ、

ほんの一瞬、

昔の彼が戻ったように見えた。

「テルモティア様・・・?」

だが次の瞬間、彼は慌てて宝玉を胸に抱き寄せた。

「来るな!」

森に怒声が響く。

ディエスもテルモティアも立ち止まる。

「アマルティア」

テルモティアが静かに呼ぶ。

「話を聞かせてくれ」

「駄目です!」

即答だった。

「誰にも渡しません!」

その瞳には焦りが宿っている。

恐怖、執着、

そして、少し歪な愛情のようなもの……

「これは私が守らなければならないんです!」

風が吹く。

いや違う、

吹いたのではない。

集まったのだ。

アマルティアの周囲へ。

風属性魔力……

そして、

彼の背後に巨大な光翼が現れる。

ディエスの表情が引き締まった。

始天使の守り(ヴェーリエ)…⋯!」

上級防御スキル

さらに、アマルティアの右手に風が集まる。

圧縮、凝縮し、刃へと変化する。

「風刀」

風属性攻撃スキル。

本気だ。

アマルティアは本気で守るつもりだ。

たとえ相手が精霊神であっても。

テルモティアは小さく息を吐く。

「さて」

炎が指先に灯る。

「少々面倒なことになったな」

ディエスも腰の武器に手をかける。

戦闘は避けたい。

だが、もう避けられそうになかった。


歪な宝玉は、まるで笑っているかのように静かに光を放っていた。

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