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第5話 嘘つきは一人だけ

四人で情報を突き合わせていると、扉が開く音がした。顔を向けると、別室に入っていた三人が戻ってくる。

席についた弁護士の視線を追うと、卓上の砂時計が目に入った。


もう半分以上が落ちている。思ったより早い。のんびり腹の探り合いだけをしていられる時間ではなかった。


弁護士が咳ばらいをし、一度、全員に視線を送る。


「皆さん聞いてください。結論から言います。今回、陣営を隠す意味が薄い」


陣営を開示する、その場の空気がわずかに張る。


「通常人狼ゲームは多数決で勝敗が決するゲームだからこそ狼は姿を隠さないといけない。でも今回は違うんです。

異世界での接触、協力が鍵になる。だからこそ陣営を整理しませんか」


SEは胡乱な目を向け、ダンサーはどこか上の空で、話よりも別のことに気を取られているようだった。

秘書だけはすがるような目で弁護士を見ていた。


弁護士は砂時計を指さしながら言った。


「もう時間がありません。皆さんは言いずらいと思いますので、まず僕から陣営を開示します。」


そこまで言うと、ためらうように黙り込んだ。

「…僕は狼陣営です」


秘書の顔があからさまに強張った。見ている分には面白いがさすがにストレートすぎないか?


弁護士は嘘をついている。やり方は拙いが僕と同じように狼を吊り上げる気だ。その告白に押されるように、医者と警察官が続いた。


「……私は人間陣営です」


「俺も人間側だ」


それにつられるように、秘書が間髪入れず手を挙げる。


「よかった、私も人間陣営です」


ダンサーだけが一拍遅れた。ぼんやりしたまま視線を彷徨わせていたが、場の空気に気づいたのか、皆の目が自分に向いたところで、ようやく肩を揺らす。


「あ、同じく人間でーす」


「俺も介護士も人間陣営だ」


SEが面倒くさそうに答え、僕も首を縦に振る。


「狼は私だけですか。さすがに私だけ狼だとばれると不利なんですが……他にもいるなら、名乗ってもらえませんか」


弁護士は困ったように周囲を見回す。 かなり白々しい。ここまで来て本気で同類の名乗りを期待しているはずがない。誰も手を挙げないまま沈黙が落ちる。それを眺めながら、SEがつまらなそうに言った。


「冷静に考えれば無茶苦茶だ。情報開示はあきらかに狼が不利だろう。

時間を制限し、焦らせ、考える暇を削れば人は案外飲む。面白い手ではあったがな。弁護士は表向きで、本当は詐欺師か何かか?」


「あれ?駄目でしたか?警察官さんに詐欺の手口を聞いて、使えそうなものを真似てみたんですが。残念です」


弁護士は悪びれもせずに言った。

別室で三人固まっていたのは、その相談だったらしい。だが、仕掛けた罠に食いつく者はいなかった。


「もちろん僕も人間陣営です。全員人間でしたね。これにてハッピーエンド?」

弁護士がおどけるが、冗談にもなっていない。


「普通に考えれば、そっちの三人の中に狼がいるんじゃないか?」


SEがわずかに煽るような調子で投げる。視線の先には、弁護士たち三人。


「それを言うなら、SEは手口を知っていただろう。なら、お前も怪しい」


警察官が疑い深そうにSEを睨みつける。

こいつは本当に変わらない。余計な一言で火種を投げ込み、きっちり場を荒らす。


「いや、やり方自体は悪くなかったと思いますよ。少なくとも、試す価値はあった」


二人の間に割って入るように言う。警察官の視線がこちらへ移ったのを見て、そのまま話をずらした。


「それと、こっちで出た情報も共有しておきます。俺たち四人は全員ホーン王国にいる。たぶん、そちらの三人も同じじゃないですか?」


「なるほど。確かに私もホーン王国に居ます」


医者が静かに答え、警察官と弁護士も小さく頷いた。

偶然にしては出来すぎている。少なくとも参加者の配置には、何かしら意図があるらしい。


「もう少し情報を共有したいですけど、あまり時間がありませんね」


医者の言葉に砂時計を見ると砂はもうほとんど残っていなかった。


「あー戻りたくないな」

ダンサーは机に顔を付け、今までの軽さが嘘のように重たい声が響いた。


僕も同感だった。だからというより、戻る前に食べられるものは食べておきたくて、会議室の端に置かれた軽食へ目をやる。サンドイッチにおにぎり、お菓子も少しある。向こうに戻れば甘いものはそうそう口にできない。


「せっかくだから。戻る前に何か食べとこ」


そう言って輪を離れると、背後からSEの呆れた声が飛んだ。


「自由すぎるだろ」


その声の後、後ろからかつかつとハイヒールの音が聞こえる。僕以外にも、席を立った人がいるらしい。

用意された軽食の種類が多く、何を食べるか迷っていると、やおら手首を掴まれる。強い力ではなかったが、ためらいもないようだった。


視界の端に、タイトスカートの裾と見覚えのあるヒールがかすめた。


振り向く間もなく、そのまま小部屋へ引き込まれる。扉が静かに閉まり、外の気配が遠のいた。

秘書がまっすぐ僕を見た。顔が近い。


「介護士さん、私はウェンベの騎士アスカです。あなたのこと信用します。協力しましょう」


一瞬、言葉に詰まる。今までの挙動と発言、この情報開示を見るに、秘書は人間側で間違いない。


「ごめんなさい…僕が騎士っていうのは嘘なんです」


「え? 嘘?」


秘書が目を見開いた、その瞬間だった。僕たちの身体が淡い光に包まれ始める。


「ただ、僕も人間側です。都市マクリアの盗賊…」


そこまでだった。言葉の途中で視界が白く滲み、足元の感触が遠のいていく。


薄れていく意識の中で、最後まで引っかかっていたのは、弁護士以外に嘘の臭いがしなかったことだった。


弁護士の嘘は穴だらけだった。ああいう力押しの嘘は分かりやすい。

けれど、それ以外の参加者には視線の揺れも、言葉の濁りも、間の乱れもない。全員が正直だったとは思えないのに、嘘だけが見当たらなかった。


狼がよほど嘘に慣れているのか。それとも、僕の知らない何かがあるのか。

どちらにせよ、想定していたよりずっと面倒くさい。


そんな考えがよぎったところで、光が強くなる。嫌な予感だけを胸に残したまま、意識は沈んでいった。


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