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第4話 密談の扉

SEの一言で、場の空気が明確に崩れた。

誰もすぐには答えない。だが、視線だけは動く。互いに探るように、わずかに、しかし確実に。


そのざわつきの中で、場違いなくらい明るい声が割って入る。


「司会者さん質問! 参加したくない、って言ったらどうなるのかな~?」


空気が一瞬だけ止まった。


口を開いたのは、ダンサーの札を前に置いた若い女性だった。短いスカートに腹の見える服、明るく染めた髪。正直苦手なタイプだ。

軽い言葉遣いもこの女のアイデンティティなのだろうか。


「いませんよ、そんな方は」

司会者が薄く笑う。

「ここに来た時点で、皆様は生を選んでいます。今さら降りる理由が、どこにあるんです?」


その言葉に、ダンサーの女性からさっきまでの軽さが消えた。目だけが鋭く細まり、司会者をまっすぐ見返している。


「そっかぁ。じゃあ、みんな必死ってことだ」


ふっと、また軽い調子が戻る。だが今の一瞬を見れば、あれが地なのか演技なのかは分からない。この人も何か隠している。


「ええ、その通りです」


司会者がすっと手を上げ、部屋の後方を示した。


「後ろに扉が二つあるのが見えると思います。あちらの小部屋は密談に使っていただけます。ただし、一度に入室できるのは三名まで。破った場合はペナルティを受けてもらいます」


振り返ると、部屋の奥には、左右に並んだ扉が二つあった。片方には7人の人の絵が描かれており、そのうち1人は黒く塗りつぶされている。もう片方には何も書かれていない。どちらも同じ密談部屋だというのに、片方だけに印があるのが妙に気になった。


「後ろに、軽食と飲み物を用意しております。ご自由にお楽しみください。」


そこで司会者は口を閉ざした。

沈黙が場をじわじわと支配していく。誰もすぐには動かない。誰に話しかけるか、その一歩で立場が決まる。

下手に声をかければ、意図を読まれる。そんな空気があった。


僕もすぐに動く気にはなれなかった。一言目を発した瞬間、それだけで値踏みされる。なら、最初は様子を見る。誰が先に仕掛け、誰が応じ、誰が黙るのか。そこからでも遅くはない。


沈黙を破ったのは弁護士だった。


「……まずは、使ってみませんか。その部屋」


眼鏡の奥の目を周囲へ巡らせ、それから警察官を見る。


「警察官さん。あなたと、あと一人。三人までなら、情報の整理もしやすいでしょう?」


最後に、弁護士は一瞬だけ医者へ視線を向けた。三人目はお前だ、とでも言いたげだった。いきなり密談か。


「……かまわん」


ここまでほとんど口を開かなかった強面の男が、短く答える。少し遅れて、医者が席を立った。

三人はそのまま、人の印が描かれた扉へ向かっていった。


「馬鹿だな……」


SEがぼそりと呟く。こいつは昔からこうだ。言葉が足りないくせに、肝心なところだけ妙に核心を突く。毎回それで誤解されているのに…


「何が馬鹿なんですか?」


白いシャツにタイトなスカートを身に着けた若い女、秘書が聞き返す。


「三人で部屋にこもれば、こっちは四人残る」


SEは扉の方を見たまま言う。


「残った側でも少人数で話ができる。密談するなら二人がベストだ。……まあ、初手でこもる意味は薄いが」


その言葉を受けて、秘書が小さく首を傾げた。


「では、こちらも少し情報交換といきますか?」


「クラスぐらいなら開示してもいいだろう。俺はサモナーだ」


淀みのない声だった。だが、答えが早すぎる。考えて出したというより、最初から用意していた札をそのまま切ったように聞こえた。


エリックは、人の嘘を見抜くのが得意だった。相手が何を隠しているかまでは分からなくても、嘘をつく時の反応はかなりの精度で見分けられる。


今のSEの声には、秘密を明かす時の迷いが薄い。隠し事の有無までは断じきれないが、少なくとも本音をそのまま出している響きではなかった。なぜわざわざクラスを隠す?


「私はナイトです。前に出て戦うのは怖いから嫌なんですが……」


顔をしかめた秘書が続く。こちらには不自然さがない。警戒はしているが、それは隠し事をしている人間の硬さではなく、見知らぬ相手に自分の秘密を見せる時のためらいに近かった。


「わかるー。私はモンクだったよ」


ダンサーは気楽そうに話を合わせた。だが、その軽さが妙に鼻についた。場に合わせて崩しているだけで、言葉の奥が見えない。警戒を隠すためにわざと緩く振る舞っているようにも見える。少なくとも、こいつも見たままをそのまま口にしている感じではなかった。


秘書はともかく、SEとダンサーの二人は怪しい。警戒して情報を伏せているのか、あるいは狼陣営にはそもそもクラスがないのかもしれない。


「僕はローグでした」


ここで嘘を重ねても利は薄い。そう判断して、自分のクラスをそのまま口にした。


「魔法職が一人もいないのは厳しいですね。これじゃ狼相手に前で殴り合うしかない」


「あっちの三人にいるんじゃない?賢そうな人ばっかじゃん」


ダンサーは肩をすくめるように言った。たしかに、魔術師やプリーストが向こうにいるなら話は変わる。戦力としても、人間側なら押さえておきたい。


「住んでいる国ぐらいは確認してもいいかもしれんな。そのレベルなら個人は割れんだろう。俺はホーン王国だ」


「同じくホーン王国です」


SEの提案に秘書がすぐに答える。ダンサーも小さくうなずき、僕も否定しなかった。

全員が同じ国。偶然にしてはできすぎている。少なくとも、この場の参加者はある程度近い位置に固められているらしい。


これ以上無理に情報を探っても真実は分からない。後の展開を考え、狼陣営にエサを投げておくことにしよう。


「僕はこの中に狼はいないと思うので、もう少し情報を出してもいいですよ。ミッシェの町の騎士、ドノバンです」


「あんた、さっきローグって言ったじゃん。怪しいよ」


案の定、ダンサーがすぐに噛みついた。SEは僕を見て、わずかに目を細める。


「表向きは騎士、裏では斥候か密偵か。そういう話なら通るな。」


相変わらず、こいつは目の前の整合性より先に意図を見ようとする。


「信じるか信じないかはおまかせしますよ。騎士はそれなりに安全ですからね。ここで情報を公開しても、そうは困らない。どうせ人間側は結託しないと勝てないでしょ」


「ドノバンさん?」


秘書は期待をにじませた目でこちらを見た。騎士という肩書に反応した、とも取れる。だが、その食いつき方は肩書より名前のほうに向いているように見えた。


ダンサーはまだ露骨に疑いを隠していない。

SEはそれ以上口を挟まなかった。呆れたのか、あえて乗らなかったのかは分からない。ただ、少なくとも僕の意図だけは拾った顔をしていた。

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