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第28話 血塗れの騎士たち

翌朝、僕たちは三人でミッシエの街へ向けて出発した。


「この街道、安全なの?」


「当たり前だろ。俺たちが襲ってた側だ。ここら一帯はたいしたモンスターもいないからな」


まぁ、変なところに入らない限りは、だが。


「へー。一番危ないのは盗賊だったってわけね」


「結果的に、俺たちのおかげで商会を取り返せるかもしれないんだろ?」


「まぁ、そうだけど。なんか騙されてる気がする……」


街道は拍子抜けするほど平和だった。

野営を一度挟み、二日目の夕方。僕たちは無事、ミッシエの街へ辿り着いた。


「久しぶりに来ましたが、やはり活気がありますな」


城門を抜けると、石造りの建物が並び、人々が忙しそうに行き交っていた。

荷馬車の列も絶えず、交易都市らしい賑わいを見せている。


ミッシエの街は、僕たちの住む里とは比べものにならないほど大きかった。


「とりあえず、商会の下見に行きますかな?」


商会の状況も気になる。だが、今は他に優先すべきことがあった。


「まずは安全確保が先だ。盗賊狩りの噂を確かめたい」


この世界の噂話は当てにならない。

大蜥蜴を倒した戦士はドラゴンキラーと呼ばれ、新しい魔法を作った魔法使いは大魔導師に祭り上げられる。


ミレーヌの情報だから完全なデマではないだろう。

だが、鵜呑みにするつもりもなかった。


「なるほど。時間も時間ですし、酒場に行きますか?」


「あぁ。宿だけ確保して、今日は情報収集だ。商会は明日からでいい」


ソフィアも特に反対しなかったので、僕たちは安宿を二部屋確保する。


「いやぁ、久しぶりの街ですな。酒も食い物も楽しみです。どこにします? 歌うカラス亭? それとも燃える木馬亭なども」


「どっちも聞いたことないよ。私、美味しいお店ならいっぱい知ってるんだから。


最近だと『銀鱗亭』ってお店のお魚料理が評判なんだよね。そっちにしない?」


ソフィアは胸を張る。確かに料理は美味いのかもしれない。


だが、僕たちが欲しいのは酒ではなく情報だ。

普通の客が集まる店で噂話は聞けても、裏の話までは拾えない。


「却下だ。燃える木馬亭に行く」


「えぇっ!?」


「ということは、爆弾グラタンに溶岩焼きですかな。いやぁ、楽しみだ」


ご機嫌なルドガーとは正反対に、ソフィアは頬を膨らませていた。


「私の方が最近のお店、詳しいのに……」


まぁ、後で機嫌を取ればいい。今は情報の方が優先だ。

人で溢れる繁華街に入る。


夕刻だが、すでに仕事を終えて酒を飲み、陽気に歌う者もいれば、言い争いをしている者もいる。

立ち並ぶ店を横目に、僕たちは繁華街の奥へ進んでいく。賑わいは次第に薄れ、酔客たちの笑い声も遠ざかっていった。


この辺りに来るのも久しぶりだ。


「ちょっと、エリックさん。こんな所にお店あるの? どんどん人が少なくなってるよ」


ソフィアの呼びかけには答えず、路地裏へ入る。


ここだ。


看板には、木馬が火だるまになっている絵が描かれていた。

扉を押すと、ギィ、と嫌な音がした。薄暗い店内は、意外にも客が多かった。


「お客さん、ここは会員制です。会員でない場合は紹介が必要です」


カウンターの奥から、強面の店主が声をかけてくる。


隣でソフィアの肩がぴくりと震えた。


「すいません、間違えました」


踵を返そうとするソフィアを押し留める。


「間違えてない。エリックとルドガーだ。覚えてないか?」


店主は俺の顔をじっと見つめる。

数秒の沈黙。やがて表情を緩めた。


「あんたらか。久しぶりだな。空いてるところに適当に座ってくれ」


どうやら覚えていてくれたらしい。お前なんか知らんと言われたらどうしようかと、内心ひやひやしていたのは内緒だ。

席に着く。


「エール二つ。この娘には果実酒を出してやってくれ」


「あと、いつものやつを頼む。摘めるものも適当に頼むぞ」


俺が飲み物を注文すると、ルドガーが慣れた様子で料理を追加する。


「はいはい、わかりました」


店主が奥へ引っ込むと、ほどなくして酒と料理が運ばれてきた。

串焼きにフライ、燻製肉。どれも酒に合いそうなものばかりだ。


「それで、今日は何かあったのか?」


「盗賊狩りの噂を聞きたい」


店主は少し考え込むと、無言で指を三本立てた。


思ったより高いな……。


銀貨を三枚握らせると、僕だけ奥の部屋に案内された。


「どうやら盗賊を殺さず、生け取りにしているらしい。まだミッシエは静かだが、昨日、騎士団が入ってきた。騒がしくなるのも時間の問題だな」


「殺さずに、か」


手荒な方法だが、プレイヤーを探しているのか。殺されないのは、僕にとって朗報ではある。


「ほら、領主が結婚するだろ。嫁を迎え入れる前に治安維持してるって話だ」


「迷惑な話だ」


「ははっ、まったく。今はこの情報が高く売れるから儲かってるが、そのうち客がいなくなっちまう」


「誰が指揮を取っている?」


「副団長のアリス卿って聞いたな。大物が動いている。面倒なこった」


アリス。


秘書が現世で、僕に名乗った名前。このタイミングで、その名が出るか。


ビンゴだ。


「助かった。しばらく滞在する。また頼む」


「毎度」


席に戻ると、ルドガーとソフィアはすでにベロベロに酔っ払っていた。


「エリックさん、もう一軒行きましょう」


「私、眠い……」


今日は二人とも、もう役に立たなさそうだ。だが、収穫はあった。


片や解散した盗賊団の頭領。

片や騎士団副団長。


不公平にもほどがある。アリスには直接会って真意を問いただす必要がある。


本当に人間サイドなら、連携すればいい。

だが、狼サイドだった場合、僕は里に戻ることすらできないかもしれない。


これは大きな賭けになる。逃げることはできない。

それが、どれだけ危険だろうとも。


ルドガーを立たせ、ソフィアを担ぎ店を出る。繁華街はまだまだ賑わっている。この喧騒が少し気持ちいい。


その時、路地裏から何かが壊れる音が響いた。


酔っぱらいの喧嘩か?何気なく視線を向ける。


路地裏から現れたのは騎士たちだった。

騎士団の紋章を刻んだ鎧。見間違えるはずもない。


その鎧は真っ赤に染まっている。

先頭の騎士が、何かを引きずっていた。人間の腕に見えた。


おいおい。盗賊狩りは穏便に進んでいるんじゃなかったのか?

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