第27話 留守を預かる者たち
家に戻るとアンドンとイザベルが僕の代わりに仕事をしていた。
相談に来た人の話を親身に聞いているイザベルに、その話に結論を出すアンドン。
意外といい組み合わせかもしれない。
「すまん、事情があって、明日からルドガーと遠征する。アンドン留守頼むぞ」
アンドンはそれを聞くと露骨に顔をしかめた。
「聞いてない…急展開過ぎませんか…」
「俺がいない間、揉め事はお前が受けろ。判断に迷ったらイザベルに聞け」
「僕、完全に巻き込まれてません?」
「金はイザベルが見る。お前は外向きの揉め事だけ処理しろ」
「役割分担が雑すぎません?」
「雑でも回ればいい」
僕がアンドンの立場でもいきなり、問題だらけの里の運営をまかされるなんて嫌だ。
しかし立場は人を作るとも言うしな。アンドンなら大丈夫だろ。
「イザベル、アンドンのフォロー頼むぞ」
「はい、わかりました。お留守はおまかせください」
イザベルはわかっているのかわかっていないのか、即答してくれる。何か土産でも見繕って買ってこよう。
「しかし、エリックさん、油断しすぎでは?」
「油断?」
「だってそうでしょう?僕はエリックさんの手下になり下がった覚えはないですよ。
ここで僕が裏切ったらどうするんです?ほらイザベルさんを人質にしたり、ルドガーさんの家族を狙ったら?」
まだわかっていないようだが、アンドンは勘違いしている。
「翌日にはアンドンが死体に変わっているだろうな…」
「えっ?怖いんですが…」
「この里には俺とルドガーしかいないわけじゃないぞ?
オルグの時は調整できなかったから、アンドンをつれていったが、今回は大丈夫だ」
「これ以上は聞きません…」
渋々納得してくれたようで、助かった。
「イザベルにある程度金を渡しておくから、必要なら使ってくれ」
「あー、今日はもうやる気なくなったんで、僕は帰ります」
「『崩れ牙』攻めの報酬もみんなに配っといてくれ」
うなだれてアンドンは帰宅していった。
イザベルが、ソフィアの方を訝しげそうに見つめる。
「そちらのかたは?」
「商会のソフィアだ、今日はうちに泊めるから客間を用意しておいてくれ」
「はい…わかりました」
返事は丁寧だったが、声が少しだけ冷たい。
ソフィアはそれに気づいたのか、にこにこと笑っている。
その後僕とソフィアは旅支度。イザベルは食事の準備を始めたようだ。
各々分かれて作業をしていると、あっという間に夜半になってしまった。
イザベルが呼びに来て、3人で食事を囲む。
「イザベルちゃん、可愛いよね。、エリックさんのお嫁さん候補?」
イザベルが顔を伏せ、恥ずかしそうにしている。
「いえ、使用人として働かせてもらってます」
「料理もおいしいし、いいお嫁さんになりそう」
「普段はもっと味気ないのですが、今日はソフィアさんがいらっしゃたので」
イザベルが完全に懐柔されてる。
俺は少し邪魔かもしれない。食事を終え早めに席を立つ。
「食事が終わったら、客間に案内してやってくれ」
「はい、明日はお早いと思うので、私も早めに休もうと思います」
正直そこまで広くないので、案内するほどでもないのだが、つい恰好を付けてしまう。
「俺は寝室にいるからな、後は頼む」
「イザベルちゃん、今日一緒に寝ない?いいでしょ?」
イザベルには同年代の友達もいなかったし、丁度いいかもしれない。
好きにしろと、イザベルに対し、身振りで示すと、食堂を後にした。
部屋に戻って明日の準備をし終わると、イザベルとソフィアが隣の客間に移動してきた気配がする。
もう寝てしまおうかと思っていたところ、隣から声が聞こえる。
「エリックさんってどんな人なの?」
「…冷たいですけど、優しい人です」
結局イザベルは、ソフィアと同じ部屋で眠ることにしたようだ。
普段客が泊まらないので、気づかなかったが、僕が思っていたより声が筒抜けだった。特に悪いことをした覚えはないが、声を殺して布団に潜り込む。
「えっ?盗賊に襲われていたイザベルちゃんを、エリックさんが助けたの?」
「私は行くところがなかったので、そのままご主人様に雇っていただきました」
襲撃の際になくした両親のことを思い出したのか、すこし声が沈むイザベル。
「ええ、恰好よすぎ。正義の味方ってこと?」
「ご主人様も盗賊です。でも私は、助けていただきました」
なぜその時エリックが、イザベルを商品にしなかったのか、それがわかる僕は少し心が温かくなった。
「雇っていただいた後も、話すことはあまりなかったのですが、最近はやさしくて…」
「へぇ、最近態度変わったんだ」
何かを探るような声色になるソフィア。
プレイヤーは白い部屋から戻ったタイミングから、態度や行動が変わっている可能性がある。
ソフィアのその態度は、僕に、プレイヤーを想起させるには十分だった。
しばらくすると、隣の部屋からの声は止み、僕も眠りへと沈んでいった。




