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第25話 商人と盗賊の契約

ソフィアを牢から出し、空いていた部屋に移した。

手首の縄は解いたが、完全に自由にしたわけではない。扉の外には見張りを立たせている。


今後どう動くかを決める必要があった。


「まず、ここから近いのが、農業都市マクリアだよね。私の商会があるのが商業都市であるミッシェ。今いるところから馬車で3日ぐらいか」


ソフィアはそう言いながら、机の上に簡単な地図を広げた。


「そういえば最近、ミッシエにも行っておりませんでしたな、久しぶりに蜂蜜酒が買いたいところです」


「ルドガー、話の腰を折るな。

ミッシェはウェンベの騎士団が出張っている可能性もある。軽々に動きたくないな」


僕の言葉に、ソフィアが反応する。


「普通にミッシェに入るだけなら何も問題ないよ。手配書出回っているわけではないでしょ?」


手配書。


その言葉に、俺はルドガーと顔を見合わせた。

今はもうない……はずだ。


「…安心しろ小娘。手配書なんぞ、出ているわけないだろう」


「今の間が気になるけど、わかったよ。信用する。街に入っていきなり騎士に追われるとかは嫌だからね」


ソフィアは肩をすくめる。


「そういう意味では、協力してくれるのがオルグさんでなくてよかったかな。あの人は派手に手配書が出回っていたから」


オルグは、俺にとって都合のいいデコイだった。

表に顔を出して暴れさせていたうえ、本人の気性もあって、それなりの金額が懸けられていたらしい。


せっかくなら死体を引き渡して、賞金を受け取ればよかった。

そんな考えが一瞬だけ頭をよぎった。


「ソフィアの言う通り、俺とルドガーは善良な盗賊だから何も問題ない」


「善良な盗賊って何?善良な人は盗賊なんてしないでしょ」


「細かいこと気にするなよ。お前もこれから奪う方に回るんだからな」


その言葉に、ソフィアの表情がわずかに強張った。

軽口で流せる話ではなかったのだろう。喉が小さく動く。


「ひとまず、ミッシェに拠点を構えて、状況を伺いたい。いきなり俺の盗賊団を全部動かすわけにはいかんからな」


実際、村の盗賊衆をそのまま街へ移しても、大したて役には立たない。

連中がこの土地で生きていられるのは、地形を知り、逃げ道を知り、誰がどこに住んでいるかまで把握しているからだ。

知らない街へ放り込めば、ただの柄の悪い集団でしかない。本来の半分も力は出せないだろう。


だから僕も情報収集に使おうとおもっていたわけだし。


「私もしばらくここで捕まっていたから、今の状況はわからないから賛成。黒槍も気になるしね」


ソフィアと俺が話を進める一方で、ミレーヌは部屋の端に座ったまま、静かに耳を傾けていた。

口を挟まないのが、かえって不気味だった。


「ある程度、方針は決まった。その前に報酬の話をさせてくれ。俺たちにいくら出す?」


ソフィアの目をまっすぐ見て問う。

彼女は少し考えるそぶりを見せ、それから口を開いた。


「お金で払う方がいい? それとも、別の形がいいのかな?」


「別の形……」


ソフィアの問いに、今度はこちらが考え込まされる。


金。組織を回すには必須だ。ローグのミッションを満たすためにも必要になる。


紅蓮油やルドガーの装備。希少な道具は欲しくても、手に入れる経路がない。


情報。この世界ではまだ価値を軽く見られがちだが、俺にとっては喉から手が出るほど欲しい。


人材。昔のように、背中を預けられる強力な仲間も必要だ。


考え込んでいると、ソフィアがさらに続けた。


「たとえば、私の出資で小さな商会を作るとか。どう?」


ヤクザのフロント企業みたいなものか。

それとも、まっとうな仕事があれば盗賊をやめるとでも思っているのか。


「とりあえず金額としては金貨で100。必要時に別のものに変えてくれ」


「うーん。いいけど、あっちのお姉さんとわけてよ」


ソフィアはミレーヌの方を見て、按分するように促してくる。


「私は必要経費だけいただければ構いませんよ。その代わり上手くいった時は、末永いお付き合いを」


ミレーヌが今日一番の笑顔でさらっと答えた。

奴隷商との取引が商売のプラスになるのか俺にはわからなかった。


「お姉さんも商人だよね。何を取り扱っているか知らないから、軽々に取引できないよ」


「いえ、必ずご満足いただけると思います」


「ミレーヌは人を取り扱っている」


僕は横から補足してあげることにした。


「人材業ってこと?人で不足だから、それは助かるけど」


人材業と言い方に引っかかりを感じる。こっちの世界で人材業なんて初めて聞いたぞ。


「そうです。そうです。人材業。ソフィアさんは言葉のチョイスも逸脱ですね。

これからは私は人材業と唄うことにします」


ひどく機嫌がよさそうな、ミレーヌ。

この仕事は暴力が必要だ。仕事を受けるにあたって、今度こそ仕入れたいものがある。


「前金というわけではないが、紅蓮油を一本手に入れることはできないか?」


「紅蓮油?うちじゃ取り扱ってなかったけど、頼めば手に入るかも…」


「紅蓮油ですか。数がないですからね」


ソフィアとミレーヌの反応はあまりいいものではなかった。早急に打って出るのためには必要なんだが…


「他の商会もありますし、ミッシェで探しましょう。わしの装備も見繕いたいですしな」


「そうだな。少し探してみるか」


ルドガーの提案に同意し、当面の方針が決まる。


「街に出るのは、俺、ルドガー、ソフィアか。村の抑えに、アンドンは残す。ミレーヌはどうする?」


「私は主にサポートになりますので、先にミッシェに行きます。後ほど合流しましょう」


そう言い残すと風のように去っていった。


「2、3日準備期間を設けて、街に出るか」


ルドガーがいるとはいえ、盗賊狩りに見つかれば、戦力差は歴然。慎重に物事を進める必要がある。


その夜、見張りに出していた男が戻ってきた。


「エリックさん。ミッシェに、ウェンベの騎士団が向かっているようです」


ミッシェは、僕にとって、もう安全な街ではないらしい。

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