表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/31

第24話 黒槍傭兵団

ソフィアがゆっくり口を開く。


「もともとエーヴェル商会は、私の両親のものだった。父が商機を読むのが上手くて、魔鉱石やサハラの油の取引で大きな利益をあげた」


そこまでは聞いたことがある。国をまたぐ取引で、必要なものを運ぶ商人。優秀な男だったらしい。


「だけど、両親は事故で死んだ。モンスターに襲われたらしいのだけど、その傷は切り傷が多くて、私には本当にモンスターにやられたとは思えなかった」


「誰かに殺されたんじゃないかと噂にはなっていましたね。死体もモンスターに食われている部分が多くて、全容は分からなかったらしいですけど」


ミレーヌが淡々と補足する。


「そう。騎士もきちんと調べてくれなくて、結局うやむやになった。近くに親族がいなかったのもあって、私が商会を継いだんだけど、その頃にはもう番頭のヘルマンが力をつけてた」


「俺が身代金を脅し取ろうとしたやつだな。しかし、ソフィアが商会の後継者なら、番頭を追い出せばいいだろう」


正統性がある以上、ソフィアの地位は本来揺るがない。ただし、実際に商会を回せるかどうかは別の話だ。


「商品も取引先も、もう全部向こうに握られてた。主導権を取り戻そうとしたら、このざまだよ」


現代でもありそうな話だが、この世界だと、もっと露骨にやれる手口なのかもしれない。


「こうなると、両親の死も本当に事故だったのか怪しいな」


「私は事故だと思ってないよ。証拠なんて何もないけどね。嫌な予感はしてたんだよ……わざわざ、残虐だって噂される『オルグ盗賊団』のいる街道を通って小麦を運べって言うんだから」


あれは僕のせいじゃない。

オルグの阿呆が張り切った結果、旅人四人が肉塊に変わったのは不幸な事故だった。

だから砦の奴らは嫌いだったんだよ。


「もし捕まったら、言いくるめて協力してもらおうと思ってたんだけど、エリックさんみたいな理性的な人で助かったよ」


ところどころ本音が漏れているが、そこは聞かなかったことにする。


「話は大体わかった。お前は俺に何を望む? 平穏な生活か。それとも、新しい生活の場か」


「雇いたいんだよね。『オルグ盗賊団』を。あいつから私の商会を取り戻してほしい。だから、オルグさんにつないでくれない?」


思っていたより、話がでかい。


オホン、と咳払いをして、ルドガーが答える。


「オルグは死んで、今はエリックさんが頭だ。」


ミレーヌが目を細め、ソフィアは目を輝かせた。


「頭のエリックさんの全面協力を取り付けた。つまり、『オルグ盗賊団』が全力で協力してくれるんだよね?」


俺が思っていたより一段、話がでかくなっている。まだ頭がついてこない。どうなれば勝ちで、どうなれば負けになる?


「協力するのは構わんが、今の話を聞いたところで、どう進めるかが全然わからん」


「ありがと。いくつか案はあるから、後で話そう。だけど、とりあえずこの牢屋から出して欲しいな」


「ルドガー」


合図を送ると、ルドガーは牢の鍵を取り出し、外し始める。


「いや、協力してもらえるみたいでよかったよ。最近、商会にも物騒な輩が出入りしてるからさ」


「ええと、エーヴェル商会は……確か、傭兵団を雇ったという情報がありますね。どこの傭兵団だったか」


びっしりとメモの書かれた羊皮紙をめくりながら、ミレーヌが答える。


「商会に用心棒なんぞ珍しくもないからな。ソフィアの護衛も同じ傭兵団か?」


「あの人たちはギルドにお願いした。頼み込んでかなり強い人を回してもらったのに、負けちゃうからびっくりしたよ。

張り込んで、魔術師にクレリックまでつけてもらったのに。

そういえば、あの人たち殺したの?」


最後の言葉には、隠しきれない非難の色が混じっていた。


死んではいない。

死んではいないが、ミレーヌに売ったとは言えず、視線をさまよわせていると、ルドガーが前に出た。


「安心しろ。四人とも生きておる。中でも魔術師は、ぜひ仲間に入れてくれと頼んできたのでな。精鋭中の精鋭、ルドガー魔術師部隊に組み込んだぞ」


ルドガー魔術師部隊って何だよ……ルドガーは魔法使えないだろ。


「盗賊団に魔術師部隊なんて、すごい……」


目を丸くするソフィア。対照的に、ミレーヌの目が僕に向ける視線は痛々しいものだった。

なぜその魔術師を私に流さない、とでも言いたげな目だ。


「まあ、盗賊団は数多くとも、魔術師部隊を用意できるのは、我が盗賊団くらいだろうな」


でかい盗賊団でも魔術師を用意できないことが多いのは事実だ。

魔法を使えるというだけで、エリートだし、よほどの事情がない限り、ひっぱりだこだから。

だが、張子の虎で威張られるのは少し恥ずかしい。


俺がルドガーを黙らせようと口を開いた、その次の瞬間。

ミレーヌの指が、羊皮紙の端で止まった。


「……待ってください」


さっきまでの呆れた目が消える。

代わりに、もっと冷たい目になった。


「ソフィアさん。エーヴェル商会に出入りしている傭兵団の名前、聞いていますか?」


「名前? たしか……黒槍、だったかな」


ルドガーの手が、牢の鍵を掴んだまま止まった。


「黒槍だと?」


「知ってるのか?」


「知っているも何も、正面からやり合う相手ではありません。あれは傭兵団ではなく、戦場帰りの殺し屋です」


ミレーヌが、羊皮紙をこちらへ向けた。

そこには小さな字で、こう書かれていた。


——黒槍傭兵団、エーヴェル商会に三十名常駐。


三十。


商会を取り戻す話が、ただの店の喧嘩で済まないことだけは分かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ