18_真実の先に
フィリスは、信じられない思いで、セドリックに目を向ける。
自分の肩をつかむ彼の手は、ずっと震えている。
「セドリックさまが……、あの王城の騎士……?」
フィリスは、ぽつりと口に出す。
セドリックの肩がびくりと反応する。
「それに、教会の朗読者……?」
言葉に出しても、頭が一向に追いつかない。
すると、セドリックは苦しげに、フィリスからゆっくりと手を離すと、一歩下がり、さらにもう一歩下がった。
地面に視線を落とし、
「幻滅しただろう……?」
息を吐く。
その声もかすかに震えている。
そっと顔を上げたセドリックは、フィリスに目を向けると、
「きみを二度も救えなかった不甲斐ない男が、今世では素知らぬ顔をして、プロポーズしていたなんて……」
いつも大人の余裕を見せていたセドリックからは、想像もできないほど弱々しい姿だった。
「自分でも身勝手だとわかっている。でも今世のきみには、誰よりもしあわせになってほしい。それが私の願いだ。……たとえそれが、ほかの誰かによってもたらされるものだとしても──」
そこで言葉を区切り、年下の少女であるフィリスに、懇願するような眼差しを向ける。
「──だからせめて、きみを見守ることだけは許してくれないか。きみが私の顔も見たくないと言うなら、けっして近づかないと約束する」
夜にもかかわらず、フィリスは目がくらむ思いがした。
ふらりと、足元が揺れる。
「フィリス──!」
セドリックがすかさず距離を詰め、フィリスの体を抱きとめる。
しかしすぐに、
「──ごめん」
ひどく離れがたいようにしながらも、そっとフィリスの体から手を離し、
「──体が冷えている。部屋に戻ろう」
そう言って、歩き出そうとする。
フィリスは無意識に、セドリックの腕をつかんでいた。
顔を上げ、彼の琥珀のような透明感のある黄褐色の瞳をまっすぐに見つめる。
「──わたし、恨んでなんかいません!」
フィリスは、力いっぱい叫んだ。
「あの年上の騎士さまにも、やさしい声の朗読者さまにも、いつも、いつも救っていただきました。一度目の人生で、ひどい仕打ちを受けていた王女のときも、名前も訊けない騎士のあなたとお話しできることが何よりも楽しみでした。
二度目の人生で、聖女として求められるまま献身し続ける毎日の中でも、あなたの朗読に耳を傾けるひとときだけが、ひとりの人間として、ささやかなしあわせを感じることができました──」
フィリスの指先が震える。
このレザーク王国が、三度目の悲劇に襲われることのないよう、心から願っていた。
でも、それ以上に、自分自身が傷つくのはもういやだった。
だからこそ、今世は平穏に暮らしたいと願った。
でもいまは、このやさしい手を離したくないと思ってしまった。
フィリスの瞳いっぱいに、涙があふれる。
視界がにじむ。
「だから、そばにいてください──」
ぬくもりを求める小さな子どものように、フィリスは漏らす。
それ以上は、もう言葉にならなかった。
その瞬間、セドリックが、フィリスを抱きしめる。
「──ああ、そばにいる、絶対に」
セドリックは、力強い声音で言った。そして一心に願うように、
「──誰よりもしあわせにすると約束する」
しかしフィリスは、セドリックの腕の中で、子どもがぐずるように小さく首を横に振った。
「……いやです」
セドリックはフィリスの意図をはかりかねたように、上から彼女の顔を覗き込む。
フィリスは頬を赤く染め、
「……いやです、わたしだけじゃなくて、セドリックさまも、しあわせだと言ってくださらないと」
セドリックは、大きな手で彼女の頭を抱え込み、苦しいくらいにぎゅっと抱きしめる。
「──しあわせだ、これ以上ないくらいに。こうしてきみを抱きしめられただけで」
そう言う、セドリックの手は小刻みに震えていた。
「本当に、夢みたいなんだ──」
その言葉を聞いたフィリスは、セドリックの広い背中にそっと手を回したのだった──。
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