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17_奇跡の再会(3)

 三度(みたび)生まれ変わったとき、セドリックは前々世、前世でも世話になったスペディング公爵家の嫡男(ちゃくなん)という立場だった。


 そして、前世と同じく、過去の記憶ももっていた。


 運命のいたずらか、何か意味があるのか……。


 物心ついた頃から、今世の自分の生き方について考え続けた。

 しかし、確固とした目的は見出せなかった。


 それでも、これまでの世ではもち得なかったスペディング公爵家という絶大な権力と財力を使い、セドリックは自分にできることをおこなうべく、”国を守る番犬”として国王に忠誠を誓い、国の安寧のために力を尽くした。


 きっと自分はこのまま今世を終えるのだろう、そう思っていた。


 そんな中、ある日、王都の街中を馬車で走っているとき、ふらりと馬車の前に、飛び出してくる紳士がいた。


 慌てて御者が馬を停止させたのでことなきを得たが、紳士は頭でも打ってしまったのか、意識がなかった。


 公爵家の馬車だということは、紋章でわかる。

 被害者を装った無礼者かなにかだろうと、侍従のケビンが見当をつけたが、セドリックも同じ意見だった。これまでも似たようなことがあったからだ。


 しかし、それは浅慮だったと、すぐに後悔する。


 その日のうちに紳士が目を覚ましたと知り、セドリックはなぜか気になり、使用人には任せず、自ら会いに行った。


 善良そうな紳士はしきりに恐縮して頭を下げ、診療所にまで運んでもらったことを深く感謝した。

 紳士は、コッド子爵だと名乗った。


 医師の診察によると、子爵は極度の栄養失調で、倒れるのも無理はないとのことだった。


 被害者を装った無礼者だという疑いは晴れたが、子爵の身なりは、貴族にしてはあまり裕福には見えなかった。


 セドリックは、自身の身分はあきらかにしていないものの、どのみち着ている服装などを見れば、こちらがある程度の身分を有していることは相手も察するであろうと感じていた。そのため、おそらく治療費を請求されるだろうと思っていた。


 しかし子爵は、治療費どころか、さらに恐縮しながら、領地に一通手紙を届けてもらえまいかと願い出たのだ。


 セドリックは怪訝に思いながらも、表には出さず、了承した。


 子爵が書き上げた手紙を、人当たりのよい笑みを浮かべて受け取り、病室を出て馬車に乗り込んだところで、すぐさまケビンに開封させる。


 内容を読むなり、セドリックはくすりと笑った。


 書かれてあったのは、領地にいるひとり娘に、子爵家に代々受け継がれる家宝であるネックレスを持ってくるように指示した内容だった。それを治療費として、助けてくれたセドリックに差し出すつもりだという。


(まさか、こんなにも善良な人間が貴族の中にいるとは──)


 セドリックは目を丸くしながらも、子爵に尊敬の念を抱く。


(この子爵の娘なら、どんな娘だろう……)


 セドリックは、今世ではじめて、女性に興味を引かれた。


 公爵家に生まれ、言い寄ってくる女性の数は数えきれなかったが、心を動かされる女性は皆無だった。


 セドリックの心を占めるのは、前々世で救えなかった後悔が消えない不遇の第一王女、そして前世で救えず、亡くなってから恋だったと気づいた聖女だけだ。


 どちらも姿はまったく異なるが、セドリックにとって、いまだに忘れられない存在だった。


 自分のように何度も生を受けることはないだろうとわかっていても、どこかで彼女たちの面影をもつ女性を無意識に探していた。


 そして、セドリックに奇跡が起こる。


 コッド子爵の見舞いがてら、診療所を訪れたとき、居合わせた少女に目を奪われた。


 少女の背後には、セドリックが忘れようとも忘れられなかった、前々世で救えなかった第一王女、そして前世で救えなかった聖女の姿が残像のように映っていたのだ。


 容姿はまったく異なる。


 しかし、彼女が、自分がずっと探し求めていた相手だと、はっきりとわかった。


 苦しいほどに、胸が締めつけられる。


 セドリックは引き寄せられるように、手にしていた見舞いの花束を少女に差し出し、ひざまずいた。


 驚いた顔の少女も、なんと愛らしいのだろう。


 セドリックの心臓は、これ以上ないくらいに高鳴っていた。


 しかし、これまでの三度の人生を通じて、はじめて告げたプロポーズの言葉は、ものの数秒で断られてしまう。


 焦茶色の髪に、灰緑色(かいりょくいろ)の大きな瞳をもつ、かわいらしい少女の名前は、フィリスと言った。


 プロポーズを断られ、絶望の淵に立たされたセドリックだったが、あの手この手で丸めこみ、彼女をそばに置くことに成功する。


 そして一緒にいる時間が増えるほど、彼女への愛しさが際限なしに募る。


 フィリスは、今世を生きる少女で、過去の時代に自分と会ったことなど覚えていないことはよくわかっていた。


 寂しい気持ちはあったが、今世のフィリスがしあわせに暮らせるよう、自分のすべてを彼女に捧げようと思った。


 そんな中、突然フィリスが何者かに呼び出され、さらに過去の記憶をもっていることを知り、セドリックは激しく動揺する。


 無事にフィリスを救い出したものの、彼女が、自身を死に追いやったミーシェに会いたいと言ったとき、セドリックは自分の過去も告げるときが来たと感じた。


 そしてそれは、フィリスが自分の前からいなくなることを告げていた。


(恨まれていても、仕方ない……)


 いっそ、なぜ助けてくれなかったのか、二度もそばにいながらなぜ見捨てたのか、と(ののし)ってくれればいい。


 それで彼女が少しでも救われるのなら、いくらでも受け入れたかった。


 こうして彼女に出会えた、それだけでも、奇跡なのだから──。


 前世では、神などいないと吐き捨てたセドリックだったが、今世でこうしてフィリスと出会えた奇跡だけは、神に感謝した──。



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