五章 悪い予感と虫の知らせ=蜜
晴れない翔威の心とは対照的に、その日は晴れていた。
(今頃は、空港に向かってるかな?)
窓の向こう、のんびり流れて行く雲を眺めながら春香の事を考えていた。
そして、翔威は数日前の春香の泣き顔が、鮮明に心に焼き付いて離れなくなっていた。
(春香の泣き顔、初めて見たなぁ・・・・・。)
結局あの日は二時間ぐらい二人で泣いてたんだよな。
「・・はぁぁぁぁ――――――。」
翔威は静かに大きく深いため息をついた。
これで暫くは会えないのか・・・。
ま、落ち込んでばかりもいられないし。
まずは、バイトでもして旅行資金貯めなきゃ!!その分、暫くはカップメン生活だけど。
――――でも、寂しいよな。
(心に穴が空いたというより、心が半分無くなったみたいだ・・・。)
「今すぐ会いたいな・・・・・・・。」
無意識に口をついて出た言葉が今の翔威の心情を表していた。
◇ ◇ ◇
お昼休み、教室の一角で数人のクラスメイトがスマホを見ながらざわついていた。
(何だろうね?)
疑問には思ったが、今の翔威には春香以外の事には興味がナッシングだった。
「お――い!!翔威、高速道路で空港に向かっていたバスと一般車との多重事故で高速が不通になってるんだってよ。」
浩二は、みんなが何の話題で騒いでいるのかを確かめてわざわざ翔威に伝えにきたようだ。
火事、事故、事件なんかに野次馬根性を発揮するのが浩二の基本性格らしい。
そのうちに余計な厄介事に巻き込まれなきゃいいけど。
(!?空港行きのバスだって?)
「詳しく話せ!」
目の色を変え、別人のような形相で浩二に聞き返す
荒々しい口調は、長年の付き合いである浩二でさえ見た事が無い激しさだった。
「まあまあ落ち着けって、事故の方はかなりの台数を巻き込んでの多重衝突らしいな。」
外人のように身振り手振りを交えて、落ち着かせようとなだめながら答える浩二。
「場所は、どこらへんなんだ?」
翔威の口調がだんだん激しくなっていた。
たまたま空港行きのバスが事故に巻き込まれたってだけで、春香が巻き込まれたと決まった訳じゃないけど。
なんか、こう背筋の辺りがゾワッとするような感覚。
悪寒ていうのか、とにかく嫌な予感がする。
場所さえ分かれば・・・・・・・。
「おいっ、おいって!!!ちょっと落ち着けって。春香が巻き込まれてるって決まった訳じゃないだろうが。」
翔威の尋常では無いうろたえ振りに浩二は、なんとか落ち着かせようと必死だ。
なんといっても、落とし穴に落ち生き埋めになってもうろたえなかった翔威が、こんなにもてんやわんやになっているのだ。
浩二も慌てるのも無理は無い。
「・・・そりゃ、そうだけど。」
浩二に水を差されて少しは落ち着きを取り戻したようだが。
まだ多少目が泳いでいるようだがパニックからは抜け出したようだ。
(まず今の俺に何が出来るんだろうか?考えろ、冷静に考えるんだ。・・・・・とにかくテレポが使えるんだから現場に行かなきゃ!!今のままでは情報が少なすぎる。)
「とにかく事故現場はどこら辺なんだ?」
だいぶ落ち着いたようだし、まずは一安心かな。
浩二は安堵の表情を浮かべる。
「場所だったら、空港のすぐ近くらしいけど。聞いてどうするんだ?」
「ん?そりゃあ、ちょっと、まあ・・・・・・。それと俺、調子悪いから早退するんでヨロシク!」
挙動不審な翔威を浩二は直感で『こいつ事故現場に行く気だな。』と理解した。
「お、おい、ちょっと!!翔威!!歩いて高速には入れないぜって。もう行っちっまったんか~い。」
(無茶は無しだぜ翔威。)
浩二の問いかけが耳に入るより早く教室から翔威が姿を消す方が早かったみたいだ。(もちろんテレポは無しで。)




