四章 春香と北海道=ライアー
「・・・・大切な話があるんだけど。」
春香は伏せ目がちで、そして低いトーンで切りだしてきた。
いつもの春香からは考えられないくらい、落ち着いた感じで。
こんな春香を見たのは、自分の大好物を俺から奪う時に猫撫で声を使ってきた時以来だ。
(ちなみに俺の大好物はイカリングだが、春香はベルギーワッフル)
「翔威、あのね・・・。私、明日でこの学校最後なんだ・・・。」
やっぱり本当の話だったんだな、心のどこかで『もしかしたら間違いの可能性も・・』
と言う可能性は、本人の口から転校宣言が出た所で木端微塵に消え去った訳で。
こうなるともう現実として受け止めざるを得ないんだな。
今日は浩二が風邪をひいて学校を休んでいるので、久しぶりに二人っきりでの下校途中だったのに。
翔威にとって触れたくない話題、決して自分からは切り出さずにいたけど。
「・・・そう・・・、なんだ・・・。、」
この時、翔威は『嫌だ!こいつと離れたくない!』そう思っていた。
今まで、春香に対してこんな感情を抱いた事はなかったのだが。
離ればなれになってしまう現実が、心の奥底に眠っていた気持ちを引き出していた。
「お父さんの都合で北海道に引っ越すんだけどさ・・・、なかなか、ちゃんと言い出せなくてゴメンね・・・。」
春香が無理に笑顔をつくろうとしているのが、翔威には辛かった。
俺は無意識に地面を見て拳を握っていた、この現実を曲げられる力があれば。
テレポートなんて非現実的な力は持ってるくせに、傍らにいてほしい人を引きとめる力は無い。
じいちゃん、ばあちゃん、親父、お袋共に死に別れたけど、別れに関してはなれる事は無いな。
(春香は死んで無いけどね。)
「・・・・いつ、向こうに発つんだ?」
「・・・三日後だよ、お父さんの転勤が急に決まったから。私はこっちに残るって最後まで頑張ったんだけどダメだった・・・。」
その表情からは落胆の色が見える、春香はこっちに残りたかったんだな。
まあ、両親からしてみればいくら娘の頼みとはいえ、年頃の娘を残してはいけないだろうな。
「・・・そうか。」
三日後か、本当に急な話だったんだな。
春香の両親も大変だっただろうな(春香を説得するのに、の意味で)
「翔威はさみしい?」
真っ直ぐに俺を見つめて問いかけてきた春香の表情は今までに見た事の無い、寂しさを醸し出していた。
いつもの悪戯っ子の春香ではなく、純粋に女性部分のみの春香になっていた。
「春香はどうなんだよ・・・。」
正直俺は、本心を語るのが恥ずかしかったので質問に対し質問返しでお返ししてみる。
「・・・・・・・・・寂しいに決まってるでしょ、離れたくなんてないわよ!!!!!」
そう言った春香の目から大粒の涙がこぼれ落ちた、それは綺麗な涙だった。
真っ直ぐに俺を見つめたまま、ぽろぽろと止めどなく頬をつたい地面に落ちていく。
俺は言葉を失ってしまった、目の前で俺との別れを寂しいといって涙を流している。
その姿がたまらなく愛しくて愛しくて、周囲の視線も憚らず無意識に春香を抱き寄せていた。
「しょう・・・い・・・、離れたく・・・ないよぉ・・しょう・い・・・。」
腕の中で泣きじゃくる春香に俺は何て声を掛けたらいいんだろう?
こんな時に限って、気の利いたセリフなんて出てきやしない。
情けなくて、悔しくって、ただ強く抱きしめることしか俺にはできないんだ。
「――――――ごめんな・・・春香、俺には何にもできないんだ・・・・。」
「・・・・う・・・うん・そ・・・ん・・な・こ・・と・・ない。」
春香は俺の胸に顔をうずめて一生懸命に首を横の振った『あなたのせいでは無いと』
そんな事は百も承知だ、でも――――――――――。
いつの間にか俺も泣いていた、春香と時間を忘れて二人で泣き続けた。




