二章 僕と浩二=因縁
「おはようさ―――ん!!ミスターメディアン(中央値)!」
通学途中、まだ百パーセント脳が覚醒していない俺の遙か後方から馴染みのあるテンションの高い声が俺を追い抜いていった。
その声を激しく追うかのように、声の主である中川浩二は全速力でこちらに走ってきた。
「浩二・・・その呼び名はやめようぜ・・・。」
この野郎は人に勝手な呼び名を付けやがって、誰も好き好んで平均野郎じゃないんだよ!
今思えば、幼稚園や小学校のかけっこも中間位で中学校のマラソンもぴったり中間位だったし。
俺の過去の成績は、勉学、競争などジャンルを問わずどんぴしゃで中間だった。
これってある意味呪いをかけられてる?!と思うくらいに中間から抜け出せない事に最近やっと慣れたような慣れないような感じではある。
「いや、ほら、だってね。メディアンなんて外人みたくて、かっこいいじゃあ~ん!」
「・・・俺は全く思わんがね。ただの平均野郎じゃんか。」
翔威は空を見上げながらうつろな目で答える、その声と体に力は無い。
このクラスメイトであり親友の浩二は、幼稚園時代からの腐れ縁仲間(家も近いし)である、口癖は語尾に『――ね』。
こいつは昔から平均野郎の俺と違い運動能力、勉学共にいつでもAクラスを突っ走ってきた。
ある意味、俺の目の上のたんこぶ的な存在でありコンプレックスの対象野郎でもあった訳だが。
そして、見た目はワイルドで(肩まである髪を無造作に縛り、無精ひげ)顔はどっかの外人のように彫りが深く(フランス系)。
やることなす事豪快で、おまけに背のでかけりゃ態度もでかいし声に至って大声コンテストで優勝経験まである有様だ。
ミスターメディアンの俺としてはいつも『こいつになれたら人生もっと違う意味で楽しかっただろうな。』と常々思っていた。
(実際になったらなったで微妙な感じもするが・・・無神経だし、足臭いし、うるさいし。)
「あ、そういえば聞いたか?」
「何を?」
また、こいつは脈絡の無いどーでもいい話でも始めるんだなと翔威は思いながら生返事を返す。
いつでもこいつの話の八割は箸にも棒にもかからんようなマニアック話題ばっかりだからなぁ。
たまには嘘でもいいから『俺に彼女ができたぜぃぃぃ!!』くらいの超特大ネタでも持ってこいってんだ。
「春香が転校するんだってね。」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふへっっ?!」
それは『俺に彼女ができたぜぃぃぃ!』よりも予想しなかった浩二のぶっこみ超特大ネタだった。
春香『はるか』は翔威の幼なじみである、浩二と同じく幼稚園時代からの腐れ縁仲間(こいつも家が近い)。
よく小さい頃は、春香をよくいじめっ子から助けて――――――――。
もとい、いっつも俺が助けてもらっていたものだ。
短気でキレやすく、ケンカも強くて、寝る時に足をコスコスし、口癖は『ちゃんと』おまけに何でも匂いを嗅ぐというまさに現代社会の申し子(?)のような可憐で可愛い女の子なのだ。
そして、小さな頃からずっと仲の良い腐れ縁仲間の一人だ。
(・・・・・今考えれば、小さい頃は春香の舎弟というか子分というか家来みたいな存在だったよな気もしない訳でもないが・・・)
それでも俺にとっては、いつでもそばに居るのが当たり前の存在で御互いに隠し事など無く接しているはずなのに。
昨日の帰り道でだって、あいつはそんな事は一言も言ってないし。
転校するんだったら真っ先に俺に言って来る筈だよな・・・・・・・・・・・・・?。
「翔威ってば・・・もしかして・・・聞いてナイ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
もしかして浩二お得意のブラックジョークか?だとしたら笑えんな・・・・。
でもこいつは、たまぁ~にでたらめなジョークをエイプリルフールでも無いのにかましてきやがるからな。
そもそも昨日の春香に、そんな素振りは感じられなかったし。
そもそも浩二の言う事なんだから、ここはスル―するのが正解なのか?
しかし、スル―もまた失礼なのか?どっちだ?
「浩二、・・・また笑えないブラックジョークか?」
俺の予想では百パーセントブラックジョークの筈だった―――――――のだが。
「昨日、本人に聞いたから間違いないけどね。」
浩二は真顔で、即答してきた。
俺には長年の付き合いだから分かる、浩二のその表情に嘘は無かった。
(浩二は嘘をつくと、思いっきり目が泳ぐのでバレバレ。)
その事実を頭から追い出すように俺は走りだしていた(当然、激しく全力疾走で泣きながら)。
俺は無意識に、走る事と引き換えにネガな思考を追い払おうとしていたのかもしれない。
実際その時は、どこをどう家まで帰ったかを未だに思い出せないんだよね。
そして、小さい頃から動揺すると軽い錯乱状態になる俺だった。
「メディアン~!どこ行くね?いっしょに帰ろうぜ―――――!お―――い」
一人残された浩二は「やれやれ」といった表情と共に何か凄く遠い『何か』を見ているようだった。




