↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/16

第8話 救えた未来



 翌朝。


 私は朝食を終えると、昨日の出来事について考えていた。


 アントワーヌ・ド・モンフォール。


 何度思い返しても、ゲームの記憶には存在しない。


 それなのに。


 どうしても、彼のことが気になっていた。


「……いけない」


 私は小さく首を振る。


 今は領地のことを考えなければならない。


 魔王復活まで、あと三年。


 領地の改革もしなければならないし、魔物への対策も必要だ。


 そう考えながら、私は昨日の街道の地図を広げた。


 ヴァロワ領周辺の地図。


 昨日、魔物に襲われた場所には印をつけてある。


「魔物の動きが増えている……」


 アントワーヌが言っていた言葉を思い出す。


 そして、その瞬間だった。


「……あ」


 私は地図の一点を見つめた。


 何かを思い出した。


 ゲームの記憶。


 この辺り。


 確か、ここだった。


「……まさか」


 私は慌ててゲームの記憶を辿った。


 ゲームの中盤。


 主人公たちが辺境を訪れるイベントがあった。


 その途中で起きる、小さな事件。


 攻略対象の一人が、魔物の群れに襲われる。


 ――いや。


 正確には。


 攻略対象ではなかった。


 辺境を守る騎士が、魔物の群れから主人公たちを逃がすために戦う。


 その騎士は重傷を負い、その後しばらく登場しなくなる。


 ゲームでは、攻略対象たちの会話の中で触れられるだけの出来事だった。


 だから、私はほとんど覚えていなかった。


 けれど。


「この場所……」


 昨日、アントワーヌと出会った場所と近い。


 そして、ゲームでその事件が起きた時期も――。


「今頃だったはず」


 背筋が冷たくなった。


 私は地図を見つめたまま、動けなくなる。


 ゲームでは名前すら出てこなかった騎士。


 でも、もし。


 もしあの騎士が――。


「アントワーヌ……?」


 私は立ち上がった。


 ゲームに存在しなかった男。


 だから、私は彼の未来を知らない。


 そう思っていた。


 けれど。


 ゲームに描かれていなかっただけで、ゲームの中で起きた事件そのものは現実にも存在するのかもしれない。


 ならば。


 昨日の魔物の増加は――。


「……同じことが起きる」


 私は急いで屋敷を出た。


     ◇


 街道へ向かう。


 昨日と同じように護衛がついている。


「お嬢様、どちらへ?」


「昨日の場所へ戻ります」


「しかし、魔物が――」


「だからです」


 私は馬車の中で地図を握りしめた。


 ゲームの記憶が正しければ、今日。


 この辺りで魔物の群れが現れる。


 そして――。


 アントワーヌが戦う。


 ゲームでは、名前のない騎士が重傷を負った。


 現実では。


 その騎士がアントワーヌなのかもしれない。


「急いでください」


 馬車が速度を上げる。


     ◇


 街道に近づいたところで、異変が起きた。


「止まってください!」


 私は叫んだ。


 遠くから、何かが聞こえる。


 獣のような唸り声。


 そして。


 地面を揺らすような足音。


「魔物です!」


 護衛の一人が叫ぶ。


 森の奥から、魔物が次々と姿を現した。


 一体。


 二体。


 いや――。


「こんな数……」


 昨日とは比べものにならない。


 群れだった。


 護衛たちが武器を構える。


 私も震える手を握りしめた。


 怖い。


 ゲーム画面で見るのとは違う。


 実際に目の前にいる魔物は、息遣いまで聞こえる。


 それでも。


「アントワーヌは……?」


 私は周囲を見回した。


 いた。


 少し離れた場所で、剣を抜いている。


「アントワーヌ!」


 声を上げると、彼がこちらを振り向いた。


「マルグリット嬢?」


「逃げてください!」


「……何?」


「このままでは危険です!」


 アントワーヌが眉をひそめる。


「俺は騎士です。ここで逃げるわけには――」


「違います!」


 私は叫んだ。


「あなたは、ここで戦ってはいけない!」


「……」


 アントワーヌが私を見る。


 その目には困惑が浮かんでいた。


「どうして、そう思うんです?」


 答えられない。


 ゲームで見た。


 そんなことを言えるはずがない。


「……昨日、魔物の動きが増えていると言いましたよね」


「ええ」


「その動きが、昨日よりさらに激しくなっています」


 私は必死に言葉を探す。


「このまま戦えば、あなた一人では危険です」


「俺一人ではありません」


 アントワーヌは周囲を見渡した。


「モンフォールの騎士もいます」


「それでもです!」


 私は一歩前へ出た。


「別の場所から魔物が回り込んできます」


「……なぜ、そこまで分かる?」


 問い詰めるような声だった。


 私は一瞬、言葉を失う。


 でも。


 今は説明している場合ではない。


「信じてください」


 私はアントワーヌを見つめた。


「お願いです」


「……」


「あなたがここで戦えば、危険です」


 アントワーヌはしばらく私を見ていた。


 そして。


「分かりました」


 短く答えた。


「全員、いったん下がるぞ!」


 騎士たちが動き出す。


 その直後だった。


 森の反対側から、別の魔物が飛び出した。


「――っ!」


 予想通りだった。


 アントワーヌが即座に剣を構える。


 だが、今度は真正面から戦わない。


「右へ!」


 彼の指示で騎士たちが動く。


 魔物の群れを森から離れた場所へ誘導する。


 戦いは激しかった。


 けれど。


 昨日とは違う。


 アントワーヌたちは無理に魔物を倒そうとせず、安全な場所へ誘導しながら少しずつ数を減らしていった。


 やがて。


 最後の一体が倒れた。


 私はその光景を見つめた。


 誰も、大きな怪我をしていない。


 特に。


 アントワーヌは無事だった。


「……よかった」


 思わず、そんな言葉が漏れた。


 ゲームでは。


 この場所で、名前すら知らない騎士が重傷を負うはずだった。


 けれど。


 今日は違う。


 私は初めて、ゲームに書かれていた未来が変わる瞬間を目の前で見た。


 ――未来は、変えられる。


 そう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんなに次のページが楽しみだった小説は久しぶりです!!続きが本当に本当に気になりますので、よろしくお願いします。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。