↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/16

第5話 辺境領

王都を出て、数日が経った。


 馬車の窓から見える景色は、少しずつ変わっていった。


 整えられた街道。


 大きな屋敷。


 商人たちで賑わう町。


 王都の周辺では当たり前だったものが、次第に少なくなっていく。


 代わりに増えていったのは、広い草原と森。


 そして、遠くに見える山々だった。


「……随分と遠くまで来ましたね」


 私は窓の外を眺めながら呟いた。


「もうすぐです、お嬢様」


 向かいに座っていた侍女リゼットが答える。


 父が用意してくれた護衛たちも、馬車の周囲を固めている。


 王都を離れることに不安がないわけではなかった。


 けれど。


 今は、それ以上に期待の方が大きい。


 ここから。


 私の新しい人生が始まる。


     ◇


 さらにしばらく進むと、街の景色が見えてきた。


「……あれが?」


「はい。ヴァロワ領の中心街です」


 私は思わず身を乗り出した。


 ――これが、私の領地。


 王都で暮らしていた私にとっては、少し寂しく感じる町だった。


 建物は古い。


 道も十分に整備されているとは言えない。


 商店の数も少ない。


 そして、道を歩く人々の表情には、どこか疲れが見えた。


「……思っていたより」


 私は言葉を止める。


「寂れている、ですか?」


 リゼットが少し困ったように尋ねた。


「……ええ」


 正直に答えた。


 けれど。


 私は知っている。


 この領地は、ゲームの中でも決して豊かな場所ではなかった。


 王都から遠く離れ、魔物の被害も多い。


 商人たちも、わざわざ危険を冒してまで訪れようとはしない。


 そのため、領地の財政も苦しい。


 ゲームの中では、主人公たちがこの領地を訪れることはほとんどなかった。


 だからこそ。


 私はここに目をつけた。


「……まだ、間に合う」


 誰に聞かせるでもなく呟く。


「お嬢様?」


「いえ、何でもありません」


 馬車がゆっくりと町を進んでいく。


 私は窓の外を眺めながら、記憶を探っていた。


 ゲームの中で。


 この辺境領には、いくつかの設定があった。


 魔物の被害。


 人手不足。


 農地の問題。


 そして――。


「……確か」


 私は小さく呟いた。


 ゲームの中で、後になって重要になる場所があったはずだ。


 当時は、ただの背景設定程度にしか思っていなかった。


 けれど。


 今の私にとっては違う。


「探してみる価値はある」


 何が正解なのかは、まだ分からない。


 ゲームで知っていることが、現実でも同じとは限らない。


 それでも。


 何も知らない人間よりは、私は少しだけ先を知っている。


 それを使わない理由はなかった。


     ◇


 やがて馬車が止まった。


「到着しました」


 護衛の声が聞こえる。


 私は馬車から降りた。


 目の前には、大きな屋敷が建っている。


 王都の貴族屋敷ほど華美ではない。


 けれど、長い年月をかけて使われてきたことが分かる建物だった。


「……ここが、私の家」


 少しだけ不思議な気持ちになる。


 今まで私は、王都にある屋敷を自分の家だと思っていた。


 けれど。


 これからは違う。


 ここで暮らし。


 ここで領地を見て。


 ここで、自分の未来を変える。


「お嬢様、お疲れでしょう。まずはお部屋へ――」


「その前に」


 私は屋敷の中へ向かおうとしたリゼットを呼び止めた。


「領地の状況を知りたいです」


「今からですか?」


「はい」


 私は町の方を振り返った。


 古びた建物。


 少ない人通り。


 疲れたような領民たち。


「私は、この領地を何も知りません」


 王妃になるための勉強はしてきた。


 領地経営についても学んだ。


 けれど。


 実際に領民がどんな生活をしているのか。


 何に困っているのか。


 それは、ここへ来なければ分からない。


「まずは自分の目で見たいんです」


 リゼットは少し驚いた顔をした。


 けれど、すぐに頷いた。


「承知しました」


 私はもう一度、町を見る。


 この領地は、確かに豊かではない。


 けれど。


 私はゲームの中で、この場所を知っている。


 誰も価値に気づいていなかった場所も。


 後になって重要になるものも。


 その記憶が正しければ――。


「変えられるかもしれない」


 小さく呟いた。


 魔力は弱い。


 剣も使えない。


 王都での私には、何もできなかった。


 でも。


 ここなら違う。


 私には、私にしか使えないものがある。


 前世の記憶。


 ゲームの知識。


 そして――。


「この領地を、私の手で変えてみせる」


 まだ誰にも知られていない未来を。


 ゲームには存在しなかった未来を。


 ここから作っていく。


 私はそう決意して、屋敷へと足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。