第3話「私の未来は処刑でした」
私は、三年後に魔王が復活する。
その事実を思い出した。
けれど。
私には、それよりも先に向き合わなければならない未来があった。
「私は……処刑される」
乙女ゲームの中で。
私は悪役令嬢だった。
王太子フィリップとの婚約を破棄され、その後、国外へ追放される。
そして――最後には処刑される。
それが、ゲームの中での私の結末だった。
「……そんなの、嫌」
思わず、言葉が漏れた。
ゲームの中の私は、何もできなかった。
婚約破棄をされ、居場所を失い、追放される。
そして誰にも助けられることなく、命を奪われる。
それが決められた未来だった。
けれど。
私は、ゲームの中のマルグリットではない。
今の私は――この世界で生きている。
「まだ、何も起きていない」
婚約は破棄された。
それは、もう変えられない。
けれど、国外追放も、処刑もまだ起きていない。
そして何より。
私はゲームの結末を知っている。
「だったら……変えられる」
未来を知っているのなら。
それを利用すればいい。
私は魔力が弱い。
剣を握って戦えるほどの力もない。
特別な才能があるわけでもない。
だからこそ。
「私にできることを探そう」
ゲームの知識。
それだけが、今の私に与えられた武器だった。
ゲームの中で起きた出来事。
これから起きる事件。
そして――三年後に復活する魔王。
すべてを正確に覚えているわけではない。
ゲームの展開だって、現実になれば同じように進むとは限らない。
それでも。
何も知らないよりは、ずっといい。
「まずは、王都を離れよう」
このまま王都に残っていれば、ゲームと同じ未来へ進んでしまうかもしれない。
だったら。
自分から、その道を外れる。
私は父の治める領地へ戻ることを決めた。
王都から離れた辺境。
ゲームの舞台としては、王都ほど大きな出来事が起きる場所ではなかった。
けれど。
ゲームの中では、そこにもいくつか重要な場所が存在していた。
今なら、まだ間に合うかもしれない。
ゲームでは後になって価値が判明する場所。
魔王復活に備えるために使えるもの。
それらを、今のうちに調べておく。
そして領地を整える。
魔王が復活する三年後に備えるために。
そして何より。
自分が処刑される未来を変えるために。
「私は、生き残る」
誰かに決められた未来ではなく。
「私自身の人生を、私が選ぶ」
そう決めた。
けれど。
王都を離れると決めたからといって、すぐに出ていけるわけではない。
私は伯爵令嬢だ。
勝手に王都を出て、領地へ戻ることなどできない。
それに――。
父には、婚約破棄のことを伝えなければならない。
「……お父様に、相談しないと」
婚約破棄を受け入れたこと。
そして、これから自分がどうしたいのか。
すべてを話す必要はない。
前世の乙女ゲームのことも。
三年後に魔王が復活することも。
今の私が話したところで、信じてもらえるとは思えない。
それでも。
領地へ戻りたい理由くらいは、自分の言葉で伝えなければならない。
「明日の朝、お父様に会いに行こう」
そうすれば。
きっと、何かが変わる。
王都に残るのではなく。
自分から未来を変えるために動く。
そのための最初の一歩だ。
◇
翌朝。
私は父の執務室へ向かった。
廊下を歩きながら、何度も足を止めそうになった。
婚約破棄のことを、父はどう思っているだろう。
怒っているだろうか。
悲しんでいるだろうか。
それとも――。
私は扉の前で、一度だけ深呼吸をした。
そして、扉をノックする。
「お父様。少し、お話があります」
私は、新しい人生の最初の一歩を踏み出した。




