第14話 ゲームにあった魔石
三日後。
私たちは、再び北部の山岳地帯へ向かった。
前回は坑道の入口を確認しただけだった。
今日は違う。
坑道の内部を調べる。
「準備はできています」
ピエールが確認する。
「食料、水、それから灯りも用意しました」
「ありがとうございます」
私は頷いた。
そして、今回は専門家も同行している。
「こちらの方々が?」
「はい」
ピエールが紹介する。
「近隣で鉱山の仕事をしていた者たちです。坑道の状態や、魔石について知識があります」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
数人の鉱夫たちが頭を下げる。
今回の調査では、彼らの経験が頼りになる。
鉱山について何も知らない私たちだけで、奥へ進むべきではない。
「中では何があるか分かりません」
アントワーヌが騎士たちを見渡す。
「無理はしないでください。異常があれば、すぐに戻ります」
「はい」
私は頷いた。
「では、行きましょう」
◇
坑道の中は暗かった。
用意した灯りを掲げる。
古い坑道。
壁には、かつて採掘された跡が残っている。
「かなり古いですね」
一人の鉱夫が壁を確認する。
「ええ」
ピエールも周囲を見回す。
「記録に残っている採掘場と一致しています」
「坑道そのものは、まだ使えそうですか?」
「場所によりますね」
鉱夫が天井を見上げる。
「古いので、崩れている場所もあるでしょう。無理に進むのは危険です」
「分かりました」
私は頷いた。
焦る必要はない。
先日の調査で決めた。
まずは現場を見る。
そして、専門家の意見を聞く。
分からないことを、分からないまま進めない。
それが今の私のやり方だった。
◇
しばらく進む。
坑道は途中で二手に分かれていた。
「分かれ道ですね」
ピエールが足を止める。
「どちらへ進みますか?」
私は答えず、鉱夫たちを見る。
彼らは左右の坑道をじっと見比べていた。
「……少し待ってください」
一人の鉱夫が目を閉じる。
そして、静かに息を吐いた。
「……右です」
「右?」
「はい」
彼は右側の坑道へ目を向けた。
「魔力の流れがあります」
「魔力の流れ?」
「微かですが、右側の方が濃いんです」
別の鉱夫も右側へ近づく。
「……確かに」
「左より、右ですね」
二人の鉱夫が頷き合う。
私は彼らを見る。
「それなら、右へ進みましょう」
「分かりました」
アントワーヌが先頭に立つ。
騎士たちが周囲を警戒しながら進み、その後ろを私たちが続いた。
◇
さらに奥へ進む。
次第に、空気が変わってきた。
「……止まってください」
先ほどの鉱夫が足を止めた。
「何かありますか?」
「この辺りです」
彼は壁へ近づく。
灯りを向ける。
すると。
「……あれは」
岩壁の一部に。
青白い光が浮かんでいた。
「魔石です!」
鉱夫の一人が声を上げた。
全員が足を止める。
「これは……」
私は思わず息を呑んだ。
岩壁に埋まるようにして、青白い結晶が輝いている。
「かなり大きいですね」
ピエールが近づく。
「まだ触らないでください」
鉱夫が制した。
「まず周囲を確認します」
「分かりました」
鉱夫たちは魔石の周囲を慎重に調べ始めた。
壁。
床。
天井。
そして魔石そのもの。
しばらくして、一人の鉱夫が口を開いた。
「……これは、かなり質がいいと思います」
「高品質ということですか?」
私が尋ねる。
「はい」
鉱夫は頷いた。
「色だけじゃありません。結晶の状態もいい。魔力の濃さも、普通の魔石とは違います」
別の鉱夫も魔石を確認する。
「間違いないと思います」
「これほどのものが?」
ピエールが驚いたように呟く。
「ただ」
鉱夫が続けた。
「まだ一つ見つかっただけです」
「……そうですね」
「この奥に同じものが続いているかは分かりません」
「どのくらい採れそうですか?」
ピエールが尋ねる。
鉱夫は首を横に振った。
「それは、もっと調べないと分かりません」
「この一個だけかもしれませんし、奥に鉱脈が続いているかもしれません」
「なるほど」
ピエールが頷く。
「では、現時点では『高品質の魔石が一つ確認された』というところですね」
「はい」
私は魔石を見つめた。
青白い光。
確かに、見覚えがある。
ゲームの中で見たものと同じだった。
けれど。
今は、まだ一つ。
これだけで、この鉱山にどれだけの価値があるのかは分からない。
◇
私は魔石を見つめていた。
ゲームでは。
この鉱山が領地の未来を変える。
それを私は知っている。
けれど、現実は違う。
魔石が一つ見つかった。
それだけだ。
まだ埋蔵量は分からない。
採掘できる量も分からない。
坑道の安全性も分からない。
採掘したとして、それをどう売るのかも決まっていない。
「ピエール」
「はい」
「正式に調査を進めましょう」
「承知しました」
「ただし、いきなり大規模な採掘はしません」
「はい」
「まずは鉱脈の規模を調べる。どれだけ採れるのか確認する。そして、安全に採掘できるか調べる」
「採掘した魔石の販売先も必要になりますね」
「ええ」
私は頷いた。
「品質が良くても、売れなければ意味がありません」
「商人との交渉も必要になります」
「お願いします」
「承知しました」
ピエールが頷く。
農業と同じだ。
一つ結果が出たからといって、すぐに全てを変えるわけではない。
小さく始める。
現場を見る。
専門家の意見を聞く。
結果を確認する。
そして、次へ進む。
「マルグリット嬢」
アントワーヌが声をかけた。
「はい?」
「嬉しそうですね」
「……え?」
思わず顔を上げる。
「そう見えますか?」
「はい」
アントワーヌは頷いた。
「昨日より、ずっと」
「……」
私は魔石へ視線を戻した。
確かに。
嬉しい。
この領地を変えられるかもしれない。
その可能性が、目の前にある。
でも。
それだけではない気がした。
三日前。
誰も知らなかった鉱山へ来た。
そして今日。
ここで、新しい可能性を見つけた。
その隣には。
ゲームには存在しなかった人がいる。
「……そうかもしれませんね」
私は小さく笑った。
青白い魔石が、暗い坑道の中で静かに輝いている。
これは、ゲームで知っていた未来。
けれど。
ここから先は違う。
ゲームには、ここから先の私たちの行動なんて書かれていない。
どれだけ採れるのか。
どうやって採るのか。
誰に売るのか。
そして、この鉱山が本当に領地の未来を変えるのか。
まだ何も決まっていない。
だからこそ。
「ここからは、私たちで決めましょう」
私は静かに呟いた。
ゲームにはなかった未来を。
私たち自身の手で。




