↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/16

第14話 ゲームにあった魔石

三日後。


 私たちは、再び北部の山岳地帯へ向かった。


 前回は坑道の入口を確認しただけだった。


 今日は違う。


 坑道の内部を調べる。


「準備はできています」


 ピエールが確認する。


「食料、水、それから灯りも用意しました」


「ありがとうございます」


 私は頷いた。


 そして、今回は専門家も同行している。


「こちらの方々が?」


「はい」


 ピエールが紹介する。


「近隣で鉱山の仕事をしていた者たちです。坑道の状態や、魔石について知識があります」


「よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 数人の鉱夫たちが頭を下げる。


 今回の調査では、彼らの経験が頼りになる。


 鉱山について何も知らない私たちだけで、奥へ進むべきではない。


「中では何があるか分かりません」


 アントワーヌが騎士たちを見渡す。


「無理はしないでください。異常があれば、すぐに戻ります」


「はい」


 私は頷いた。


「では、行きましょう」


     ◇


 坑道の中は暗かった。


 用意した灯りを掲げる。


 古い坑道。


 壁には、かつて採掘された跡が残っている。


「かなり古いですね」


 一人の鉱夫が壁を確認する。


「ええ」


 ピエールも周囲を見回す。


「記録に残っている採掘場と一致しています」


「坑道そのものは、まだ使えそうですか?」


「場所によりますね」


 鉱夫が天井を見上げる。


「古いので、崩れている場所もあるでしょう。無理に進むのは危険です」


「分かりました」


 私は頷いた。


 焦る必要はない。


 先日の調査で決めた。


 まずは現場を見る。


 そして、専門家の意見を聞く。


 分からないことを、分からないまま進めない。


 それが今の私のやり方だった。


     ◇


 しばらく進む。


 坑道は途中で二手に分かれていた。


「分かれ道ですね」


 ピエールが足を止める。


「どちらへ進みますか?」


 私は答えず、鉱夫たちを見る。


 彼らは左右の坑道をじっと見比べていた。


「……少し待ってください」


 一人の鉱夫が目を閉じる。


 そして、静かに息を吐いた。


「……右です」


「右?」


「はい」


 彼は右側の坑道へ目を向けた。


「魔力の流れがあります」


「魔力の流れ?」


「微かですが、右側の方が濃いんです」


 別の鉱夫も右側へ近づく。


「……確かに」


「左より、右ですね」


 二人の鉱夫が頷き合う。


 私は彼らを見る。


「それなら、右へ進みましょう」


「分かりました」


 アントワーヌが先頭に立つ。


 騎士たちが周囲を警戒しながら進み、その後ろを私たちが続いた。


     ◇


 さらに奥へ進む。


 次第に、空気が変わってきた。


「……止まってください」


 先ほどの鉱夫が足を止めた。


「何かありますか?」


「この辺りです」


 彼は壁へ近づく。


 灯りを向ける。


 すると。


「……あれは」


 岩壁の一部に。


 青白い光が浮かんでいた。


「魔石です!」


 鉱夫の一人が声を上げた。


 全員が足を止める。


「これは……」


 私は思わず息を呑んだ。


 岩壁に埋まるようにして、青白い結晶が輝いている。


「かなり大きいですね」


 ピエールが近づく。


「まだ触らないでください」


 鉱夫が制した。


「まず周囲を確認します」


「分かりました」


 鉱夫たちは魔石の周囲を慎重に調べ始めた。


 壁。


 床。


 天井。


 そして魔石そのもの。


 しばらくして、一人の鉱夫が口を開いた。


「……これは、かなり質がいいと思います」


「高品質ということですか?」


 私が尋ねる。


「はい」


 鉱夫は頷いた。


「色だけじゃありません。結晶の状態もいい。魔力の濃さも、普通の魔石とは違います」


 別の鉱夫も魔石を確認する。


「間違いないと思います」


「これほどのものが?」


 ピエールが驚いたように呟く。


「ただ」


 鉱夫が続けた。


「まだ一つ見つかっただけです」


「……そうですね」


「この奥に同じものが続いているかは分かりません」


「どのくらい採れそうですか?」


 ピエールが尋ねる。


 鉱夫は首を横に振った。


「それは、もっと調べないと分かりません」


「この一個だけかもしれませんし、奥に鉱脈が続いているかもしれません」


「なるほど」


 ピエールが頷く。


「では、現時点では『高品質の魔石が一つ確認された』というところですね」


「はい」


 私は魔石を見つめた。


 青白い光。


 確かに、見覚えがある。


 ゲームの中で見たものと同じだった。


 けれど。


 今は、まだ一つ。


 これだけで、この鉱山にどれだけの価値があるのかは分からない。


     ◇


 私は魔石を見つめていた。


 ゲームでは。


 この鉱山が領地の未来を変える。


 それを私は知っている。


 けれど、現実は違う。


 魔石が一つ見つかった。


 それだけだ。


 まだ埋蔵量は分からない。


 採掘できる量も分からない。


 坑道の安全性も分からない。


 採掘したとして、それをどう売るのかも決まっていない。


「ピエール」


「はい」


「正式に調査を進めましょう」


「承知しました」


「ただし、いきなり大規模な採掘はしません」


「はい」


「まずは鉱脈の規模を調べる。どれだけ採れるのか確認する。そして、安全に採掘できるか調べる」


「採掘した魔石の販売先も必要になりますね」


「ええ」


 私は頷いた。


「品質が良くても、売れなければ意味がありません」


「商人との交渉も必要になります」


「お願いします」


「承知しました」


 ピエールが頷く。


 農業と同じだ。


 一つ結果が出たからといって、すぐに全てを変えるわけではない。


 小さく始める。


 現場を見る。


 専門家の意見を聞く。


 結果を確認する。


 そして、次へ進む。


「マルグリット嬢」


 アントワーヌが声をかけた。


「はい?」


「嬉しそうですね」


「……え?」


 思わず顔を上げる。


「そう見えますか?」


「はい」


 アントワーヌは頷いた。


「昨日より、ずっと」


「……」


 私は魔石へ視線を戻した。


 確かに。


 嬉しい。


 この領地を変えられるかもしれない。


 その可能性が、目の前にある。


 でも。


 それだけではない気がした。


 三日前。


 誰も知らなかった鉱山へ来た。


 そして今日。


 ここで、新しい可能性を見つけた。


 その隣には。


 ゲームには存在しなかった人がいる。


「……そうかもしれませんね」


 私は小さく笑った。


 青白い魔石が、暗い坑道の中で静かに輝いている。


 これは、ゲームで知っていた未来。


 けれど。


 ここから先は違う。


 ゲームには、ここから先の私たちの行動なんて書かれていない。


 どれだけ採れるのか。


 どうやって採るのか。


 誰に売るのか。


 そして、この鉱山が本当に領地の未来を変えるのか。


 まだ何も決まっていない。


 だからこそ。


「ここからは、私たちで決めましょう」


 私は静かに呟いた。


 ゲームにはなかった未来を。


 私たち自身の手で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。