27.もう一人の転生者
煌びやかな王宮の雰囲気に内心慄いて若干挙動不審になっているリーリエです。
わたしの少し後ろを歩くレオナルドさんは、全く動じることなく、安定の無表情で、堂々としています。
元々、王宮の騎士なので、当然なのでしょうか。
見たことのないような、繊細な装飾が施された調度品の数々。
花瓶を一つでも壊したりしたら、一生タダ働きに違いありません。下手したら、足りないかも…
絶対に近づかないようにします。
ライハート殿下とアンドリュー様の後を歩いて行くと、王宮で働くメイドたちが両脇に寄り、頭を下げて通り過ぎるのを待っています。
怖いです。ライハート殿下となるべく離れて歩こうと、わざとゆっくり歩いていると、気付かれてしまい、ライハート殿下の歩みのスピードが落ちてしまいました。
ごめんなさい。みんなが頭を下げてる時間が増えてしまいました。
連れて行かれた部屋ではパトリシアとフェルナンド
が待っていた。
二人はリーリエの姿を見るとほっとしたように、息を吐いた。
「この部屋でちょっと待っていてくれ。直ぐに戻る。アンドリューとフェルナンドは一緒に来てくれ」
ライハートはアンドリューとフェルナンドを連れて、そのまま出て行った。
「リリー!」
パトリシアが抱きついて来た。
柔らかくていい匂いのするパトリシアが胸に飛び込んで来たことには、びっくりしたものの、身体が震えていて、すごく心配かけたみたいで申し訳ない。
「ごめんね。心配かけて」
「リリーが謝ることないわ。わたくしがもっとちゃんと注意していれば…」
「パティが責任感じることなんて何もないよ。安全なはずの学院の中で攫われるなんて誰も思ってなかったんだし。でも、そう言えば、パティは何回も気をつけてって言ってたよね」
こういうことが起こることを分かっていたような言葉だったと今更ながらに不思議に思う。
「そうね…」
パトリシアがチラリと部屋の隅に控えているレオナルドを見た。
パトリシアは二人で話したいらしい。
「あの、少しだけ席を外してもらってもいいかな?」
リーリエが声をかけると、レオナルドは少し心配そうに眉を顰めたが、黙って頷くと部屋を出て行った。
「えっと、リリーは日本って知ってる?」
パトリシアはソファに座ると、思い切ったように話し始めた。
「日本!?え?日本ってパティも転生者?」
リーリエの目が見開かれた。
日本はこの世界にはない国なのだ。
「やっぱり…リリーもそうなのね。じゃあ、『アメジストのルーツ』っていう小説を知ってる?」
「『アメジストのルーツ』?聞いたことないと思うけど、忘れてるだけなのかな?」
考えるが、記憶にない。
「そっかぁ。なんだ、知らなかったんだ。リリーの設定が色々変わってるから、知っててやっているのかと思ってたんだけど」
パトリシアが気が抜けたように、ふっと笑った。
設定が変わってる?特別何かをしたことはないけど…
首を傾げる。
「ドットラン男爵令嬢じゃない上にメルトロー侯爵家の馬車に送迎してもらってるでしょ?」
「ドットラン男爵!?関係あるの!?」
ニコラスに丸投げしてから、久しぶりに聞いたその名前に驚く。
「いえ、関係ないと言えばないかも?リーリエは男爵とは血のつながりはないし」
「そうだよね。全く似てなかったから」
リーリエは当然だよねと、うんうんと頷いた。
「最初はメガネで瞳の色を変えて雰囲気全体が変わっていたのもあって、すっかり分かってるものだと思ってたの」
「あれは目立ちたくないわたしがメルトロー前侯爵にいただいたものなの。メガネって高くて買えなかったのよね」
「そう、メルトロー前侯爵が…うーん、色々すっ飛ばしてるのよね」
パトリシアは遠い目をして、大きなため息を吐いた。
「この世界は『アメジストのルーツ』って小説と同じなのよ。この小説の主人公がリーリエ・ドットラン男爵令嬢だったの」
「へ?ドットラン男爵令嬢が主人公?」
「そう。本来はね」
「いや、だって、ドットラン男爵とは血がつながらないって」
「そうなんだけど、色々あって、本当の父親を探すのがストーリーの中核のミステリーだから」
「は?ミステリー!?ヒロインが悪役令嬢にざまぁされる話じゃないの!?」
驚き過ぎて思わず大きな声になるリーリエ。
「なるほど。そっちだと思ってたんだ」
パトリシアが思わずといった感じで、吹き出した。
「まぁ、パトリシアがリーリエをチクチク虐めるというのはあるから、パトリシアが悪役令嬢だって言えば言えるかもしれないわね」
うふふと笑うパトリシアは可愛らしくて、悪役令嬢にはとても見えない。
「それで、今回の誘拐事件はストーリーの中にもあったことなの」
「そうなの?」
パトリシアが真剣な面持ちで頷く。
「色々ストーリーは変わっていて時期は全く違うんだけど…だから今回の監禁場所が分かったのよ」
「そっか。だからすぐに助けに来てもらえたのね」
どうして場所がすぐに分かったのかと思っていたけど、それを聞いて納得だ。
「ごめんね。もっと早く話せばよかった。これだけストーリーが変わってるから、ちょっと気をつけてさえいれば大丈夫なんじゃないかと思って。結局、変なこと言って今の心地いいこの関係が変わっちゃうのが嫌だったの」
しゅんと俯いているパトリシアは可愛過ぎて、頭をぐるぐると撫で回したくなる衝動を必死に抑えるリーリエ。
「ありがとう。パティがみんなに監禁場所を教えてくれたから、すぐに助けてもらえたんだよ」
「でも、頬が少し腫れてる…」
パトリシアはリーリエの顔をじっと見て、そのことに気づいた。
「ああ、これ?大丈夫よ。大した力なかったから少し赤くなってるだけよ」
「でもリリーのかわいい顔が…後で王宮の治癒師に治癒魔法をかけてもらうわ」
パトリシアがリーリエの手をぎゅっと握った。
自分で自分に治癒魔法をかけることは、効率が非常に悪くて、この程度なら放っておいた方がいいくらいだったのだ。
リーリエは大袈裟なパトリシアに癒されながら、ライハートたちが戻って来るのを待っていた。
お読みいただきありがとうございました!もう一人の転生者パトリシアから明かされる衝撃の事実……次回も引き続き、この世界の鍵を握る【前世のあのお話】の続きをお届けします!次回の投稿は、今夜の【20時10分】です!木曜日の朝のグランドフィナーレに向けて、ここから毎話見逃せない展開がノンストップで続きます。★完結に向けて、最後の応援をお願いします!★「続きが気になる!」「リーリエの呆然っぷりがかわいい!」と思ってくださった方は、ぜひ下にある 【☆☆☆☆☆】を★★★★★(満点) にして応援していただけると、執筆のパワーになります!
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